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第85話 最後尾は知っている

 

 疲れている。


 疲れ果てている。


 まさに満身創痍(まんしんそうい)というやつである。


「いやぁ~、着いた着いた! 流石、私!」


 黒いビキニで、ボンキュッボンを隠し切れていない……もとい、元々隠すつもりがないピクリンさん。


 ヘトヘトになっている僕たちをよそに、ご機嫌な彼女は自画自賛をブチかましている。


「はぁ……。ボク、雷って苦手だなぁ……」

「怖かったですね……」


 と、クラリィとコルネットさんは放心状態。

 天使族の二人とも、相当怖い思いをしていたよう。


 なぜなら、あのニトロの加速のすぐ後、老人の雷魔法――追尾機能付きが、僕たちの背後から襲い掛かってきたからである。


「かなり人数が減っちゃったねぇ」


 僕は、周囲の平原を見渡し、そう呟いた。


 ここは、老人が立っていた崖とは遠く離れた、アッシュランドの端っこ。


 平原の向こう側、山頂付近には、魔王城が(そび)えているのが窺える。


「まぁ、落ちたやつらも、トランポリン部隊がいるから平気だろう!」と、楽観的なピクリンさん。


 僕たちの後ろを必死に付いてきていた、名も知れぬ飛竜部隊は全滅。


 まばゆい稲妻にうたれ、地面で待つトランポリン部隊のお世話に。


 助かったメンバーはというと――


「俺さまの飛竜テクニックにかかれば、雷なんてアレだ、アレ。…………まぁ、余裕だったな!」


 雷の上手い例えが、すぐに出てこなかったらしいドネオ。

 彼は、イチノセの隣で、ピクリンさんにも負けないくらい自画自賛している。


 が、僕は知っている。


 何故だか分からないが、稲妻がドネオの乗っている飛竜を襲わなかっただけのことだ。


 彼の飛竜テクニックは、フラフラで、素人目からでもはっきりと分かるくらい酷いものだった。


「な、イチノセ!」


 そんなドネオに言葉を投げかけられているイチノセ。

 彼は、まるで何事も無かったかのように、立ったまま目を伏せ、静かに瞑想(めいそう)している。


 が、僕は知っている。


 彼が、だれよりも勇敢に、背中に装備されている大剣で、あちこちから襲い来る雷を切り裂き続けていたことを。


「ボクたちには、ギリギリ雷が届かなかったみたいだね」と、ほっとした様子のクラリィ。


 が、僕は知っている。


 先頭を飛行……というか爆走していたニトロに乗っていた僕たちにも、無論、老人の放った雷は襲い掛かってきていたことを。


「雷鳴だけは、物凄かったんだけどな!」と言って、ハハハッと笑うピクリンさん。


 いや、雷鳴だけではない。

 実際に雷は、一番後ろに座っていたこの僕を(かす)めたりもした。


「とにかく、みんなが無事で安心しました……」と、コルネットさんの優しい声。


 みんなが無事だったわけではない。


 最後尾の僕は、ちょっと感電した。


 なんなら、ズボンが一部焦げた。


 今も少しスースーしている。


 寒い。


 こんなことならヴィオラから天鏡(てんきょう)の盾を借りておきたかった……。


 あらゆる魔法を反射すると言われている、太古の十神器の一つ……。


 そして、それをお尻に敷いておきたかった……。


 ただ冷静になって思い返してみれば、『憤怒(ラース)殺し(キラー)』は、僕たちを仕留めようと思えば仕留められたんじゃないとも思う。


 本当にギリギリのところ。


 僕のプリケツを痺れさせるだけ痺れさせて、パッと消滅した稲妻。


 ……。


 不思議である。


「う~ん。けどさぁ。私、なんだか誘い込まれたような気もするんだよねぇ……」


 豊かな胸の前で、腕を組みながら名探偵モードに入ったヴィオラ。


 今の彼女の装い――肌の露出が多いライトアーマー姿ではなく、地味なコート姿に、帽子、パイプなどを(くゆ)らせていれば、探偵としてかなり様になっているはずだ。


「お爺さんもそう思うでしょ?」

「確かに」


 いつの間にか、ヴィオラの隣に知らない老人が立っていた。


 ……。


 って、えっ!?


 このお爺さん……。


 さっき雷の魔法を放っていた……。


憤怒(ラース)殺し(キラー)』じゃない?


お読み頂き、誠にありがとうございます。

気に入って頂けていたら嬉しく存じます。


次話、『第86話 老人が招く混乱』は、明後日の朝、午前中の投稿となります。

引き続きお楽しみ頂けたら幸いに存じます。


【お知らせ】

現在、隔日で投稿している本作ですが、12月29日~1月5日まで、毎日投稿しようと考えております。

年末年始、ご多忙のところ誠に恐縮に存じますが、お付き合い頂きたくお願い申し上げます。

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