第83話 フライ トゥ ザ スカイ
「じゃあ、いってらっしゃい!」
「留守番は任せて! ちゃんとあの子のことも見ておくから!」
頼もしいと言ってしまっていいものか分からないけど。
お姉さんたちとヘルサに爆睡中のレトをお願いすることにして、僕たち一行は、ピクリンさんの手引きでニトロの背中へ。
先頭は、もちろん乗竜階級の騎族であるピクリンさん。
二番目には、ワクワクが止められない様子のヴィオラ。
その後ろに、少しご機嫌斜めのクラリィ。
さらに、その後ろに、コルネットさん。
そして、一番後ろを仰せつかったのは、この僕。
先程、枕営業の意味を知った卑猥裁判官クラリィによって、バッチリ有罪判決を下されてしまった僕である。辛い。
そんな感じで、縦一列になっている僕たち。
アッシュランドに、こっそり侵入したい勢。
「わぁーーい! ワクワクするーー! 飛竜だよ! 飛竜の上位種だよ!」
ヴィオラの口から、わぁーーい! などという叫び声が聞けるとは。
もうかなり彼女の興奮の度合いが高まっている証拠だろう。
「よーし! 準備オッケー! さぁ、みんな! 前の人に掴まってくれ!」
と、ピクリンさんが、ニトロの手綱を握りながら、こちらを振り返って言った。
その表情は、真剣そのもの。
そんなピクリンさんの露出度の高いお腹まわりに、ガバッと大胆にしがみつくヴィオラ。
クラリィも、ヴィオラのライトアーマーの隙間、素肌の部分に手を回す。
コルネットさんも同様に、クラリィを丁寧にギュッと。
そして、思春期の極みである僕。
アワアワと不審な挙動で、まだコルネットさんの身体に掴まることができずにいた。
しまった。こんなことなら、天界城の図書館とかで、もっと紳士的なスキンシップの方法を学んでおくべきだった。
いきなり実技試験は心の準備が……などと、僕が狼狽していると――
コルネットさんが僕の腕を掴み、そっと自分の胴に寄せた。
細く引き締まった括れのある胴回り。
鎧コルセットの滑らかな手触り。
天使である彼女の純白の羽が、僕の顔に近づく。
艶のある藍色のストレートヘアが、僕の目と鼻の先でさらりと流れて。
「スローくん。しっかり私を掴んでいて下さいね」
「ええ、助かります。それでは失礼致します」
冷静さを保ちつつ、まるで本物の紳士のように、コルネットさんに抱きつく僕。
しかし、この堅苦しい返答からも分かるように。
僕の緊張感は、冷静さだけではなく、しっかりと先程の不審さをキープしている。
もう十二分に不審者。それも完璧に仕上がったヤツ。
有罪確定。ギルティー間違いなし。
「それじゃあ、出発! 行くぞーーー!」
「おーーー!」
ピクリンさんの号令に合わせて、ヴィオラが右手を上に突き出し、元気よく叫ぶ。
クラリィも内心楽しんでいる様子で、「お、おー!」と小さく掛け声。
取り敢えず、“クラリィ怒りの卑猥認定”の状態から、機嫌が直ったみたいで喜ばしい限り。
彼女たちの声を聞いて、みんなを背に乗せるため低く地面に伏せていたニトロが、四つ足で立ち上がる。
いよいよだ!
ハイ・ワイバーンの飛行ともなると、きっともの凄く力強い羽ばたきなんだろうなぁ!
僕も若干興奮気味で、そんなことを思っていると――
ニトロが、四つん這いの状態のまま、ふわりと宙に浮き上がった。
「えっ? ニトロ、羽ばたかないの?」と、僕が驚くと。
「そうだぞ? ワイバーンの上位種ともなれば、魔法で空を飛ぶ!」と、ピクリンさんが自慢気に胸を張った。
……羽の意味とは?
完全にお飾りと化したニトロの両翼を眺めながら、風や揺れがないのなら、これもまた一興、と、僕は冷静であろうと努めた。
というのも。
コルネットさんとの近接で、僕の脳の容量はMAXだったから。
鎮まりたまえ! 鎮まりたまえ! と、興奮で荒ぶる鼻息を必死に抑えている間。
漂ってくるコルネットさんの羽や髪の優しい香りを大量に吸い込んでいたのは、絶対に気付かれてはいけない。
卑猥と変態のダブル受賞は避けたい。
雑木林の上空から王都アセトンの方角を見ると、飛竜の部隊がかなりの広さで展開していて、もういつ戦闘が始まってもおかしくない状態だった。
夜空を支配する物々しい雰囲気。ピリつく緊張感。
でも、そんな些細なことを構っている余裕など、今の僕には全く無かった。
正気を保つので精一杯だった。
そんな思春期特有の青臭い葛藤の中、僕たちのフライトタイムが今、始まった!
お読み頂き、誠にありがとうございます。
気に入って頂けていたら嬉しく存じます。
次話、『第84話 ロマン飛行?』は、明後日の朝、午前中の投稿となります。
引き続きお楽しみ頂けたら幸いに存じます。




