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第7話 光ある朝の一幕

 僕のような、どこの馬の骨かも分からない無能力者に対しても、客人として丁重な扱いをしてくれるバス王さま。マジ天使。


 いや、天使じゃなくて、天界王だけど。


 そんなことを思いながら、僕は雲のようにふかふかな白いベッドから、むくりと起き上がった。


 窓の外から、やわらかな朝の光が射し込んでいる。


 枕元の小さな机の上には、僕の着替えとして、天使たちが普段から身に(まと)っている、標準的な白いローブが用意されていた。


 まるで実家のような安心感である。


 僕はぐぐっと伸びをしながら、昨日のことを追想する。


 あのバス王との謁見の後、シャワールームまで完備されているこの豪華な客室までヴィオラに案内してもらい、僕は、名も知らぬ天界城の皆さまから、それはそれは大層なおもてなしを受けた。


 飲めや歌えやの騒ぎではないにせよ、大きなベッドのある広い個室に次々と運ばれてくる見たこともない料理の数々は圧巻だった。


 もうテーブルが一杯になってしまっていた。


 身の周りの調度品もゴージャスで、ファビュラスで、マーベラスで、どれも趣向を凝らした(ぜい)の極みといった様相を呈していた。


 ただこれは、僕が明日死んでも悔いが残らないように、というバス王の粋な計らいなのかもしれない。アーメン。


 すると、コンコンというノックがあり――


「スロー、おはよう!」と、元気な声でヴィオラが入ってきた。


 寝起きの一番に見るには、非常に贅沢なプリティフェイスである。


「眼福なぁ……」

「えっ?」


 ヴィオラの頬が薄く赤色に染まった。


 おっと、心の声がダダ漏れになっていた。


 ただ、もっと厳密に言えば、僕はボーっとしていて、彼女のノックに対する返事をしていなかったから、僕のプライバシーもダダ漏れになっていた。


 鍵のない客室における、コンコンからガチャまでのタイムアタック。


 まるで実家のような危機感である。


 着替えとかの最中じゃなくてよかったと思う。


「おはよう、ヴィオラ」


 僕は平静を装って挨拶を返す。


「これから、僕はまたバス王のところに行かなきゃならないんだよね?」

「うん……。でも、安心して! スローの身に何かありそうだったら、私がなんとか、バス王さまに口添えしてみるから!」


 ヴィオラ……。


 いや、ヴィオラさま……。


 もう彼女の銀灰色の鎧の後ろから、後光が見える……。


 ありがたや……。


 と、パジャマ姿のまま、無言で彼女を拝み倒す僕。


 その姿は、彼女の目にはどこまでも怪しく映ったはずだ。


 だけど、彼女は、どうして僕みたいな青二才に優しくしてくれるのだろうか。


「ありがとう。ヴィオラって優しいんだね」

「へっ?」


 彼女の頬の色が(にわか)に濃くなった。


「あ、あの、この天界で、人間さんって珍しいから……つい嬉しくって」


 ヴィオラの背中に羽が生えていないことを思い出す。


「ヴィオラも、人間なの?」

「うん。私、実は人間さんの捨て子なんだ。赤ちゃんの頃からずっと、天界城で育ててもらってたの」

「そうだったんだ……」


 しまった、触れてはいけない話題だった、と僕は少し狼狽(うろた)えた。


「けどね。天使のみんなは、私が人間さんでも、いつも優しくしてくれてるんだ! バス王さまも!」


 センシティブな話題にまごつく僕に気が付いたヴィオラ。


「ふふっ。なんでも、私。ずっと昔に亡くなった王妃さまに似てるんだって!」


 健気にも、そんな冗談を言ってくれている。


 しかし、その表情は、どこか寂しそうにも見えた。


 やはり、この天使ばかりの天界で、自分だけ羽が生えていないというのは……。


「あのさ、ヴィオラ。僕も、ヴィオラに何かあったら、絶対力になるから! あの……、その……、ほとんど無力ですけど」


 本当に無力極まりないですけど……。


 けど、それでも。


「うん! 頼りにしてるね!」


 彼女の表情に本当の笑顔が戻ったみたいだったので、僕は満足だった。


 そして、僕たちは覚悟を決めて、再び謁見の間へと向かうのだった。


本日も夕方頃に、もう一話投稿する予定です。


楽しんで頂けたら幸いに存じます!

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