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第78話 二つの爆弾

 

 アセトン城内は、元英雄(フォーマー)の一人『憤怒(ラース)殺し(キラー)』との決戦が近いということもあり、腕に覚えのある勇戦の士が、各地から集まってきていた。


 そんな中、僕たちは志願兵の受付ではなく、関係者との面会希望ということで、玄関ホールのすぐ隣にある小さな待合室で、ピクリンさんを待たせてもらっていた。


「ねぇ、スロー。ピクリンさん来てくれるかなぁ?」


 ソファーに腰掛けながら、寝てしまったレトの頭を撫でているヴィオラがそう言うと、膝枕されているレトのスモークブルーの癖っ毛が、サラサラと揺れた。


「う~ん。どうだろう。急な話だし、賭けみたいなところがあるからなぁ」


 特にアポイントを取っていないので、ピクリンさんが不在ということも充分考えられる。


 流石に準備不足だったかなぁ……。


 と、僕が不安になり始めた、そのときのことである。


「ピクリンさま。ご友人がこちらでお待ちです」


 若い男の声と共に、待合室の扉が開かれた。


「お~! 誰かと思ったら、やっぱりヴィオラたちじゃないか! 久し振りだなぁ!」


 そこに立っていたのは、見覚えのある乗竜(じょうりゅう)階級の騎族(きぞく)の女性だった。


 肩のあたりで少し内向きにカールしている薄いピンク色の髪の毛。

 黒色のビキニに、首で止めるタイプの黒いマント。

 下半身は、限界を攻めたマイクロミニ。


 この格好は、アウトかセーフで言えば……。


 ギリギリセーフ……なのか?


 ありがとう、キミはもう下がっていいよ、と引率の兵に礼を言った後、露出度の高いピクリンさんが、嬉しそうに笑みを浮かべ、こちらに近づいてきた。


「ピクリンさん、久し振り! 元気にしてた?」

「おお、元気元気! ヴィオラも元気そうだなぁ!」

「うん! 元気!」


 ヴィオラが、素の笑顔で再会を喜んでいる。

 それを見ていると、僕もなんだか胸が熱くなってきた。


 けど、別れ際、ピクリンさんにインベントリー・ポーチを盗まれたことは許したのだろうか。

 あらかじめ魔力核を抜いておいたから、アイテムの実害は無かったけど。


「スローも久し振り!」

「久しぶりだねぇ!」


 僕が挨拶を返すと、ピクリンさんの視線が、ヴィオラに膝枕されているレトの元へ。


「……どうした、クラリィ。なんか、ちっちゃくなってないか?」

「いや、クラリィじゃないから」


 僕のツッコミの声に、目を覚ましたレト。

 目を(こす)りながら起き上がり、そばにいるピクリンさんを見るなり、一言。


「……儀式?」


 確かに、今のピクリンさん。アマゾネス並みに肌の露出が多いけど……。


 それに、一緒に旅をしていたときよりも、なんか衣装が大胆になってるけど……。


 ……というか。お胸さまが、ほとんど丸出しになってるけど!?


 よくよく考えると、予断を許さぬほどの布面積で、辛うじて保たれている風紀。

 この待合室の雰囲気は、完全にピクリンさんの支配下にあるといっていい。

 彼女の気分次第で、健全にも不健全にもなりうるベリーデンジャラスな空間。


 ちなみに現状は、限りなく健全に近い、不健全な環境である。


「なぁ、スロー。儀式ってなんのことだろう?」


 前屈みになって、ジリジリと僕に詰め寄るピクリンさん。


 その姿は、アウトか変態かっていうと……。ギリギリ両方。


「大丈夫。アマゾネスたちの業界用語だから、気にしないで」


 僕の返事に安心したのか、ホッと胸を撫で下ろすピクリンさん。


「へぇ。この子、アマゾネスなんだね」

「レトちゃんって言うの。最近一緒に旅をするようになったんだよ!」

「そうなんだ。ちなみに、スローとはどういう関係なの?」


 ピクリンさんが、ヴィオラにそう尋ねると、隣に座っているレトが――


「スローはね。ワタシのモノなんだよ?」

「はぁ~。モノねぇ~。スロー、こんな可愛い子を奴隷にしたのかぁ? そっち系だったわけね。道理で私の色仕掛けが効きにくいと思った」

「違うから! 逆だから!」


 逆でも、充分おかしな話だけど。


 そう思いはしたものの、すぐさま僕はピクリンさんの誤解を訂正した。


 しかし――


「逆~? 逆って、どれの逆だろうなぁ~」と、挑発的に呟くピクリンさん。


 ……。


 強いて言うなら、全部である。


 レトは、奴隷にしていないし。

 僕は、そっち系でもないし。

 その色仕掛けは、僕に効く。


 ただ、そんな無謀なことを言えるはずもなく。


 助けを求めようとヴィオラの方に視線を向けると。


「ちょっと面白そうだから……静観しとくね」

「いや、助けてよ!」


 僕に追い打ちをかけるようなヴィオラの真剣な表情を見て、僕は早々に彼女に見切りをつけ。


 ピクリンさんの豊かな二つの爆弾を支えきれず。


 もう限界、ダメかも、と今にも悲鳴を上げ、爆発しそうな左右のパツパツの黒ビキニを。


 しっかり気に留めながら、僕は、本題――今日ピクリンさんに会いに来た理由について話すことにしたのだった。


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「――それで、一度『嫉妬(エンヴィー)』の厄災に遭遇したことのある人が、魔王城の周辺が怪しいって言うんだ」

「はぁ、スローたちはここに来るまで大変な旅をしてきたんだねぇ。しかし、誰なんだ? その『嫉妬(エンヴィー)』の誘惑に打ち勝ったって豪胆なヤツは」

「あぁ、ええっと……」


 僕は言葉を詰まらせた。


 アセトニド王国は、元英雄(フォーマー)たちを討伐しようと躍起になっている国だ。


 もし、僕が今、リオンさんのことを教えてしまえば。

 彼とアマゾネスたちのジャングルでの平穏な生活が、アセトニドの兵力によって壊されかねない。


 それに、無事に性衝動を取り戻したリオンさんは、もう世界を暴れ回る元英雄(フォーマー)の一人、『色欲(ラスト)壊し(ブレイカー)』ではない。


「まぁ、誰でもいいか」と、ピクリンさん。


 彼女が興味を失ってくれてよかった、と僕は心の中でガッツポーズ。


「……よし、分かった! スローたちがそこまで言うのなら、お姉さんがアッシュランドまで乗せていってあげよう。……ヴィオラのインベントリー・ポーチのお()びも兼ねてね。正直、あれはスマンかった」


 はっ! 覚えていた!


「けど今は、状況が状況だからねぇ。安全に、とはいかないよ。もうあんたたちも知ってるとは思うけど、今、魔王城には元英雄(フォーマー)の一人が住んでるんだからね」


 その言葉に、黙って頷く僕とヴィオラ。


 こうして、僕たちは、時間と集合場所だけを決めて、ひとまず解散することになった。

いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。

応援感謝致します。気に入って頂けていたら嬉しく存じます。


次話、『第79話 見上げる緊急事態』は、明後日の朝、午前中の投稿となります。

引き続きお楽しみ頂けたら幸いに存じます。

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