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第77話 レトの社会科見学

 

 僕たち留守番しない組は、ヴィオラの手腕(?)によって女性門兵を籠絡(ろうらく)し、王都アセトンへの侵入に成功していた。


「思ってたより人が多いなぁ!」


 僕の驚嘆(きょうたん)の声は、たちまち城下町の雑踏に()き消された。


 元英雄(フォーマー)の一人が目と鼻の先に迫っているという危機的な状況にも関わらず、王都の中心を走り、城へと真っ直ぐ続いている大通りは、異様な賑わいをみせていた。


 しかし、それは、純粋なアセトンの住民というより、戦いで一旗揚げようと考えていそうな者や、商魂(たくま)しい者たちによって成り立っていた。


「折角アセトンまで来たんだから、ピクリンさんに会いに行きたいね!」


 ヴィオラが、大通りの先に(そび)えているアセトン城を見上げながら言った。


「そうだね。取り敢えず、あそこのお城まで行ってみようか」と、提案する僕。


 ヴィオラ姫には決して逆らってはいけない、と門前での一件から内心ビクビクなのである。


 インベントリー・ポーチ内の何かによって、背任行為に身を染めさせる能力。

 ヴィオラには、僕なんかよりもずっと、堕落のスキルが備わっているように思えた。


「うん! じゃあ早速行こう! 竜車のみんなを待たせすぎないようにしなきゃ!」と、(はず)む口調のヴィオラ。


 気持ちを新たに、ズンズン大通りを進んでいくと、お祭りというわけでもないのに、道の両側にいくつも屋台が出ているのが見て取れた。


 キョロキョロしながら歩く僕たちに、その屋台の店員たちが気さくに声を掛けてくる。


「ほら、お嬢ちゃん。おいしいよぉ~?」

「ねぇヴィオラ、ワタシこれ食べてみたい!」

「うんっ! お姉ちゃんに任せなさいっ!」


 わぁ……。ヴィオラ、超お姉さま……。


「お嬢ちゃん! こっちの屋台も見においで!」

「すごぉい! これ、いい匂い!」

「レトちゃん、これも買ってあげるっ!」

「ありがとう! ヴィオラ、好き!」


 いや、ヴィオラ! すぐ寄り道するじゃん!


 問答無用といわんばかりに、次々とレトに餌付けしていくヴィオラ。

 その様子を、何も言わずただ黙って眺めている従者の僕。


 そう。彼女には、文字通り問答など無用なのである。


 それから彼女たちは、屋台や露店、挙句の果てには店舗を構えているよろず屋までお邪魔し、一通りウィンドウショッピングを楽しんだ後。


「はっ! しまった! お城に行かなきゃだった!」

「ふぅ。ワタシ、もうお腹いっぱい!」


 我に返りし者ヴィオラ。そして、腹(こしら)えし者レトへと進化を果たした。


 二人からすっかり存在を忘れられている僕はと言えば。


 付き従し者スローから、暇を持て余し、ただ足疲れし者スローへと無事に退化を果たしていた。


「ごめんね、スロー待たせちゃった……」

「いえいえ。レトにもいい社会科見学になったんじゃないかな」

「ほんとにごめんっ! これ、お()びに……」


 そう言って、申し訳なさそうにヴィオラから手渡されたのは。


「ブレスレット?」

「うん……。さっき装飾品を売ってるお店で、レトちゃんと選んだの……」

「ワタシも選んだんだよ!」


 それは、特に宝飾などがされていない、シンプルな銀のブレスレットだった。

 手首に付けてみると、細いブレスレットの表面に紋章が二つ刻まれているのが分かった。


「ありがとう! どう、似合うかな?」

「わぁ、いい感じ!」

「スロー、いい感じー!」


 嬉しい……。二人ともありがとう……。

 ショッピングに夢中で、僕のことなんて忘れられていたかと思ってた……。


 感慨に浸りながら、僕は一つだけ気になったことを尋ねてみた。


「ねぇ、ヴィオラ。こことここに刻まれてるのは何の紋章なの?」

「それはね、私たちがお店で選んだ魔法が付与されてる証なんだよ!」

「えっ? じゃあ二つも付与されてるってこと?」

「そうなの! 私が選んだ分とレトちゃんが選んだ分で、二つ!」


 お洒落なシステムだな、その装飾品屋さん。

 この異世界の感じ……! オラ、ワクワクすっぞ!

 凄いなぁ。この紋章、一体どんな効果なんだろうなぁ。

 物理防御アップとかかな? それとも魔法耐性アップとかかな?

 安眠とか筋力アップとかでもいいなぁ……。


「ちなみにだけど、こっちの紋章は何の魔法なの?」

「それは私が選んだやつ! それはねぇ、健康運アップなんだよ!」


 ……。


 多分それ、スピリチュアル商法のやつじゃない?


 嬉しいよ? 確かに嬉しいんだけど……。


「あのね、あのね! ワタシのはね! 子宝運アップ!」


 オンギャア!? 子宝!?


 自分、ちょっと疲れちゃったんで、バブらせてもらってもいいですか……?

 一旦、イヤイヤ期、突入させてもらってもいいですか……?


「へぇ、そうなんだ! 本当にありがとう。大事にするね!」


 二人にブレスレットつけた腕を披露しながら、僕は紳士として、疲れや甘えなど寸毫(すんごう)も見せず、どこまでもエレガンスに謝意を伝えた。


 こうして、感情を(もてあそ)ばれ。

 (ラック)系統のステータスだけ、ダダ上がりし。

 心の中で幼児退行――オギャ・バブりし者スローへと変貌を遂げた僕だったが。


 彼女たちからのプレゼントに満更でもない感情を覚えている、王都アセトンでの昼下がりだった。

いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。

気に入って頂けていたら嬉しく存じます。


いよいよ第三章が始まりました。

次話、『第78話 二つの爆弾』は、明後日の朝、午前中の投稿となります。

引き続きお楽しみ頂けたら幸いに存じます。

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