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第76話 お主も悪よのう……

 

「通行証を見せろ!」


 王都アセトンの外周を覆う高い防壁には、門が一つだけある。


 現在、僕たちは、そこを取り仕切っている女性の門兵に行く手を(はば)まれている。


「中にいる友達に会いに来ただけなんだ……ダメ?」

「ダメだ! 通行証を見せろ!」

「通行証なんて持ってないなぁ……」

「じゃあここは通せん! 帰れ!」


 圧が凄い。


 強圧的な彼女は、その圧巻のスケールを誇る二つのダイナマイトを鎧で抑圧しているつもりみたいだが、こちらを威圧するように胸を張っているので、その重圧に耐えきれず乱高下を繰り返す僕の血圧。


 圧倒的な仁王立ち。高圧的な態度。


 文字通り、門前払いである。


 どうやら空に浮かぶ島アッシュランドの接近を許した王都アセトンは、厳戒態勢真っ只中であり、大々的に入都者の規制を行っているらしい。


 無理矢理通ろうとして、僕たちが天界城からの一行だということがバレてはいけない。


 “ナイスなバディには逆らわない方がいい。”という、僕の人生哲学を参考にしたわけではない。決して違う。


 暴れる鼓動を鎮圧し、邪な煩悩を制圧し、(みなぎ)る視覚的探究心に弾圧を加えて冷静さを取り戻した僕の脳を働かせると。


 これはこっそり菓子折りでも持ってこなきゃダメな案件かもしれない。


 ここから少し離れたところで待機してくれている竜車のみんなを想像し、「一旦、留守番組のところに戻らないといけないかなぁ……」と、僕が小さく呟いた。


 そのとき――


「ふふふ……。何も心配いらないんだよ……」


 そう言って、ヴィオラが悪い顔をした。


 それは、かつて彼女がトレマックの宿屋で見せた悪代官の表情である。


 絶対に今、何かよくないことが起ころうとしている……。


「すいません、門兵のお姉さん。ちょいと、こちらへ……」

「なんだ、お前は!」


 ヴィオラは一流俳優のように顔色を変え、一転してキラキラ美少女スマイル。


 女性門兵を引き連れて、城門の隅っこへと行ってしまった。


 ヴィオラ……。何をする気だ?


 すると、死角になった門の陰から何やら怪し気な会話が聞こえてきた。


「い、いや、そんなものでっ! ここが通れると思うな!」

「ほれ……」

「ダッ、ダメだから……。ダメだと言ったらダメ……」

「ほれ、ほれ……」

「ダメ……」

「ほれ、ほれ、ほれ……」

「くっ! 殺せっ!」

「ほ~れほれ……」

「ッ~~~~……!!」


 得体の知れない不気味な応酬の最後に、門兵の声にならない叫び。


 (しば)しの沈黙の後。


「お主も悪よのう……」


 印象的なヴィオラの決めゼリフが聞こえてきた。


 ……暴圧かな?


「スロー、レトちゃん、お待たせ~!」


 そして、何もなかったかのように、こちらに手を振りながら再び姿を現したヴィオラ。


 その後ろには――


「どうぞ……お通り下さい……」


 フーフーと肩で息をしながら、ヴィオラに続く門兵。

 彼女の上気した頬は薄く桜色に染まっており、目はトロンとして(うる)んでいるものの、どこか恍惚(こうこつ)的で、幸せそうにも見える。


「ヴィオラ……一体、何してたの?」


 僕が、びくびくしながら尋ねると。


 ヴィオラは、最近新しく作り直したインベントリー・ポーチを、ポンポンと軽く叩き。


「全部、私に任せればいいんだよ……」と、イケメンボイスで僕に耳打ちをしてきた。


 (ひそ)かに賄賂(わいろ)のような金銭のやりとりでも行われていた……のだろうか?


 いや、待て。

 だとしたら、「お主も悪よのう……」と言うのは、黄金(こがね)色のお菓子を()()()()()()のはずだ。


 じゃあ、一体何があった……?


 ヴィオラは、彼女から何を受け取った?


 僕の頬に、一筋の冷や汗が流れる。


「儀式ぃ~?」と、無邪気に首を傾げるレトに。

「ん~? 儀式じゃないよ~」と、優しく返答しているヴィオラ。


 ……きっと、深い事情があったんだろう。怖くて知りたくないけれど。


 高温多湿のジャングルを抜けたにも関わらず、未だに露出度の高いライトアーマーに身を包んでいるヴィオラを見つめながら。


「ヴィオラには絶対に逆らわない方がいい」


 僕は改めて、それを胸に刻みつけたのであった。


 ブルブルと震えながら。

いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。

気に入って頂けていたら嬉しく存じます。


いよいよ第三章が始まりました。

次話、『第77話 レトの社会科見学』は、明後日の朝、午前中の投稿となります。

引き続きお楽しみ頂けたら幸いに存じます。

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