第75話 白昼の作戦会議
復活した厄災『嫉妬』を見つけ出すため、魔王城を目指し、旅を続けている僕たち一行。
熱帯雨林地帯を抜け、ようやく気候も安定したので、見晴らしがよく風の涼しい丘で竜車を停め、作戦会議をしている最中。
議題は、「魔王城の周辺をどうやって探索するか」である。
……。
まぁ、魔王城の周辺を探索するといっても。
何も勇者のように魔王を討伐するわけではないので、気が楽ではある。
「もっと気楽な旅だったらよかったのにねぇ」と、ヴィオラが疲れた表情で、晴れた空を見上げている。
魔王城というくらいだから、きっと周辺には危険がいっぱいだといっても。
そもそもその魔王自体は、約百年前にすでに討伐されてしまっているので、一安心である。
「心配だなぁ」と、クラリィが不安そうな顔で、遠くの景色を眺めている。
魔王オクタヴィス。別名、厄災『憤怒』。
一説によると、かつて多くの厄災の元凶となったくせにヘラヘラしている人間族に怒りを覚え、ピンポイントで人間族だけを滅ぼそうと大暴れした化け物みたいだけど。
逆に勇者オレゴンに打ち倒されてしまったそうなので、今なら魔王城周辺を探索するのも自由自在の気随気儘。
「絶対に気が抜けませんね……」と、どこか緊張気味のコルネットさん。
勇者オレゴン。現在の別名、『憤怒殺し』。
地上を騒がしている元英雄の一人である。
『憤怒殺し』は、魔王討伐後、空に浮かぶ島アッシュランドにある魔王城に住み着き。
理由は不明だが、以後、島に近づくものを全て破壊し、撃ち落としてきたらしい。
それも大丈夫。新たな仲間が加わった今の僕たちなら、全く問題ないはずだ。
「ワタシ、空飛べないよ?」と、褐色の肌、アマゾネス族の幼女レト。
フワフワと世界中を漂っているアッシュランドは今、ちょうど血気盛んな人間たちが集まっているアセトニド王国の王都に接近していて。
『憤怒殺し』と王都の守備隊が、互いにやり合う寸前のヒリヒリ状態が続いているという噂。
「ウワサによると、あのオーコクには、スローたちが少しだけ一緒に旅をしていたオンナがいるんだってなぁ! ピクリンとかいったギギ?」
普段からギギギと鳴く悪魔の縫いぐるみヘルサが、そう言って僕に情報の確認を求めてきた。
そう。
アセトニド王国は、6人の元英雄たちに対抗するため、軍拡を至上命題としている人間族の国家である。
そして数回、アッシュランドよりも遥か上空に存在する天界城の兵まで傘下に引き入れようと、飛竜を従え攻めてきた過去を持つ。
ピクリンさんは、そのとき天界城に捕らえられた人間族の残党であり。
ヘルサの言うように、僕たちが地上の旅を始めたとき、案内役として、少しの間だけ同行してくれていた乗竜階級の騎族である。
……途中で別れてしまったけれど。
「……そうだ! 王都にいるピクリンさんに頼んで、飛竜に乗せてもらおう! それで、アセトニド王国と『憤怒殺し』が睨み合ってる間に、こっそり島の中を探索しよう! そうしよう!」
僕は声を上げ、現実を見据える。
目の前に浮かんでいるアッシュランドと、少し先に見えるアセトニド王国、その王都アセトン。
「……って、そんなにうまくいくはずあるかーーい!」
楽観的な考えを持つ夢想家の自分と、悲観的に物事を捉える現実家の自分が、脳内で大衝突。その後の大爆発である。
「ギギッ!? スローが壊れたギギ!」
「あぁん? なんだとテメコラ」
僕の頭の上に乗っていたヘルサを冗談半分に捕まえ、その顔を半分に折り畳むと。
ただのじゃれ合いと察知したのか、「ムギィ、参ったギギーー!」と、ヘルサは、すぐさま棒読みで降参宣言をした。
しかし――
「こらっ! 二人とも、仲良くしなきゃダメでしょ?」
本気の喧嘩だと誤解したヴィオラが、まるでペットの躾かのように優しく窘めてきた。
「はいギギ……」
「すいません……」
素直に反省をする僕たち二人をよそに。
「う~ん。王都アセトンかぁ。ボクも行きたいんだけどなぁ」
「私たちは、少し危険かもしれませんね……」
と、天使の二人は暗い顔。
それもそのはず。
アセトニド王国へと帰っていたピクリンさんが残した手紙には――
「天界城との取引の材料として、みんなを誘拐する話もあった」と記されていたから。
僕たち全員は、ピクリンさん以外のアセトニド王国側の人間に、面が割れていないものの。
羽の生えた天使族であるクラリィとコルネットさんは、バレやすそうなので王都アセトンに入ってはいけない気がする。
「じゃあ、僕とヴィオラの二人で、王都を偵察しに行くっていうのはどうだろう?」と、僕がみんなに打診してみると。
「スローを見張ってたいんだけどなぁ。仕方ないかぁ……」
「私も、この身を挺してスローくんを守ってあげたいですけど……。我慢します……」
残念そうに項垂れる二人と、「オッケー!」と、天真爛漫なヴィオラ。
そして――
「ワタシは行くもん! スローは、ワタシのモノなんだから!」と、ジャングルでの一件から、ややこしい関係性のレト。
どうやら僕は、知らない間に、「彼女のモノとなる」儀式が成立してしまっていたみたいなのだ。
加えて、アマゾネスの先輩フィリーから、「みんなには私から言っておいてあげる」との了承があったらしく、レトは僕たちの旅にホイホイとついてきてしまったのである。
ヴィオラは、まるで妹ができたかのように、「レトちゃん、レトちゃん」と、彼女の後ろを追い回し、捕らえては溺愛しているが。
クラリィとコルネットさんは、レトが力づくで僕の貞操を奪わないかと、ハラハラドキドキしながら警戒してくれている。
ここで改めて、彼女たちと僕との関係を総合的に見てみると。
ヴィオラと僕は、飼い・飼われる関係。
クラリィと僕は、見張り・見張られる関係。
コルネットさんと僕は、庇い・庇われる関係。
天界城からの付き合いの彼女たち三人と僕は、こんな複雑怪奇な関係であるし。
レトなんて、所有・被所有の関係。
人権的に、これは全く穏やかじゃないし。
ヘルサに至っては、喰う・喰われる、捕食・被捕食の関係で、人権もクソもない。
……。
落ち着いて考えると。ヘルサ、ヤバすぎないか?
こんな混迷極まる関係を、もっと簡潔にまとめると。
ヴィオラのペット的存在で。
クラリィの監視対象で。
コルネットさんの庇護ないし保護対象で。
レトの所有物。
それが僕。
「よく分かんないけど、クラリィが一番健全な気がする」
と、僕は、そっと彼女の頭を撫でてあげた。
「ん~? どうした? もう寂しくなっちゃったのか?」
大人しく頭をナデナデされながら、嬉しそうに僕を揶揄ってくるクラリィ。
可愛い……。癒される……。
そして、ヘルサとの関係性が一番不健全だと思われたので。
僕は、そっとヘルサの頭を折り畳んであげた。
「ムギィ、まだ何も言ってないギギーー!」
その叫び声を聞いて、再びンジッと厳しい視線。
向こうから愛のある飼い主の眼光を放っているのは、碧眼の美少女ヴィオラ。
ヘルサにアイアンクローを極めていた手を急いで放し。
緑竜が空を飛べる種族だったら丸く収まるのになぁ、と夢想しながらミドリの方を見ると。
彼女は、ここまでの旅の疲れを癒すかのように。
竜車の前で、スピスピと眠っていた。
ごめんねミドリ……。
今度ちゃんと労ってあげるからね……。
僕が、反省の念を心に深く刻んでいると――
「あれ? 空に浮かぶ島、アッシュランド……? 私、何か忘れているような……。まぁ、いっか!」
ただでさえ不安なのに、更なる不安材料を投下するヴィオラ。
それが重要な情報ならば、是非思い出して頂きたいものである。
澄んだ青空の下、そんな僕たち一行の白昼の作戦会議。
いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。
気に入って頂けていたら嬉しく存じます。
いよいよ第三章が始まりました。
次話、『第76話 お主も悪よのう……』は、明後日の朝、午前中の投稿となります。
引き続きお楽しみ頂けたら幸いに存じます。




