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第69話 桃目の正体と銀髪の青年

 

「クシャミッ!」


 というクシャミを意識的に放つくらいには、僕は暇を持て余していた。


 僕は今、ジャングルの奥の奥、石でできたピラミッド型の遺跡の中に捕われている。


 ちょっとだけここで待っててね、と言って去っていった褐色の肌の少女レトによると、どうやら今夜、この遺跡で何らかの儀式が行われるんだそうだ。


 ここまで連れて来られる途中、ジャングルの中で、ヘルサを逃がし、シン・グーまで助けを呼びに行かせてしまったので。


 タオル一枚。静けさや孤独が、裸の身に()みてくる。


 天井にある吹き抜けからは、夕焼け色に染まる空が見える。夜が近い。


 暇つぶしに辺りを散策すると、遺跡の入口には大きな岩が置かれているようで、極細の僕の腕ではどうしようもないことが分かった。


 早々に脱出を諦め、薄暗い遺跡を見回すと、成人男性一人を横たわらせるに充分な祭壇が、いくつも並べられているのが視界に入った。


 生贄の儀式とかだったら嫌だなぁ……と、僕が全裸のまま、ネガティブな妄想を膨らませていると。


 その祭壇の一つに、若い男性が縄で縛られているのが目に()まった。


「大丈夫?! 生きてる?!」


 僕がその青年のそばまで走って行き、慌てて声を掛けると。


「んっ……。おや、キミも桃目に捕まっちゃったんだね。ご愁傷(しゅうしょう)さま」


 ニコリと笑いながら、冷静にそう言う青年は、なんというか……。


 男の僕が言うくらい、かなりの美形だった。


「ご愁傷(ごしゅうしょう)さまって……。僕が今、縄を(ほど)くから諦めないで」


 ついさっき、自分も遺跡から脱出することを諦めたばかりだというのに。

 僕は、同じ境遇の仲間ができたことにテンションが上がり、少しだけ偉そうに言った。


「あぁ、これね。こういう趣向も悪くないと思ってそのままにしておいたんだ」


 すると、ザクッという歯切れの良い音に続いて、祭壇に縛られていたはずの青年が起き上がった。


 伸びをする青年の腕から、縄の切れ端が落ちる。

 銀色の髪の毛がサラサラと(なび)き、色素の薄い瞳が涙に潤んでいく。


「ふぁ~~。よく寝た。キミ、名前はなんて言うの?」

「僕はスロー」

「スローくんかぁ。僕はリオン。よろしくね」

「よろしく……」


 そう言って互いに握手を交わすと、違和感があった。


 向こうは服を着ていて、僕は全裸にボディタオルのみ、という違和感ではない。


 リオンくんの右腕が金属でできていたことだ。


「あ~、驚かせちゃったかな。僕、こっちの腕だけ義手なんだ。っていうか、手だけじゃなくて、全身魔道具だらけなんだけどね。まだ寝惚けてて、いつも握手してる方の腕、間違えちゃった。ごめんね」

「ううん、全然大丈夫。こんなこと言うと失礼かもしれないけど、その腕、格好いいね」

「ははっ、ありがとう! この腕、さっきみたいに縄で縛られたりしてるとき便利なんだ」


 突然、僕の目の前で、義手の先端が音もなく鋭利な刃物に変形し、またすぐ元の手の状態に戻った。


 僕が驚きのあまり絶句していると。


「ん~? スローくん。なんだか寒そうな格好をしてるね。これを着るといい」


 リオンくんが、着ていた白シャツを脱ぎ、肌着姿になった。


「ありがとう。ほんとに助かるよ」


 上半身白シャツ、下半身ボディタオルの変態が爆誕したのだけれど。

 これで僕の体温の低下は、いくらか和らぐはずだ。


「ところで、スローくんはなんで桃目に捕まっちゃったの?」

「シン・グーの地下室に隠れてたんだけど、侵入してきた女の子に(さら)われて……」

「あぁ……。それは、お気の毒に……」

「リオンくんは?」

「僕はね。恥ずかしいんだけど、わざと捕まったんだ」

「えっ? わざと? なんで?」

「それはスローくん。ヤボな質問じゃないか」


 リオンくんは、そうはぐらかして。

 僕に、輝くようなスマイルをくれた。

 ただ、なんのことやら、さっぱりである。


「実のところ、僕。桃目がなんなのか、この遺跡で行われる儀式がなんなのか、まだ分かってないんだ」

「あれ? そうだったんだ。僕はてっきり知っているものだと思ってたよ。スローくん、桃目に連れてこられたんだろう?」

「いや、僕をここまで抱えてきた子の目は、全然ピンク色じゃなかったよ? 今年から儀式を見学できる年齢になったとは言ってたけど」

「その子、幼くてまだ桃目になってなかったんだよ、きっと。それでスローくんは縄で縛られてなかったんだな。初めての儀式で勝手が分からなかったんだろうね」

「そ、そうなの?」

「あのね、スローくん。桃目っていうのはね……」


 僕の身体に緊張が走る。


「このジャングルに生息しているアマゾネスたちのことなんだ」

「アマゾネス!?」

「彼女たちはね。一年に一度、ピンクムーンが近くなると、目の色がピンクなって繁殖期に入るんだ」

「は、繁殖期!?」


 僕は驚きすぎて、リオンくんの言葉を鸚鵡(おうむ)返しするしかなかった。


「それで、ジャングルの中から都合のいい男を連れてきて、ピンクムーンの今夜、この遺跡で一晩中生殖行為をするのさ!」

「生殖……?」

「あれ、分かんないかな? 哺乳類の生殖行為といえば、性交渉、交尾、子作りセッ……」

「ワーワーワー! 分かるから! 分かってるから!」


 自分……。リオンくんの品のあるハンサムフェイスからそんな言葉聞きたくないっす……。


 僕の焦りとは裏腹に、リオンくんはフフッと少しだけ意地悪な微笑み。


「彼女たちアマゾネスは、普段から身体能力が高いんだけど。桃目になったら、それの何倍も強くなるらしいんだ」


 僕は風呂場で体感したレトの力の強さを思い出す。


「体力だけでなく、攻撃力や防御力、スピード力。もちろん、精力も。僕ら二人だけで相手できる数じゃないから、二人とも搾り取られて死んじゃうかもね」

「ひえっ……」


 それで、ゴンザレスやシン・グーの男たちは、アマゾネスのレトに対して恐れ(おのの)いていたのか。


 僕もまだ死にたくはない。決して死にたくはないぞ。


 いや、待てよ。そうなると……。


「じゃあ、リオンくんは、その……。自殺……しに来たってこと?」

「いやぁ~、僕はねぇ。ちょっと自分を試しに来たんだ」

「ん?」


 自分を試す?


 ……。


 ヒーイズ、ベリベリZETSU☆RIN?


 ポワポワと頭の中に浮かんでくる、リオンくんの(ただ)れた性生活。

 そのイメージを、僕が猛スピードでデリートしていると。


「初対面で、こんなこと言うのもアレなんだけどね。実は僕、大昔に性欲を失っちゃったんだ」


 リオンくんが、更なる衝撃の事実を暴露した。


いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。

応援感謝致します。気に入って頂けていたら嬉しく存じます。


次話、『第70話 色欲の厄災を止めるということ』は、明日の朝、午前中の投稿となります。

お楽しみ頂けたら幸いに存じます。

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