第68話 褐色の少女レト
そこには、褐色の肌をした少女が佇んでいた。
クラリィよりも年下だろうか。
まだ10歳かそこらの幼い女の子が、ぱっちりとした目で僕たちを眺めている。
「おぉ~! オトコがいっぱいだぁ~!」
癖のある短めのスモークブルーの髪。
眉毛や、長い睫毛だけでなく、瞳の中の虹彩でさえも同じ色をしている。
と、そのとき――
「きゃーーーっ! 桃目が出たーーーっ!」
「ひゃーーーっ! こっち見ないでーーーっ!」
「おっかぁ、助けてーーっ!」
先程まで屈強な肉体を自慢し合っていた男三人が、甲高い悲鳴を上げた。
それを皮切りにして、秘密の園(♂)に、シン・グーの男たちの叫び声が轟く。
あちらこちらに逃げ惑う、筋肉の権化や具現化された男性ホルモンたち。
体格通り、ほとんど掠れきった野太い声の者もいれば。
風呂場全体に、見事なファルセットを響かせる者もいた。
そんな彼らの、うら若き乙女のような恥じらいまじりの脅え方に。
いや、大袈裟な……と、ただ僕は唖然とするしかなかった。
胸毛の生えた大男は、他の大男の背後に隠れ、筋骨隆々の下半身を、ボディタオルで見えないようにしている。
髪の毛の生えていない大男は、太い左腕で左右の両ニップルスを巧妙に隠蔽し、右手に持った風呂桶で、自身の致命的な部分を覆い隠している。
ふと気が付くと。
隣でシャワーを浴びていたはずのゴンザレスが、いつの間にか、入口から一番遠い湯船の隅の隅で、風呂桶を頭にかぶり、しゃがんでブルブルと震えていた。
なんだ? この子、そんなにヤバいのか?
それに桃目っていうけど、そもそも目の色、全然桃色じゃないけど?
様々な疑問が脳裏をよぎったが、僕の気持ちは恬然としていて、この状況に余裕さえあった。
何故なら僕は、天界城で二度、全裸の姿を女性に見られるという経験をしていたからだ。
一度目はヴィオラ。二度目はクラリィ。
どちらの場合も、この鋼鉄のメンタルで切り抜けてきた。
経験は嘘をつかない。僕には、そういう強い自負がある。
「キミが桃目なの?」
「ううん。ワタシ、レト。桃目じゃないよ?」
レトと名乗る少女は、平然とそう答えた。
経験則に従うと、こういう場合、ゴンザレスや他の男たちのように怯んだり恥じらってはいけない。
堂々と、さもこれが当然かのように。これがベストなのだ。
なんなら、この色白のプリケツでもパチンと叩いて威嚇するぐらいで丁度いい。
まぁ、やらないけど。とても卑猥だから。
「レトは、どうしてここに来たの? 迷って地下に降りてきちゃったの?」
僕は恥じることもなく、正々堂々と、惜しげもなく、ノーガードの構えで、褐色の少女レトと対峙した。
あいつ凄ぇ……。
俺には真似できねぇ……。
ファッキンクレイジー……。
などと、いくつかの声が、僕の背後から聞こえてくるが、全部無視だ。
こちとら羞恥心なんて天界城に捨ててきたわ。
「あのね。ワタシね。村の掟でね。オトコを連れてこないといけないんだぁ」と、レトは困った顔で、そう言った。
どこかこのジャングルの中に、シン・グー以外の村があるのか。
恐らく、その村からやって来たであろう少女レト。
獣の皮でできた露出の多い原始的な被服から、すらりと細い褐色の手足が伸びている。
レト自身も違うと言っているように、こんな大人しそうな少女が、村人たちから恐れられている桃目だとは、僕には到底思えなかった。
「それは今日がピンクムーンの日だから?」
「うん。村のみんなも今夜のために頑張ってオトコを探してるんだけど、最近は警戒されちゃってるみたいで、全然集まらないの」
「え~っと、その。男を集めてどうするの?」
「毎年大人たちが遺跡の中で何か儀式をしてるみたいなんだけど、実はワタシも知らされてないんだぁ。だからよく分かんないんだけど、ワタシも今年から儀式を見学してもいい歳になったんだって」
「儀式……」
怪しい。
儀式というワードは、もちろん怪しいし。
男の裸体を見ても一切動じないレトも怪しいし。
そんなレトに全てを解放し、産まれたての姿で涼しい顔をしている僕も怪しい。
結論、全部怪しい。
すると――
「おい、オンナ!」
ボディタオルで自分の背中をゴシゴシしながら近づいてきたヘルサが、レトに向かってガンを飛ばした。
「レトはオンナじゃないもん! レトはレトだもん!」
「スローもスローであって、オトコじゃないギギ!」
「えっ? オトコは、オトコじゃないの?」
「スローは、オトコじゃないギギ!」
「いや、僕は男だよ?」
「んん? スローは、オトコじゃないけどオトコなの?」
「僕はスローであり、男でもある……って、なんかややこしい話になってるから!」
三人の会話が複雑に交わり、哲学や禅問答のようなやりとりになる前に。
ここは早めに切り上げるべきだ、と僕が考えていると。
「オトコなんだったら大丈夫だ! じゃあワタシ、今から遺跡まで案内するね?」
「案内? どういうこと? 僕、連れてかれちゃうの?」
「うん! スロー、なんだか優しそうだから!」
褐色の少女レトは、僕を見上げながら、そう言うと――
ひょいと僕の身体を抱えた。
「えっ? 何っ? 離して離して!」
軽々と僕をお姫様抱っこしたまま風呂場を去ろうとするレトに、必死で抵抗してみるが。
「ちょっ! 力、強っ! っていうか、そんなの聞いてないから! ヘルサ助けて!」
「なんだかオモシロそうギギ!」
仰向けに抱えられている僕の上に、ボディタオルを持ったままヒョイと飛び乗ってくるヘルサ。
この一枚の短いタオル。
その位置によって、今後、僕の公然猥褻の度合いが大きく変わってくるはずなのだが。
今のところは、完全にOUTだ。残念ながら実刑は免れられない。
「せめて身体だけでも拭かせて!」
という僕の声は、オトコを遺跡へ案内できることにウキウキ状態の少女の耳には、一切届かなかった。
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次話、『第69話 桃目の正体と銀髪の青年』は、明日の朝、午前中の投稿となります。
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