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第67話 秘密の園(♂)

 

 どうしてこうなった……と呟きながら。


 僕は全裸だった。


「おお、坊主! おめぇ、その歳にしては少し痩せすぎなんじゃねぇのか?」


 僕をこの地下室まで案内してくれたご婦人の旦那さん――裸の大男ゴンザレスは、僕の貧弱な身体を値踏みするように眺めて、笑った。


「精進致します……」


 大きなお世話だと思いながらも、今夜一晩泊めてもらう手筈となっているので。

 僕は、まるで借りてきた猫のように恐縮しまくって応えた。

 もはや敬語である。


 ガハハハッと、複数の筋骨隆々とした裸体たちの豪快な笑い声が、狭い密室に反響する。


 視覚的には()せ返る程の男臭がしているものの、嗅覚的には優しいハーブの香りが漂っている。


 僕は今、裸の付き合いというものを体験している最中である。


 裸の付き合いといっても、これは決して卑猥(ひわい)なものではない。むしろ健全。

 健全なのだが、僕は、一刻も早くこの場から立ち去りたいとさえ思っている。


 ちらりと浴室の奥の方を見ると。

 シン・グーの男たちが、鏡の前で力こぶを出し、互いに屈強な肉体を競い合っていた。


 僕は、限りなく入口に近いシャワーで。

 目立たぬよう、目立たぬよう、なるべく身体の表面積を縮めるようにして、今日一日の汗を流している。


「シン・グーの男は、強く勇ましくなきゃ生きていけねぇんだ」


 と、隣のシャワーを使っているゴンザレスが、困ったように、それでいて少し自慢気に言った。


 ゴンザレスの背後、湯船から上半身が出ている二人のマッチョ。

 胸毛の生えた大男と髪の毛の生えていない大男との筋肉量を見比べて。


「ハハハ。皆さん、凄いですもんね……。ほんと凄い……」と、僕は乾いた愛想笑いをした。


「特にこの時期は、地下で内職以外することねぇから、筋トレ三昧だぜ」

「ピンクムーンとか言いましたっけ?」

「おうよ。一年に一度だけ、月が真ッピンピンに染まるピンクムーン。この日が近くなると桃目が出没するようになって、うっかり隙を見せた男は(さら)われちまうんだ」


 真ッピンピン……? (さら)われる……?


「それで身体を鍛えてるんですか?」

「いや、これは趣味だ! いくら鍛えても桃目には(あらが)えねぇからな!」


 趣味かい。


「その桃目っていうのは、どんな化け物なんですか?」と、僕は気を取り直して尋ねる。


「桃目はなぁ……。まぁ、あれだ。知らない方がいい。坊主は、まだ若ぇからなぁ」と、それに対し、急に言葉を濁すゴンザレス。


 なんだ? 僕の年齢では耐えきれない程の恐ろしさなのか?


 僕は、想像し得る中で最も恐ろしい化け物の姿を脳内に浮かべ、きっとこれ以上に恐ろしいモンスターなんだろうと、結論付けた。


 すると――


「ギギッ! スゴイなぁ、ここ! ムキムキマッスルアメイジングの巣窟ギギ!」


 ガラガラと風呂場の引き戸が開かれ、そこに悪魔の縫いぐるみヘルサが立っていた。


「よぉ、スロー! なんだか、オレに会いたがってたらしいじゃないか! ういヤツギギ! 近う寄るギギ!」


 秘密の園(♂)への道連れにしようとしていただけ、とは口が裂けても言えない。


「あぁ……まぁね。ところでヘルサ、ここまで一人で来たの?」

「うん。ヴィオラたちには黙って来たギギ!」

「ダメじゃん!」


 僕が叱ろうとすると。


 僕なんかよりも断然コミュニケーション能力が高いヘルサ。

 ここしばらくは、サラダチキンと卵の白身しか食べてませんと言わんばかりの。

 やたらと発達した筋肉の持ち主たちの輪の中へ、スタスタと。


「おう? 坊主の連れか?」

「珍しい縫いぐるみだなこりゃ」

「どういう仕組みで動いてんだ?」

「おお! おめぇも力こぶ出してぇのか?」

「やってみろ、やってみろ!」

「ガハハ! いいぞいいぞ!」


 などと、ものの数秒で打ち解けてしまった。


 ヘルサが湯船の縁で、力んでプルプルと震えながら、必死に腕の力こぶを出す仕草をしている。


 しかし、その腕は――というか、その全身は風呂場の湿気で、しっとりと濡れてしまっている。


 あらら。カビとかが生えないように、後で風呂上りにドライヤーで乾かしてあげないと。


 そんなことを考えている僕の脳裏に、一つの疑問が浮かんだ。


「お~い、ヘルサ。勝手に地下に降りてきたって言ってたけど、鍵はどうしたの?」

「鍵? これで開けてきたギギ!」


 そう言ってヘルサは、ふやけ切ったパッチワークの布の隙間から、小さな鍵を取り出した。


 ナイフの例に漏れず、その身体の中のどの部分に収納されていたのかは謎だが。

 見るからに高級そうな装飾が施された鍵である。


「魔法の鍵ギギ! タイテーの鍵ならこれでバチコリオープンギギ!」

「いや、そうじゃなくて。一人で入って来たんでしょ?」

「そうギギ」

「ってことは、外の鍵は……」


 僕が最悪のことを想像した瞬間――


 ガラガラと風呂場の引き戸が開かれ。


 そこに褐色の少女が立っていた。

いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。

応援感謝致します。気に入って頂けていたら嬉しく存じます。


次話、『第68話 褐色の少女レト』は、明日の朝、午前中の投稿となります。

お楽しみ頂けたら幸いに存じます。

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