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第62話 逃がすかよ

 

 膠着(こうちゃく)状態が動き出したのは、ヘルサが間合いに入った刹那(せつな)だった。


 物凄いスピードで回し蹴りを放つコルネットさん。


「グエーー!! コロされたギギーー!」


 下手な演技でそう叫び、岩壁まで高速で吹き飛ばされていく縫いぐるみのヘルサ。


 さらば、友よ……とも思ったが、すぐに気を取り直さければならない。


 僕は、コルネットさんの隙をつき。

 彼女の腕に怪しく発現されている呪印に触れ――


「堕落……」


 慎重にスキルを放った。


「んっ……。スローくん……。私……」

「大丈夫です。何も心配いりませんからね」


 力が抜け、今にも倒れこみそうなコルネットさんの肩を僕が支える。


 かつて天界城で、緑竜ミドリにかけられていた隷属の魔法を解いたときと同じように、半永久的に隷属効果を持続させるという()()()()呪印を堕落させ、解除することに成功した現在。


 コルネットさんの白くきめの細かい肌には、もうシミ一つ残っていない。


「呪印は消させてもらったからな! 観念しろ!」

「お、おい、お前! ボスの俺を裏切る気か?」

「いや。僕、元からこの団体には所属してないから」

「へっ?」


 行商人風の姿のボスは、ようやく現状を理解したようで。

 どちくしょうが、と呟いて、洞窟の出口に繋がっている通路へ、一目散に駆け出した。


 この場に残されたのは。


 壁際に寝転がり、「オレを置いて先に行くギギ……」と、どこかで聞いたようなセリフを棒読みしている大根役者ヘルサ。


 自分の足で立てるくらいまで回復したものの、こめかみ辺りを押さえ、かなり具合が悪そうに見えるコルネットさん。


 そして、戦闘能力ゼロの僕。


 今すぐには、ボスを追えそうもない。


 しかし、沸々と煮え立ち消えない感情。


 この爆発しそうな怒りを――


「逃がすかよ」


 僕はその場にしゃがみこみ、右手を地面にぴったりとつけ。


「堕落ッッーーー!!」


 部屋に反響する僕の咆哮(ほうこう)


 同時に、僕の右手が触れた部分を震源とする地鳴りを伴った振動が、猛スピードで洞窟を駆け抜けていく。


 よろめくコルネットさんを再び僕の手が支える。


「すいません、スローくん……」

「いえいえ。もう少しここでゆっくりしてから脱出しましょうか」

「ありがとうございます。……でも、もう大丈夫です」


 先程よりも顔色が良くなってきているコルネットさん。


 無事で本当に良かった。


 ……そう言えば、ヘルサはどうなったんだ?


「お~い、ヘルサ! 生きてる?」

「……ちょうど今、死んでるところギギ」


 大の字になったままピクリとも動かないけど、この調子だったらヘルサも大丈夫そうだ。


 緊張の糸が切れ、僕はほっと胸を撫で下ろす。


「それにしても、今のは……?」と、コルネットさんが尋ねてきた。


「あぁ、今のですか? 以前ライムラークで、古い遺跡がダンジョンになった、って噂話を聞いていたので、それを応用して、この洞窟もダンジョン化させられないかと思いまして」

「凄い……。この洞窟をスキルで堕落させたんですか……」


 それだけではなく、僕はその噂話から“ダンジョンには狂暴なモンスターが出現する”という知識も得ていた。


「集団で村全体を眠らせてから、コソコソ盗みを働くような卑怯なやつらです。きっと、あいつ一人じゃ、このダンジョンを抜けて出口に到達することなんてできませんよ」


 と、僕が自分の戦闘力の無さを棚に上げて、ボスのことを卑下した瞬間。

 タイミングよく、通路の奥からボスのものらしき絶叫が聞こえてきた。


 こうして僕たちは、盗賊団“微睡(スランバー)”から奪われた物を全て取り返し。

 ゆっくりと自分たちのペースで、ダンジョンを後にすることしたのだった。


◆ ◆ ◆ ◆ ◆


 ダンジョン化した洞窟からの脱出中。


 大体ボスの悲鳴が発せられたくらいの通路で遭遇した、透明なスライムの群れ。


 コルネットさんのビンタによって爆散した仲間を見て逃げ出した内の一匹が、()()()()()()()()()()()ことは見なかったことにしよう……。


 あいつだけトマトスライムとかそんな感じの種類だったんだろう。


 うん、きっとそうに違いない。




 そんな因果応報の夜だった。

いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。

応援感謝致します。気に入って頂けていたら嬉しく存じます。


次話、『第63話 プリーズ ノック オン ザ ドア』は、明日の朝、午前中の投稿となります。

お楽しみ頂けたら幸いに存じます。

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