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第5話 天界王バスと三人の姫騎士

 溢れんばかりに蓄えられた()の口髭は、ふわふわと柔らかそうで、まるでナマケモノの体毛のようだ、と僕は思った。


 ところどころクルクルとカールしている()の白銀の髪の毛。


 それは、同じ色をしている口髭と繋がっていて、その境界を明らかにしていない。


 ()せ返りそうな程に香り立つ、濃厚なゼウス臭。


 ときに、その()というのは、現在、王座についているにも関わらず、僕の目の前に(そび)えている――


 天界を統べる王のことである。


「我が名はバス。この天界の王である」


 見上げなければ表情を窺えない程、巨大な体格をしているバス王。


 彼は、その名の通り、バリトンよりも一段と低い声域――バスボイスで、そう名乗った。


 常人では確実に震え上がってしまうであろう威圧感である。


 しかし、そんなものは、鋼鉄のメンタルを装備している僕には効かない。


 ただ、僕の思考は、さらに深くへと(もぐ)っていく。


 これはビビっているわけではない。決して違う。


 ……。


 そして、たった今、僕は一つの確信をもった。


 天界の王には――


 胸元を(はだ)けさせなければならない、という暗黙のルールがある!


 これは絶対だ! 間違いない!


 ……。


 いやもう、全知全能の神オーラが(ただよ)いすぎて、逆に現実逃避先の空想の方が、現実味がある。


 ワシのような鋭い眼光と、ピューマのような実戦的な肉付き。


 まさしくナマケモノの天敵である。


「あー……。僕はスローと言います。多分、異世界への転生に失敗したみたいで、ここに残されちゃったみたいなんだ」


 飄々(ひょうひょう)と返答しているように見えるかもしれない。


 しかし、今の僕は、プリケツに牙を突き立てられ。


 それか、空の果てへと連れ去られている瞬間のナマケモノの心持ちだった。


 すなわち、無我の境地である。諦観ともいう。


「失敗……。スロー、お前には特別な能力があるのか?」


 低い。あまりにも低い。


 白い大理石の床を通して直接声の振動が伝わってきているような感覚に陥ってしまう。


 噛み合わされた僕の歯が、細かく震えてカタカタ鳴っている。


 もう、逃げ出したい……。


 急な用事を思い出したいし、とても鋭い回れ右を試みたい……。


 そんな気持ちを抑えて――


「うん。堕落のスキルっていうんだ。まだ使ってないから、効果は分からないんだけど」


 (しば)しの沈黙。


 僕の口からバス王の耳までには少し距離があるので、ただ考えているだけなのか、僕の声が届かなかったのか、段々不安になってくる。


 もう一度同じことを繰り返し言ってみようか、と僕が考えていると。


「ふむ……。ちょうど、そこに三人の手練(てだれ)がいる」


 まさか、バス王はナマケモノのような神経伝達速度だったりして。


「スロー、聞いているのか」

「はいっ! 聞いてます!」

「そこにいる三人の姫騎士たちに、スキルを放ってみろと言っているのだ」

「……いいの? 何が起こるか分からないよ?」

「大丈夫だ。彼女たちは歴戦の(つわもの)よ」


 姫騎士と呼ばれているエリートの御三方は、もう準備万端のようだ。


 すでに三者三様の臨戦態勢で、僕のスキルを打ち払おうとしている。


 それに対して、僕は肝心のスキルの出し方を知らない。


 特に秀でた能力があるわけでもなく、体術に関しても全く覚えがないので、僕にはまだ戦闘上のスタイルというものが何も確立されていないのだ。


 赤子も同然といっていい。


 だからといって、いつまでもバブゥとか、オギャアとも言っていられない雰囲気なので。


 僕は仕方なく、自分が思う最高にスキルの出そうなポーズ――右手を三人の方へ突き出し、精一杯叫んだ。


「堕落ッッ!!」


 そんな僕の渾身(こんしん)のアドリブが、この後、とんでもないことになってしまうのだった。


本日も夕方頃に、もう一話投稿する予定です。


楽しんで頂けたら幸いに存じます!

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