第52話 名探偵ヴィオラ再臨
「何も心配いらないんだよ!」
ヴィオラは、そう自信満々に言い放った。
「ポーチ、大丈夫なの?」と、僕が尋ねる。
「ううん。ポーチは盗られちゃったけど、コレがあるから」
ヴィオラは、ポケットの中から赤く輝く結晶を取り出した。
「魔力核……だっけ?」
「うん。実は、私ね。薄々ピクリンさんがいなくなっちゃう気がしてたんだぁ。だから、あらかじめポーチから魔力核を抜いておいたの」
「それを抜いておくと、どうなるの?」
「新しい入れ物さえあれば、この魔力核を装着して中身を取り出せるんだよ」
「じゃあ天界城の宝物庫から持ってきた物は、大丈夫ってこと?」
「うん、大丈夫!」
僕の質問に、淡々と答えていくヴィオラ。
失われた技術を使ってインベントリー・ポーチを作成できる彼女は、ピクリンさんよりも一枚上手だったということだろう。
「ヴィオラちゃん、今、薄々そんな気がしてたって言っていたけど……。ピクリンさんがいなくなること、分かっていたの?」
コルネットさんが自分の頬に右手を添え、首を傾げながら、そう言った。
「う~ん。詳しいことまでは分からなかったんだけど、ピクリンさんが誰かと連絡を取り合ってたのは気付いてたかな」
そんな素振り、ピクリンさんは見せてなかったように思えるけど……。
「まず、森でインベントリー・ポーチを作るときに分解させてもらった魔導ペン。あれがピクリンさんの荷物の中に入ってた時点で、遠くの誰かに連絡する気なんだろうなって思ってたの」
「それで、スパイ活動をさせないために分解しちゃったの?」
「いやぁ、それは知的好奇心が疼きまして……」
あ、それは違うんだ。
「あと、トレマックの宿屋で簡易式魔導ペンを借りたとき、女将さんが、『あんたも誰かにお手紙かい?』って言ってたから、私の前にメンバーの誰か……多分、一人の時間が長くあったピクリンさんが、どこかに手紙を送ったんだろうって思って」
なるほど……。
推理モノ――その中でも特に、探偵役が犯人の矛盾に気が付くシーンなどで、よく使われる手口に似ている気がする。
そして、僕たちがベッドの積載能力の限界に挑戦していたあのときに。
ピクリンさんがこっそり手紙を送っていたんじゃないか、と推理したわけか。
「これは些細なことだけど、この町に着いてすぐ、ピクリンさん、自分が話を聞いてくるって一人で行っちゃったでしょ? あれも私、情報だったらみんなで聞きに行っても良かったのになぁ、変だなぁ、ちょっと様子がおかしいなぁ、って思ってたの」
「あれは、別行動するための口実だったのね……」
「うん。手紙にも書いてあった通り、天界から来た私たちを王国の人から隠そうとしてくれたのかも」
手紙によると、僕たちを誘拐するみたいな話も出ていたらしいから。
ピクリンさんと一緒に歩いているところを見られていたら、実際、かなり危なかったのかもしれない。
「確信が持てないことだらけだったけど、誰かと連絡を取って、一人でこっそり会いに行くって考えたら、やっぱり王国の人とだし、そのまま帰ってこないってことも考えとこうって……」
「ヴィオラちゃん……」
そう言って少し沈鬱な表情を見せるヴィオラ。
今まで彼女に問い掛け続けていたコルネットさんが、言葉に詰まってしまった。
そうか……。
だからピクリンさんと別れる寸前。
ヴィオラは立ち止まって、真剣な眼差しで彼女を見ていたのか。
その後、ピクリンさんを宿で待っているときのヴィオラの心境。
それはもう、きっと計り知れないものがあったに違いない。
「そこにピクリンさんが帰ってきて、荷物を見ておくよって言ってきたってことだ」
と、僕が事実の再確認をする。
「うん……。かなり怪しいじゃない?」
「それで、ポーチから魔力核を取っておいたのかぁ。はぁ……。すごいなヴィオラは」
クラリィが、僕の隣で、驚きの溜め息をついた。
「じゃあ盗られたポーチの中には、何も入っていなかったんですか?」と、コルネットさん。
それに対し、ヴィオラが、「フフフ……」と、ミステリアスな笑みを浮かべた。
ワロてる……。
金髪碧眼の美少女が、悪い顔してワロてるでよ……。
「実はね。逆に私も、手紙を入れておいたんだよ……」
「逆に!? ち、ちなみに、なんて書いたの?」
そう僕が尋ねると――
「犯人は、お前だっ!」
ヴィオラの急な大声の返答に、思わずビクッとする僕。
すごい。ヴィオラ、超名探偵……。
真実の名にかけて、じっちゃんはいつも一つ……。
江戸川ヴィオラなの? それとも、ヴィオ田一少年? と、混乱状態の僕をよそに。
「ほんとに……そう書いたの?」と、おそるおそる問い質すクラリィ。
「書きたかったんだけどねぇ……。書いてみたかったんだけどねぇ……。止めといた!」
ヴィオラさん、それは誠に賢明な判断だと思います……。
「また会おうねって書いたよ」
……。
シンプルだけど、どこかしみじみとしてしまう言葉。
「そうだよね、ピクリンさん。また会いたいよね」と、クラリィもしょんぼりした表情。
「……ひわいだけど」
卑猥だけど!?
そんなクラリィのオマケの一言に驚かされつつ。
直接ピクリンさんにお別れの言葉を伝えられなかった僕は、心に小さな寂しさを抱えながら。
復活した厄災『嫉妬』を討伐するため、旅を続けるのだった。
またどこかで彼女と再会できることを期待して。
いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。
明日は二回更新する予定となっております。
なので、次話、『第53話 竜車に揺られて、山麓』は、明日の朝、午前中の投稿となります。お楽しみ頂けたら幸いに存じます。
ちょうど第二章も折り返し地点に入りました。
気に入って頂けていたら嬉しく存じます。今後とも何卒宜しくお願い致します。
※ちなみに、ピクリンさんは第三章でまた登場する予定です。




