第51話 ピクリンさんの置手紙
買い出しの成果は、まずまずといったところか。
沢山のお店を回って、いろいろ美味しそうな食べ物を買い込むことができたし。
お目当てだった屋台の香ばしい肉料理もゲットすることができた。
同行者の三人も満足そうな様子。
ヴィオラは、聞いたこともない珍味“デスクラーケンモドキの塩辛”を、「テイクアウトできた!」と、喜んでいるし。
クラリィは、天界風フライドポテトを一本だけつまみ食いして、「これのどこが天界風?」と、クスクス笑っているし。
コルネットさんは、意外に肉食だったのか。
僕と同じ、ガッツリ系――骨を装備している系の肉料理を嬉しそうに選んだ。
一人宿に残ったピクリンさんは、どうやら体調が優れないようだったので。
食べやすく、それでいて消化にも良い、とお店の方が言っていた――
“デスクラーケンモドキのおじや、香草を添えて”、を差し入れしてあげる予定。
これは、万病にも効くらしい。お店の方が言っていた。
一応、栄養満点のムミの実も探したけれど、売っていなかった。
そんなこんなで、基本的に地上の料理に明るくない僕たち天界城からの一行は、お店の方にお勧めされるがまま、楽しい晩御飯選びの時間を過ごしたのだった。
「僕が思うに、万病に効くのは、デスクラーケンモドキじゃなくて、こっちの香草の方じゃないかって思うんだけど」
「そうかなぁ? もしかしたら私の塩辛も万病に効くかもしれないよ?」
「万病に効くのは、もう確定なの?」
デスクラーケンモドキ屋の店員さんの口上に、全幅の信頼を置いている僕と。
人を疑うことを知らないヴィオラに。
クラリィの純粋なる疑問がぶつけられる。
万病に効く成分は何か。そもそも万病に効くのかどうか。
ピクリンさんの体調不良が万病に該当するのかも含め、幅広く議論を深めているフリをしながら。
僕たちは、各々がテイクアウトした晩御飯の包みを大事そうに抱え、ようやく宿まで帰ってきた。
さっきまで激怒していた腹の虫は、高まる期待感からか。
一足先に、胃袋の中で盛大なパーティーを開催している。
油断すると、ギュンギュンとかギャンギャンに近いスクラッチ音が漏れてくるけれど。
胃袋は、名のあるDJでも雇ったんだろうか、僕に内緒で。
見事なプレイだぞ、全く。
「ふ~! 着いた着いた~!」と、デラックス・スイートの広いテーブルの上に、料理の袋を置く僕。
「ピクリンさんの分のお料理もありますので、食べられるようでしたら」
「あれ? ピクリンさん寝ちゃってるかなぁ?」
僕のお腹の底から、グギュンギュ! という無意味な返答があったが。
肝心のピクリンさんからの返答が無いので、天使族の二人が奥の寝室まで様子を見に行ってくれる。
すると、そのとき――
「大変だ! 大変だよ、スロー!」
「何? どうしたのクラリィ」
「ピクリンさんが、ピクリンさんが!」
勢いあまって、さっきまで深く被っていたクラリィの黒いフードがめくれてしまっている。
何だ? 深刻な病気か何かか?
「ピクリンさんが、いなくなってるんだ!」
僕とヴィオラも、クラリィに案内されるように、一番奥の寝室へ。
クラリィが半開きになった扉を勢いよく開くと。
だだっ広い部屋の中心に、一人でコルネットさんが立っていた。
藍色の髪の姫騎士団長が、紙背に徹してしまうくらい厳しい眼光で、手紙を読んでいる。
「……置手紙がありました」
読んでみて下さい、とコルネットさんから手紙を手渡される僕。
その内容は驚くべきものだった。
「地上に降りてきて、短い間だったけど楽しかった。世話になったね。私は、今日でこの旅のメンバーから抜けさせてもらうことにするよ」
「ええっ!?」
突然の離脱宣言に、驚くクラリィ。
読み間違いのないように、僕は慎重に音読を続ける。
「実を言うと、私は地上に降りてから、こっそり祖国であるアセドニモ……。アセ……ア、アセド……」
「スロー、落ち着いて」
「うん……。こっそり祖国であるア、セ、ト、ニ、ド、王国と連絡を取っていたんだ」
「えぇ、スパイだったの!?」
丁寧に読み進める僕の一語一語に、素直な感情を見せるクラリィ。
いつの間に連絡なんて取っていたんだろう。
そんな素振りは一切なかったように思うけど……。
「ここライムラークで王国の人間と落ち合う計画だったんだが、さっきそいつと会うことができた。アセトニド王国の王都アセトンに戻って、私は再び乗竜階級の騎族の一人として、暴走する元英雄たちとの戦いに身を投じたいと思う」
「そんなぁ……」
「これからのみんなの旅については、スローに竜車の操縦方法を教えてあるから安心してくれ。あと、捕虜だったとはいえ、天界での生活は快適なものだった。天界城の方たちにも礼を言っておいてくれないか。それでは、またどこかで。乗竜階級の騎族、ピクリン」
読み終えると、部屋の雰囲気が少し暗くなっていた。
たった数日の付き合いとはいえ、仲間だと思っていたメンバーとの突然の離別は、決して気持ちのいいものではない。
今朝、彼女が、何の前触れもなく、僕にミドリの手綱を握らせたのは、そういう理由があったからか。
「スロー、裏にも何か書いてあるよ!」
「あ、ごめん。なになに、追伸? えっと、私の新しい門出への餞別として、誠に勝手ながら、ヴィオラのインベントリー・ポーチを頂いていくことにするよ! 天界城との取引材料として、みんなをまとめて誘拐する話もあったけど、王国に嘘をついて、私一人だけが天界城から解放されたことにしておいたからさぁ、これくらい良いだろ? ダメ? ……だってさ」
「そういえばピクリンさん、ボクたちが宿から出るとき、荷物を見ててくれるって言ってた……」
買い出しに行っていたので、お財布だけは何事もなくヴィオラの手元に残っているけど。
まだインベントリー・ポーチの中には、Sランク級防具である呪竜骨の盾や天鏡の盾も収納されていたはずだ。
「どうしよう、ヴィオラ……。ポーチ持っていかれちゃった……」
と、クラリィが、心配そうにヴィオラに寄り添っている。
俯きながら、黙って僕の手紙の朗読を聞いていたヴィオラ。
彼女が急に顔を上げ――
「何も心配いらないんだよ!」
勇ましい声で、そう言った。
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次話、『第52話 名探偵ヴィオラ再臨』は、明日の午後、夕方頃の投稿となります。
お楽しみいただけたら幸いに存じます。




