第46話 これが天界のスタンダード
朝、目が覚めると金縛りである。
天界城での疲れ知らずの生活から一変して。
地上の旅路で起きたドタバタ騒動の影響が出てしまったのかもしれない。
どうにか首だけは動かせるようなので、少し周り窺ってみる。
……うむ。
やはり僕の右隣には、パジャマ姿のクラリィが安らかに眠っていた。
これは、僕たちが天界城にいたときから続く、一種のしきたりのようなもので。
寝るときは別々のベッドなのに。
朝起きると、何故かクラリィは僕のベッドで寝ているのだ。
せっかくツインベッドの部屋を取ったのに、とか。
金縛りで身体が動かないからクラリィに起こしてもらいたいなぁ、とか。
いや、この現状に全く驚かなくなっているなんて……慣れって怖い、とか。
寝起きでボンヤリとした頭で、そんなことを考えたけど。
彼女は今、スヤスヤと幸せそうな寝顔をしているので、そっとしておくことにしよう。
メンバーの中で一番幼いクラリィ。
きっと、その疲れも人一倍のはずだから。
外からは、村人たちの朝の挨拶が聞こえてくる。
時間の感覚はないけれど、かなり寝たはずだから。
今は起床時間というより、もう人々が働き始める時間帯なのかもしれない。
相変わらず、上半身も下半身も動かせそうにない。
動かせるのは、首から上だけ。
三人部屋の誰かが、起こしに来てくれないかな……。
そんなことを思いながら、なんとなく左隣を向くと――
「おはようございます、スローくん……」
コルネットさんと目が合った。
コ、コ、コ、コ、コ、コルネットさんっ!?
「おはよう……ございます……!」
途端に冷静さを欠いた僕の挨拶。
それは、コルネットさんにつられて、いつになく敬語だった。
「昨日の竜車では膝枕をしてあげられなかったので、添い寝でもと思いまして」
そう言って少し頬を染めるコルネットさん。白い肌に薄紅色がよく映えている。
彼女のナイトウェアは、普段の鎧と違って首筋と胸元が大胆に……。
はっ! 見てはいけない!
「いやぁ、覚えてくれてたんですね。ご丁寧にありがとうございます」
「いえいえ、とんでもない。私なんかでよければ、いつでも」
「それは助かります」
何故か、互いにかしこまる二人。
ここで感謝の言葉というのも、少し違う気がするけど。
僕の頭の中はパニック状態で、他に言葉が出てこなかった。
僕たち二人が、限りなく近い距離で、目を合わせ続けていると。
ガサガサ、もぞもぞ、とベッドの中で、僕の身体が動き出した。
いや、ちょっと待て。
今、僕の身体は金縛りにあって動けないはずだ。
……ということは、僕の身体じゃない?
ふっと一瞬、僕の身体が軽くなる。
それと、じんわりと血が巡り出す感覚。
「みんな、おはよう~」
天井を見上げ、嫌な予感に身構えていた僕の視界に。
ベッドの中から出てきたヴィオラの、澄んだ碧眼がパチクリ。
薄金色の細い髪の毛が、僕の顔をくすぐる。
「……ヴィオラ、ずっと中にいたの?」
「うん~。空いてるとこが無さそうだったから」
そう言って、まだ眠たそうな顔をしながら。
金縛りの原因、ヴィオラが脱力。再びその体重を僕に預けた。
もう右も左も上も、顔が近い。
前にも似たようなことがあったけど。
今日のヴィオラは甲冑を着たままじゃないし。
特に痛みも感じないから、別にいいかぁ。二度寝しよ。
などと、血流の止まり切った身体のまま、悠長な考えが浮かぶ僕の脳内。
恐らく脳まで酸素がまともに供給されていないのだろう。
紳士でありたい。
紳士的ではなく、紳士でなくてはいけない。
常に、そう心に決めている僕。
なので、身体のあちこちに触れている何かの。
柔らかい、という感覚を意識してしまわないように。
素数か、天井のシミでも数えて――
「おーい! 起きたら私一人になってたんだが、ヴィオラとコルネット、こっちの部屋に来てな……」
ノックもなしに、勢いよく部屋に入ってきたピクリンさん。
彼女は、明らかに定員オーバーの四人乗りベッドを見て、絶句してしまった。
無理もない。
ここは、ツインベッドの部屋。
隣のベッドは、もぬけの殻なのに。
こちらのベッドは、現在キャパシティーの限界に挑戦中だから。
何人乗っても大丈夫なの?
すると――
「……こ、これが天界のスタンダードなのか?」
なんとか現状を理解しようと努めた彼女の口から飛び出したのは。
僕に限って言えば、強ち間違いとも言い切れない。
そんな、よく分からない質問だった。
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次話、『第47話 チェックアウトは、ゆるゆると』は、明日の午後、夕方頃の投稿となります。
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