第45話 天界城の財務大臣
この村に唯一ある宿屋。
しかし、トレマックは広い村だけあって、その作りはしっかりしたものである。
落ち着きの感じられる木製の床や壁。
一階の奥には、食堂のような場所も見える。
「いらっしゃい、旅人さんたち!」
恰幅の良い宿の女主人が、カウンターの向こう側から、力強く言った。
「五人で一泊したいのですが」
コルネットさんが受付の手続をしてくれている。
「そういえばさぁ、ヴィオラ。宿泊費ってどうするの?」
この旅のお財布事情について全く知らない僕は、一応代表者ということになっているヴィオラに尋ねてみる。
すると――
「ふふふ……。スローくん、お金ならあるんだよ……」
と、急に腹黒そうな声を出すヴィオラ。
いつにない“くん付け”の呼び方に、なにやら嫌な予感がする。
「えっ……? ヴィオラさん……ちなみに旅のご予算は、お幾らぐらい……?」
それにつられて、僕も自然と“さん付け”の呼び方に。
「ふふふ……。それは内緒なんだよ……」
「内緒!?」
怪しい。
頗る怪しいぞ、ヴィオラ。
「この様子じゃあ、きっと国庫と同義だな!」と、僕の背後から、ピクリンさん。
いつの間に、と驚いている僕に構わず。
「ふふふ……。この旅に、お金の心配なんていらないんだよ……」
ずっと、悪い顔をし続けている天界城の御令嬢。
もはや、御令嬢というより悪代官である。
彼女は、一体どうしてしまったというのか。
遂には、「全部、私に任せればいいんだよ……」と、頼もしい一言。
凄い……。
ヴィオラ、マジ財務大臣……。
今度、何か買ってもらおう……。
そんな良からぬことを企み始めたとき。
「じゃあ、お部屋の割り当てはどういたしましょう!」
という女主人の腹から出た大きな声で、我に返る僕。
「あ~、僕だけ男なんで、一番狭い部屋をお願いします」
「あー! 勝手に! ボクは見張りの任務があるから、スローと一緒の部屋!」
僕は、すっかり一人部屋のつもりだったけど。
監視役の任務を強調するクラリィによって、どうやらツインベッドの部屋になりそうだ。
「私は広い部屋がいいかなぁ~」と、ヴィオラ。
流石、天界城の財務大臣。豪遊する気である。
「私は牢屋じゃなかったらどこでもいいよ」と、ピクリンさん。
流石、天界城の元捕虜。望みが低い……。
「私は……。えっと、私は……」と、少し逡巡しているコルネットさん。
「コルネットは、こっちだろ? せっかくだから広い三人部屋にしようぜ!」
「え、あ、はい……」
ピクリンさんの誘いに、何故かちょっぴり残念そうな表情のコルネットさん。
窓から差し込む夕焼けの残り火が完全に消えた頃。
こうして、僕たちは、二人、三人で分かれて部屋を取ることにしたのだった。
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次話、『第46話 これが天界のスタンダード』は、明日の午後、夕方頃の投稿となります。
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