第44話 辺境の村トレマック
夕刻時。遠くの光も少し翳りを見せ始め。
橙色の山際に、夜が差し迫っている。
地上に降り立ち、初めての人里。
そこは、町と言ってしまっても遜色がないくらい、広々とした村だった。
「ここは辺境の村トレマック。何もない村ですが、どうぞゆっくりしていって下さい」
第一村人――入り口付近に立っていたお爺さんが、竜車から降り立ったばかりの僕を、温かく迎え入れてくれた。
「ゆっくりしてってくれよな!」
お爺さんの孫だろうか。
その隣で、まだ10歳に満たないくらいの少年も、元気にそう言ってくれている。
「わぁ! ありがとう!」
と、僕に続いて竜車から降りたヴィオラが、同じくらい元気に返した。
森を抜けて半日くらいとはいえ、身体の節々が凝り固まっていたので。
僕が、ググっと背筋を伸ばしていると――
「まさか! 天使さま御一行でしたか!」
お爺さんが、最後に降りてきたクラリィとコルネットさんを見て、驚嘆の声を上げた。
突然の敬意に、狼狽えている天使族の二人の向こうから。
「うむ。くるしゅうない!」と、胸を張りながら、御者台から姿を現したピクリンさん。
その突き出された胸部には、霊験あらたかな二柱の御神体が聳え立っている。
もしその自己主張の強い霊峰を、立体的に飛び出す映像技術で見れば。
視聴者は思わず、うわぁ、と仰け反ってしまうことだろう。
「いやいや、御車の竜も立派なものでございますねぇ。私が停竜所の方へお連れ致しますので」
「停留所?」
「はい、停竜所」
「あぁ、私がついていくよ。みんなは先に宿屋へ向かっといてくれ」
「それではご案内致します。ささ、こちらへ」
僕の疑問は解消されることなく。
お爺さんとピクリンさんは、緑竜のミドリを連れて、村のどこかへと行ってしまった。
「行っちゃった……」と、僕が、彼らの後ろ姿を眺めていると。
残された少年が、「あのピンク色の髪の人、すっげぇなぁ!」と、興奮している様子。
「凄すぎだよね。僕もあんなダイナマイト、未だかつて見たことなかったからなぁ」
僕が、心からそれに賛同すると。
「あぁ、俺も見たことなかったぜ! だってグリーンドラゴンに竜車を牽かせてるんだぜ! 超カッコいいよなぁー!」
「ほんと、それなぁ」
地竜とはやっぱ全然違うよなぁー、とピクリンさんの運転手腕を絶賛している少年。
その純真な気持ちと無垢な心。
穢れのなさが眩しい。
それ対して、どうして僕は、こんなに邪な大人になってしまったのだろうか。
思春期か。思春期がそうさせたのか。
取り戻せ、イノセンス。
忘れるな、ジュブナイル。
「スロー、大丈夫? 乗り物酔いしちゃったの?」
「ううん。ちょっと若さについて考え事してた……」
「ははっ! なんだそれ!」
早く宿屋行こ? と、僕を誘ってくれている澄んだ目のクラリイ。
少しだけ落ち込んでいた僕は、しっかりと自戒の念を大切にしつつ。
みんなと一緒に、トボトボと宿屋へと向かうのだった。
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次話、『第45話 天界城の財務大臣』は、今日の午後、夕方頃の投稿となります。
お楽しみいただけたら幸いに存じます。




