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第42話 盾と狼とトマト的な何か

 

 サイレントウルフの群れが去って、夜の野営地に安息の時間が戻ってきた。


「ふ~、怖かった~」

「怖かったねぇ」

「私、全然活躍できなかったよ~」

「いやぁ、ガード役はいるだけで充分仕事を果たしてるから、多分それでいいんだと思うよ」

「え、ヴィオラ! それ、呪竜骨(じゅりゅうこつ)の盾と天鏡(てんきょう)の盾じゃないのか!」


 焚火(たきび)の前でリラックスしている僕とヴィオラの方を見て、突然ピクリンさんが色めき立った。


 角の生えた頭蓋骨で作られた不気味な盾と、磨かれた鏡のような美しい盾。

 先程までヴィオラが両腕に構えていた盾が、地面に置きっぱなしにされている。


「ピクリンさん。それって、そんなに珍しいものなの?」

「珍しいなんてもんじゃない! どっちもSランク級のレア防具だ!」

「へぇ~、なんだか凄そう。高価なものなんだね」

「高価どころか、値段なんて付けられない国宝レベルだぞ!」


 その盾の価値を知らない僕と、興奮で鼻息の荒いピクリンさん。

 二人の温度差が著しい。


「国宝レベル……」と、コルネットさんが呟く。


 もう今となっては、このベースキャンプにいる全員が、犯人の目星をつけているはずだ。


「ねぇ、ヴィオラ。バス王、何か言ってなかった?」

「地上の旅に何か防具を持っていきたい、って私が頼んだら、バス王さまが、天界城の宝物庫から好きな物を持っていっていいよって!」


 やはりか。バス王。


 僕の脳内のバス王の顔が、たった今、ヴィオラにメロメロの、(とろ)けきった表情に更新された。


「けど、どれがいいとか私よく分からなかったから、適当にかっこいいのと、綺麗なのを選んじゃった!」

「その骨のやつ。ボク、ちょっと怖いなぁ」

「これ、凄く軽いんだよ。クラリィ、ちょっと持ってみる?」

「えっ、やめとくぅ……」


 ヴィオラの誘いを、(おび)えた表情で断るクラリィ。


 宝物庫の中の国宝をホイホイ与えてしまうバス王もバス王だけど。

 ヴィオラもヴィオラで、好きな装備と言われて、そんな禍々(まがまが)しい盾をよくチョイスしたな。


 呪竜骨の盾をじっと見つめてみる。

 すると、下手に触ったら一発で呪われそうなオーラが出ている気がした。


「こっちは綺麗だから、ボクも好き」と、クラリィが天鏡の盾を指差して、そう言った。


「確か、この天鏡の盾は、あらゆる魔法を反射すると言われている、太古の十神器の一つ……でしたか?」と、コルネットさんが、ピクリンさんに尋ねる。


「あぁ、そうだ。こんな凄いお宝、書物の中でしか見たことない」


 そんな凄いお宝が今、ヴィオラの足下に()(ざら)しのままである。


 あぁ、泥とか付いちゃってそう……。


「ヴィオラ。その盾、なんだか凄いものみたいだから、早く仕舞った方がいいかもね」

「そうだね!」


 僕の言葉を聞き、せっせと盾を収納し始めたヴィオラ。

 天鏡の盾は、すんなりインベントリー・ポーチに入ったみたいだ。


 しかし、呪竜骨の盾は、角の突起が引っ掛かってしまい。

 ポーチの小さな口が、ヴィオラの手によって張り裂けそうなくらい限界まで伸ばされている。


 無理は止すんだ、ヴィオラ。


「ねぇ、ピクリンさん。ちなみに、呪竜骨の盾にも特殊な効果があるの?」

「あぁ、敵意を持って盾に加えられた攻撃を、呪いに変えて反射する効果だ」

「無理は止すんだ、ヴィオラ!」


 思わず、心の声が叫びとして発露してしまう僕。


 幸いにも、ヴィオラの乱暴に敵意は認められなかったのか。

 呪竜骨の盾は大人しく、ギュウギュウとポーチの中に押し込められた。


 僕は、ほっと安堵の溜め息をつき、背後の森に視線を向ける。


「ミドリ……どこまで行っちゃったんだろうなぁ……」


 すると、見覚えのある狼の眼光が一対、暗闇に浮かび上がった。


 その視線の先には、コルネットさん。


「危ない、コルネットさんっ!」


 反射的に動く僕の足。


 音も無く、闇の中から躍り出る、大型のサイレントウルフ一匹。


 投擲(とうてき)できるような武器など何も持っておらず。

 僕の堕落のスキルも、こうなっては役立ちそうにない。


 あるのは僕の身体だけ。


 間に合えっ!


 (にぶ)い衝撃と痛み。

 狼がコルネットさんに喰らいつく寸前、その横腹に体当たりをくらわせた。


 不意打ちに失敗した狼は、すぐに体勢を立て直す。

 そして、グルルルルと威嚇しながらこちらを窺うも、すでにこちらの全員が攻撃可能な状態。


 諦めたのか、後退(ずさ)りをしながら夜の(とばり)に紛れていった。


 再び訪れる静寂。


「大丈夫ですか、スローくん! 傷を見せて下さい!」


 と、コルネットさんが慌てて、僕のローブの袖を(まく)る。


「全然大丈夫。体当たりしただけだから、怪我はしてないよ」

「あぁ、こんなに赤くなってしまって……」


 潤んだ目のコルネットさん。

 僕の貧相な腕を優しく(さす)ってくれている。


 少し恥ずかしい……。


「いや、もうほんとに大丈夫! なんなら、ちょうど狼に体当たりとかしたい気分だったから!」

「ごめんなさい……。次現れたら、絶対に許しませんから……」


 気恥ずかしさを誤魔化すための、僕の冗談混じりのフォローと。

 コルネットさんの、泣き出しそうな、か細い声。


 言葉遣いや立ち振舞いから、いつも大人びて見えるコルネットさん。

 しかし、彼女の年齢は、僕やヴィオラと大して変わらないはずだ。


 姫騎士団長という肩書を背負っているせいか。

 今までずっと、彼女は気を張り続けていたのかもしれない。


 なんと声を掛けたらいいものか、と僕が迷っていると。


 クロロロロン、という嬉しそうな(いなな)きと共に。


 ()()()()()()()()()から、ミドリが帰ってきた。


 口の周りを真っ赤に染めて。


「ミドリの方こそ……。それ、大丈夫なの……?」


 いや、きっとどこかで、()()()()()()()でも食べてきたんだろう。

 確か、緑竜は()()だった気もするけど、気のせい気のせい。

 やけに満足気な様子だけど、きっと帰り際に()()()()()()でもあったんだろう。


 もう深く考えるのを止めた僕。


 森の夜は、静かに更けていくのであった。


いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。


いよいよ、【第二章 地上の旅路】がスタートしました!


次話、『第43話 森を抜けて、色気』は、明日の午後、夕方頃の投稿となります。


第二章も、引き続き皆さまにお楽しみ頂けたら嬉しく存じます。

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