表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/193

第40話 今夜、焚火が消える前に


 やっぱり今日中には、森を抜けられなかったのである。


 ひっそりとした夜の森。

 少しだけ開けた場所を見つけ、野営をしている僕たち一行。


 焚火(たきび)から煙が立ち、(すす)っぽい香りと湿った森の匂いが混ざる。


「ミドリのご飯は、本当にあんな感じでよかったんでしょうか?」


 コルネットさんが、木々の奥に広がる暗がりを見ながら言った。


 緑竜ミドリは、肉食なのだが。

 この地上の旅には、彼女のお腹を満たす量の肉を持ってこれなかったので。

 今いる深い森が、ちょうど緑竜の生息地に近い環境なこともあり。

 好きに食べておいで、とコルネットさんに首輪を外されたのだった。


 ミドリ……ちゃんと帰ってくるだろうか……。

 そのまま野生化してしまったら、僕たちは徒歩で旅を続けなければならない。


 徒歩の旅……。

 想像するだけで心労が凄い。

 そんなの旅の途中で逃げ出して、僕まで野生化してしまうぞ。


 そして、易々と魔物に捕らえられて、食物連鎖の()の中に……。


「きっと、お腹いっぱいになって帰ってくるんじゃないかなぁ」


 僕は、自堕落な自分の末路を掻き消すように、そう言った。


「そうだといいんですけど……」

「あれだけ俊敏に走れるんだから大丈夫だって!」


 コルネットさんは、僕の言葉で少し安心したのか。

 手に持ったマグカップに、そっと口をつけた。


 森閑(しんかん)という熟語が思い出される程、静かな夜の森の中。

 倒れた原木に腰を落ち着けていると、ふわりと眠気が襲ってきた。


 すでにクラリィは、僕にもたれかかって、スゥスゥと寝息を立てている。


 先程、眠そうに目をこすっていたクラリィに、「膝枕してあげようか?」と、下心なく僕が尋ねると。


 彼女は、周りのメンバーを見渡した後、「それは、ちょっとひわいそうだから止めとく」と言って、僕の肩に体重を預けたのだった。


 照れもあるんだろうけど、彼女の卑猥(ひわい)さの基準は、少し厳しいような……。


 そんな中、ヴィオラはというと――


 一生懸命、ペン型の魔道具を分解していた。


 あれは、ピクリンさんの私物である。


「ちょっ! その魔道具、結構高かったんだぞ!」

「あとちょっと! あとちょっとでできるから!」

「ひえぇ、魔力核まで取っちゃって……」


 今度は、ヴィオラが、手元の小さなポーチの中に、細かな部品を一つ一つ埋め込みだした。


「できた!」


 そう言って、頭上に高く掲げられたポーチ。


 何の変哲もないように見えるけど……?


「ねぇ、ヴィオラ。そのポーチ、どこか変わったの?」と、僕が声を掛ける。


「えへへ。今日からこの子は、インベントリー・ポーチになりました。」

「インベントリー・ポーチ?」

「このポーチの口に入る大きさ物なら、文字化させることによって無限に入れられます!」


 えっ? それ、どういう仕組み?

 文字化……? (にわか)には信じがたいチート感。


「すごい! 失われた技術じゃないのか、それ!」

「私、この技術。天界城の禁書棚で見つけました!」


 興奮するピクリンさんに、ヴィオラが自慢気に胸を張っている。


「あら。ヴィオラちゃん、勝手に禁書棚のところに入っちゃったんですか?」

「ううん。バス王さまにお願いしたら入れてくれたんだぁ~」

「バス王さま……」


 コルネットさんと僕は今、きっと同じ気持ちだろう。


 バス王……。ヴィオラを甘やかしすぎ……。


 かつての威厳たっぷりのバス王の顔が、僕の記憶から消えつつあった、そのとき。


「スローくん、急いでクラリィちゃんを起こしてくれますか?」

「コルネット、もう囲まれてるか」

「……はい。私としたことが、迂闊(うかつ)でした」


 コルネットさんとピクリンさんが立ち上がり、辺りを警戒し始める。


 気配や物音が一切しない、文字通り森閑(しんかん)とした野営地に。

 パチリと焚火(たきび)(まき)()ぜた。


 次の瞬間――


 ガウッという短い獣の声。

 僕らのベースキャンプの周囲の闇から、無数の赤い双眸(そうぼう)が浮かび上がった。


いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。


いよいよ、【第二章 地上の旅路】がスタートしました!


次話、『第41話 一匹狼への誘い』は、明日の午後、夕方頃の投稿となります。


第二章も、引き続き皆さまにお楽しみ頂けたら嬉しく存じます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▲応援いただけますと、大変励みになります!▲
 
▼みなさまのご感想、お待ちしております!▼
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ