第3話 可憐な少女と女神との比較考査
三度目の目覚めは異世界……のはずがなかった。
はずがなかった、というのも全く不思議ではなく。
僕がむくりと上半身を起こすと、ついさっき見た転生儀式の部屋だったのだ。
それはもう当然のように。
しかし、先程と大きく異なっているのは、僕の目の前に、美しい少女が立っていることである。
「あっ! 起きた!」
「……なんか、ちょっとデジャヴ」
それは、マリアさんとは違って――
僕と同い年くらいの見た目をした可憐な少女だった。
そして、マリアさんとは違って――
さらさらとした金髪の色素は薄く、興味深そうに僕を覗き込んでいる碧眼は、月並みな比喩だけど、まるで美しい宝石のように見えた。
さらに、マリアさんとは違って――
鼻筋も通っていて、睫毛も長くて、いい香りとかもしそうで……。
と、一つ一つ網羅的に素晴らしい点を挙げていくと、それこそ枚挙にいとまがないというやつだ。
一々、当てつけがましくマリアさんと比較しているように思われるかもしれない。
しかし、それは、こちらの世界での比較対象が彼女だけだからで、全く他意はない。
なおざりな態度、失敗した転生を許していないわけでは決してない。いや、本当に。
ついでに言えば、マリアさんとは違って、彼女は銀灰色の甲冑で体躯をガードしている。
また、どういうわけか、彼女の背中には羽らしきものが見当たらない。
そんな風にして、僕が彼女の美しさに見惚れて……。
げふんげふんっ。いや、彼女を厳しい警戒の目で観察していると――
「大丈夫? 怪我とかはない? あなた、もしかして人間さん?」
あぁ、優しい……。マリアさんとは違って……。
と、彼女の質問攻めの中にも愛情を感じる僕である。
「うん、人間だよ。さっき転生に失敗したみたいなんだ。目が覚めたら、まだここにいて……」
「転生に失敗? それは大変! 取り敢えず、一緒にみんなのところへ行きましょう?」
「……うん」
彼女のやや厚みのある胸部装甲から、僕は何かを察した。
マリアさん程の大きさではないにせよ……。
逆らわない方がいい。
「私のことはヴィオラって呼んで。あなた、名前は?」
「僕は……」
おかしい。自分の名前が思い出せない。
「あれ? 僕の名前……」
「分からないの?」
転生失敗の後遺症なのだろうか。
自分の名前はおろか、生前の記憶も、かなり曖昧なものになってしまっている。
生前の記憶……。
僕は、16歳で……。
確か死の間際、ナマケモノになりたがっていたはず……。
ナマケモノ……。
それなら――
「スロース」
「……今、なんて?」
「僕の名前は、スロース」
ナマケモノの英名をそのまま引用させてもらおう。
「ダメ!」
……えっ? ダメ?
「絶対にその名前を言っちゃダメ!」
突然、ヴィオラが鋭く叫んだ。
本日も夕方頃に、もう一話投稿する予定です。
楽しんで頂けたら幸いに存じます!