第35話 名探偵の才能
謁見の間には、重々しい雰囲気が漂っている。
ピリついたというか、一触即発というか、緊張感のある張り詰めた空気。
姫騎士ショナさんやスーナさんの他に、今まで見たことのない数十名の姫騎士団員が整列しており。
そして今日は、何故か女神マリアさんまでいる。
彼女を見たのはいつ以来だろうか。かなり久し振りに思える。
いつものように、眉間に皺を寄せて、彫刻のように固まっているバス王。
ヴィオラは、それに負けないくらいの気迫で、バス王に対峙していた。
「どうしても、行くと言うのか……」
「はい! どうしても行きます!」
天界から出ていくと言うヴィオラ。
その決心は固いようである。
「全く……。ソプラティアと同じことを……」
「だって、私。ソプラティア王妃なんでしょ?」
……はい?
……どういうこと?
「まさか、記憶を思い出したのか……!?」と、目を大きく見開くバス王。
「ううん。全然……」
ヴィオラの言葉に、ざわめく姫騎士たち。
僕の隣にいるクラリィも、その表情で、理解不能の状態であることを示している。
確か、ソプラティア王妃って、百年くらい前に事故で亡くなったんじゃなかったっけ?
それ以降、天界城で、七つの厄災についての箝口令が敷かれたとか……。
僕は、混乱している脳内から記憶を呼び起こした。
「私、ベテランの兵士さんたちから、ソプラティア王妃に似てるって言われることがあって。それで、こっそり自分で王妃さまについて調べてたんだけど。百年前に起こった『嫉妬』の厄災と王妃さまに関連があることに気付いて……」
僕が『嫉妬』の資料を見たときは、そんな関連があるようには思えなかったけど……。
そんなことを思いながら、ヴィオラの説明に黙って耳を傾ける僕。
「関連だと……?」
「英雄と『嫉妬』は相討ちになったみたいだけど、図書館にあった古い禁帯出の本に、『嫉妬』の終息宣言が天界城から出されたって書かれてたから、不思議だな、おかしいなって」
バス王の問いかけに、ヴィオラが毅然と答える。
僕が受け取った『嫉妬』の資料には、終息宣言は「某王国から」出されたとしか書かれていなかったはずだ。
ヴィオラは、城内の書庫にずっと眠っていた書籍から、偶然その情報を見つけたということか。
「天界城の年代記では、終息宣言とほとんど同じ時期にソプラティア王妃が亡くなったことになってるから、私、王妃さまが英雄で間違いないと思ってたんだけど。王妃さまのご遺体を見た人はいないみたいだし、葬儀は執り行われなかったそうだし、王妃さまのお墓も天界城の敷地に見当たらないし、それに……」
ヴィオラが、少しモジモジしだした。
照れているのだろうか。彼女の頬が少し赤くなっている。
「バス王さまって……、まだお世継ぎがいないのに、後妻さんを絶対に認めないでしょ?」
バス王の口から「むう……」という、呟きが零れた。
「それで、もしかしたら『嫉妬』と相討ちになったっていう英雄、つまりソプラティア王妃は、まだどこかで生きてるんじゃないかって思ったの」
天界城から『嫉妬』の終息宣言が出された、というキーワードだけで、そこまで推理できるのか。
いや、そもそもこれは推理と呼べるのだろうか。
まぁ、とにかく。ヴィオラ、マジ名探偵。
「理由が分からないから、ここからは当てずっぽうになっちゃうけど、ソプラティア王妃は生きたまま異世界に転生された……違う、かな?」
生きたまま転生? しかも異世界に?
と、情報が錯綜している頭の中を、僕が必死に整理していると――
「バスくん、いやバス王さま。ここまでバレてるんだったら、もう本当のこと言っちゃってもいいんじゃない?」
突然、女神マリアさんが、バス王に対して、馴れ馴れしく言った。
マリアさんは、僕の異世界への転生に失敗したという過去を持つ。
まぁ、そのおかげで、僕はこの天界城でヌクヌクと温室暮らしができているのだが。
「そうだな……」
バス王は、深呼吸をした後、諦めたようにそう言った。
次にバス王の口から出てくる言葉を、僕は固唾を飲んで待った。
「他に方法が無かった……」
「そう、仕方が無かったのよ」
そう切り出して、バス王とマリアさんが、ことの経緯について話し始めた。
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次話、『第36話 嫉妬の亡霊』は、明日の午後、夕方頃の投稿となります。
お楽しみいただけたら嬉しく存じます。




