第2話 転生失敗の男
二度目の目覚めは異世界……のはずだった。
はずだった、というのが不思議なもので。
僕がむくりと上半身を起こすと、ついさっき見た転生儀式の部屋だったのだ。
警告的なサイレンも危機的なレッドライトも今はなく、静まり返った真っ白な空間が広がっている。
「これって、転生失敗なんじゃ……」
白い無地のTシャツに、黒の綿パン。
手の大きさだって変わっていない。
生前の姿――16歳のままの自分が、ここにはいた。
僕は呆れかえって、再び硬い床に横になった。
やはり後頭部がひんやりとして、気持ちがいい。
必要最小限の動きすらしたくないという欲求。
きっとこれが堕落のスキルの効果に違いない。
「瞬間移動みたいなスキルは、きっと楽でよかったかもなぁ」
それに引き換え……。
「堕落のスキルって何?」
自分に内在している力が増強されたもの、それがスキルらしい。
僕の自堕落な性格が増強されたと考えると、それは迷惑極まりない話である。
ごろごろと転がっているだけで、誰にも迷惑がかからない能力だったら……。
それはそれで素敵な能力なのかもしれないなぁ……。
ただまぁ、ただそれはスキルというより、ほとんど呪いの類だけど。
そうして僕がどこまでも不毛な思索に耽っていると、グギュっと小さく腹の虫が鳴いた。
不意にマリアさんの後ろ姿を思い出す。
あの様子、尋常じゃない慌てようだった。
まるでこの世の終わりのような、ただならぬ羽の抜け落ち具合。
あれは相当な精神的ストレスがかかっていたに違いない。
敵襲とか言っていたけど――
仮にここが宇宙船だったとして、そこに敵襲があったとすると、それはかなりの確率でエイリアンかプレデターということになる。
もしくは、その両方か。
あと、ここは一見、純白の世界に見えるけど――
壁にサイレンやレッドライトが仕込まれているし、最初に僕が星だと勘違いしていたのも、よく見れば超極細のピンスポットのような……。
「よし! いっちょ、この部屋から出てみるか!」
危険を知らせる機構は、今のところ働いていないように思える。
腹の虫が激怒して、胃の中が丸ごと劇症化してしまう前に、何か食べ物にありつかなければならない。
僕は、そう強く決心し――
ゆっくりと目蓋を閉じた。
あぁ~、全身の筋肉が緩んでいくんじゃぁ~。
もう光合成とかできたらいいのに。一つも動かないで。
そういえば、まだ尾骶骨も痛むし。
堕落のスキルなぁ……。
光合成のスキルとかの方がよかったかもなぁ……。
次に目が覚めたら、異世界に飛ばされてたりしないかなぁ……。
僕は存分に謳歌するはずだった異世界でのスローライフを空想して――
底の見えない深い眠りについた。