表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

178/193

第176話 血気盛んなお年頃

 

「ねぇねぇ、クラリィ。なんだかあのおじぃさん、ワタシたちの敵みたいだよ?」


 急に敵対してきたエミール司祭を指差しながら、レトが隣にいるクラリィに声を掛けた。


 ただ、強そうな敵を前にしているというのに、レトの声には不安のようなものが微塵(みじん)も感じられない。


 もはや、「今日の晩御飯どうしよっか?」くらいの気楽さである。


 まぁ、幼女とはいえ、レトは戦闘能力に(ひい)でたアマゾネス族の一員だから……。


 強者の余裕とは、このことか?


 そんなことを思いつつ、同じく強者――天界城の精鋭であるクラリィを見ると、彼女は、すでに魔導書を光らせており、いつでも攻撃魔法を放つことができそうな構えをしていた。


()い改めさせるの~?」

「そうだね。一度()い改めさせたほうがいいかも。コルネットさんもそう思わない?」

「はい。是非、()い改めさせましょう。ヴィオラちゃんはどう思いますか?」

「ハッキン()い改めさせよーーっ!」


 レト。クラリィ。コルネットさん。そして、サクラさんの影響を受けたせいで、ご機嫌な言葉(づか)いになってしまったヴィオラ。


 彼女たちはそれぞれ乱暴(らんぼう)狼藉(ろうぜき)とは一切無縁の「深窓(しんそう)佳人(かじん)」めいた顔立ちをしているというのに、その目からはそれぞれ「戦闘の狂人」めいた眼光が放たれている。


 そうだ。


 そうだった。


 僕たち旅の一行は、血気盛んなお年頃なんだった。


「おい、エミール。〇ァッキン懺悔(ざんげ)の用意はできたか?」


 この城の主人であるサクラさんも、「〇ァッキン懺悔(ざんげ)」というFワードと聖なる単語のキメラを爆誕させ、戦闘の準備は万端の様子。


 もうその荒い語気から、パッションが(たぎ)り、(ほとばし)っているのが分かる。


 パッションがバチバチのビチビチである。ビチビチパッション。


「この私が……懺悔(ざんげ)だと……?」


 追い詰められたエミール司祭の額に、冷や汗の粒が見え始めた。


 仕方がない。完全に多勢に無勢である。


 彼を強制的に懺悔(ざんげ)させようとする血も涙もない神聖な時間が刻一刻と近づいている。


 一方、その頃。


 戦闘能力が(けた)外れに低く、戦いに血()かず肉(おど)らないタイプの僕はというと――


「むむむ……。どうしたんだ、急に……」


 彼女たちのように、その勢い(もう)とはいかず、むしろ貧血のときのような酷い目眩(めまい)に襲われていた。それも片頭痛付きである。


 足腰はガクガクで、力を入れていないと本当に倒れてしまいそう。


 それこそ、産まれたての子羊……。


 いや、生まれつき貧血で片頭痛持ちの子羊のような足腰である。


「せっ、石化の呪いは何故か発動しませんでしたが……」

「どうした、エミール。目が泳いでいるぞ」

「泳いでいません。呪いが発動しなかった以上、こうなれば私が直接あなたたちに手を下すしかないようですね……」

「おぉん? 何をする気だ?」

「私たちフィルシュ教が独自に編み出した呪い……その名も『強制転生の呪い』!!」

「なんだそれは!? 〇ァッキンなんだそれは!?」


 名前を聞くだけでヤバそうな呪いに、サクラさんの表情が(こわ)()る。


 みんなも、得体の知れない呪いの存在を明かされて、動けなくなっている。


 オラオラやったれムードで気が(ゆる)み切っていたが、流石に血の気が旺盛(おうせい)なままではいられない。


 強制的に懺悔(ざんげ)をさせてやろうと思って、逆に強制的に転生させられてしまっては割に合わない。


 リスクが不当に大きいと言わざるを得ない。


 ここは少し落ち着いて現状に対処した方がよさそう。


 冷静に、冷静に。一旦、騒いだ血を冷ますべきである。


 まぁ、個人的な話をすると、僕の血の気は元々引いてしまっているのだが。


 恐らく蒼白(そうはく)であろう血色をしながら、僕が周囲の環境および自己の分析を進めていると、突然エミール司祭が静かに笑い始めた。


「ふふふ……。あなたたちを石化させるという当初の計画からは外れてしまいますが、これでもうおしまいです……」


 それは、「どうにか抵抗しなければならない」という意識が働く隙がない程、一瞬の出来事だった。


 エミール司祭は微笑(ほほえ)みを浮かべたまま素早く両腕を前に突き出すと、僕たちに向かって白い光の矢を放った。


 しかし――


「この感覚は……。そうか……()()か……」


 いつの間にコントロールできなくなっていたのか。


「どうにか抵抗しなければならない」という意識が働くまでもなく、無気力な足腰によって、すでに僕の身体はエミール司祭の目の前へと導かれていた。


「なっ!? なんですかあなたは!?」


 エミール司祭が愕然(がくぜん)としているが、そんなの気にしていられない。


 ライアン兵士長に2回、聖女像だったサクラさんに1回、それと今さっきの石化の呪いに1回。


 今日一日だけで4回……。


 スキルの使いすぎか……。


 えっ、ちょっと待って……。


 ライアン兵士長に2回って、無駄遣いしすぎじゃないか……?


 後悔の念と共に、スーッと薄れていく意識。


 それに追い打ちをかけるように、無意識かつ蹌踉(そうろう)たる足取りで(おど)り出た僕の身体に、タイミングよくエミール司祭の放った「強制転生の呪い」が直撃した。


 身体から何かが抜け出す感覚。


 ふわりと浮き上がる自分の意識。


 このまま僕の魂はどこか遠いところへ飛んでいき、何か別の生き物へと強制的に転生させられるはめに……。


 まぁ、後ろにいるみんなを守れてよかった。犠牲になるのは僕だけで充分だ。


 視界が徐々に暗くなっていく。


 さよなら、みんな。


「オレに任せるギギ!!」


 久しく聞いていなかったが、確かに聞き覚えのある声がしたかと思うと、ついに光が絶えた。

読者のみなさま、いつもお読みいただき本当にありがとうございます。


少しでも明るい気持ちになったり、クスっと笑っていただけていたら嬉しく存じます。


次話は、来週の2月6日(土)に投稿する予定です。


これからも、ゆるゆるな異世界コメディーを何卒よろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▲応援いただけますと、大変励みになります!▲
 
▼みなさまのご感想、お待ちしております!▼
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ