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第16話 その使命感に休息を

 

「ほんとに、大丈夫?」


 僕は、ふかふかのベッドから顔を出しながら、クラリィに尋ねた。


「うん。大丈夫だから」


 さっきから、ずっと客室の入り口に立ちっぱなしのクラリィ。


 黒いフードの中の彼女の表情は、かなり疲れているように見える。


 一体、どうしたことか。


 最近ちょっと寝不足なだけ、と彼女は言っていたが。


 ぼくの悪魔の囁き――おやつへの(いざな)いも、食欲が無い、とか言って断ったし。


 今日のおやつ――天界で採れた彩り豊かなフルーツ盛り合わせが苦手、とかでもなさそうだったし。


 昨日の彼女の元気は、どうしたことやら。


 心配である。


「監視対象の僕が言うのもおかしな話だけど、ほんと無理しちゃダメだからね?」

「うん。大丈夫だから」

「辛かったら、そこのソファとかで休んでくれてもいいんだからね?」

「うん。大丈夫だから」

「なんなら、一緒にお昼寝する?」

「うん。大丈夫だから」


 いや、全然大丈夫じゃない!


 もう、「うん。大丈夫だから」と返すだけのロボットと化しているじゃないか!


 気になりすぎて、お昼寝ができそうにないぞ……。


 僕は、もぞもぞとベッドから抜け出すと――


「もしかして、熱でもあるんじゃないの?」


 クラリィに近寄りながら、左手を自分のおでこ、右手を彼女に伸ばした。


 すると、僕にスキルを放たれると勘違いしたのか。


「ひぃ! 来るなっ!!」と、クラリィが悲鳴をあげた。


「ゴ、ゴメン! そういうわけじゃなかったんだ!」


 クラリィは、僕の声を聞いて我に返ったらしく。


「いや、ボ、ボクの方こそ。ゴメン……」と、項垂(うなだ)れてしまった。


「どうしたの、なんかあった?」

「大丈夫だから……」

「大丈夫じゃないじゃん」

「大丈夫だから」

「だから、大丈夫じゃないじゃん!」

「大丈夫だから!」


 むむむ、意地っ張りめ!


「確かに監視役は大事な任務かもしれないけど、クラリィが倒れちゃったら元も子もないでしょ!」

「そんなことは分かってる! だけど、人間は怖いから、ボクが見張ってないといけないんだ!」

「人間が怖い? どういうこと?」


 人間たちが攻めてくるというのと、何か関係があるのだろうか?


 クラリィは、かなり興奮している様子。


 頬は紅潮し、立ち姿もなんだかフラフラし始めたような……。


「まぁ、ちょっとだけ休もう? ね?」


 僕は、なるべくクラリィを刺激しないように、手術前の外科医のように両手を自分側に向け、敵意が無いことを示しながら、ゆっくりとクラリィに近づいて行く。


「うるさい! 近づくな!」


 そう叫んで、グラリとよろめくクラリィ。


 両手に抱えている魔導書が、青白い光を放っている。


 これ以上近づくと魔法を唱えるぞ、という威嚇。


 しかし、クラリィの体力は、もう限界そうに見える。


「怖いぃ、こっちに来るなぁ……」


 朦朧(もうろう)として焦点が合わない、クラリィの光の失われた目。


 ここは、心を鬼にするしか――


「ごめん、クラリィ……」


 僕は、すばやく右手のひらをクラリィに向けて。


「堕落……」


 そう呟いた。



いつもお読みいただき、ありがとうございます。


次話、『第17話 目覚めと、少しの不安と』は、明日の夕方、またこの時間帯の投稿となります。


今日で、本作の投稿から一週間が経ちました。


色々至らぬ点はございますが、読者の皆さまに気に入っていただけていたら嬉しく存じます。

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