第15話 クラリィ、枕元の独白
最近、よく眠れないんです。
原因はもちろん、あのスローとか言う人間!
……ではなくて。
スローが来た日にあった、人間たちの侵攻です。
ボクは、小さい頃から攻撃魔法が得意だったので、他の兵士さんたちより早くから親元を離れて、天界にある辺境の村から、この天界城までやってきたのです。
どうやら史上最年少の兵士なんだそうです。えっへん!
ボク自身はよく分かっていないんだけど、スーナ師匠が言うにはボクは優秀なんだそうです。えっへん!
スーナ師匠の口添えもあったみたいで、一般兵から姫騎士への昇進は異例のスピード。
史上最年少の姫騎士になりました! えっへん!
……だけど、ボクには実戦経験というものがありませんでした。
遥か地上――人間たちの世界では、今、大きな混乱が起こっているらしく。
天界にいるボクたちを力で従えて、人間たちの戦力拡大を企てようと、飛竜に乗った人間たちが、たまに攻めてくるのだそうです。
そして、あの日。
とうとう、ボクの初めての実戦がやってきました。
机の上で学んだことや、対人訓練は、ほとんど役に立ちませんでした。
それこそ人間たちは命懸けです。
乗ってきた飛竜が怪我をして、もう地上に戻れなくなっても。
他の兵士たちから、たくさんの矢を受けていても。
ボクの火魔法で身を焼かれていても。
参ったなんて言わずに、化け物のような形相でこちらに向かってきます。
血走った赤い目。
赤い血……。
ボクの眠りは浅くなりました。
恐ろしい夢を見て、何度も目が覚めてしまいます。
夜中、トイレに行けず……これは誰にも内緒です。
異例のスピードで出世したせいで、ボクの周りには相談に乗ってくれる仲良しさんはいません。
ボクだけのために用意された狭い部屋で独り寂しくしていても、泣かないように我慢するので精一杯です。
そんなときです、スーナ師匠が得体の知れない人間に泣かされたって聞いたのは。
人間め、許せない! そう思いました。
そいつの監視役の話が上がったとき、師匠の敵を取るために、ボクは真っ先に志願しました。
けれど、あの人間。
スローは、地上から攻めてくる人間たちとは、どこか雰囲気が違っていました。
スローは、基本的に寝てばかりいます。
スローは、ボクにおやつを分けてくれます。
スローは、ボクを褒めてくれます。
人間はやっぱり怖いけど、スローは隙だらけで怖くない気もします。
ううん、人間は必ず裏の顔を持っていると書物に記してありました。
なので、ボクがスローの悪い顔を暴いてやるのです!
これがボクの姫騎士としての使命です!
そんなこんなしているうちに、窓の外が白み始めました。
小鳥たちが薄明りの空にさえずっています。
朝です。
全然眠くはないのに、目蓋が重い感じが嫌だけど。
朝の準備をして、スローを見張りに行かなければなりません。
そうだ、今日は甘い言葉で唆されないようにしないと。
これは今日一日の抱負です。
……さて。
枕さん、おはようございます。しばしのお別れですね。
それでは、また今晩に。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
本日も夕方頃に、もう一話投稿する予定です。
お楽しみ頂けたら幸いに存じます!