表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

153/193

第152話 水着の天使に癒されて


 ヘルサが再び旅の一行に加わって、数刻。


 僕たちは今。


「アハハハハ! 海だーー! わーーい!」

「レトちゃん、待ってーー!」


 すっかりリゾート気分だった。


「どうしてこうなった……?」


 巨大なビーチパラソルの下に横たわっている僕は、なるべく日光を浴びないようにしつつ、ぼんやりとヴィオラたちの後ろ姿を見送った。


 アマゾネス族の健脚をこれでもかと見せつけ、砂浜を猛然と駆け抜けていく幼女レト。


 そして、そのすぐ後ろを必死で追いかけているヴィオラ。


 どうやら、二人はお(そろ)いの水着に身を包んでいるようだ。


 水着姿のヴィオラの腰辺りを、首から下げたインベントリー・ポーチが跳ね回っている。


「まぁ、センチョーがシュッコーの準備に時間がかかるって言うんだから、仕方ないギギ~」


 と、僕の隣から、ヘルサの(くつろ)ぐ声が聞こえた。


 彼はトロピカルジュースを片手に、オフの一時(ひととき)を満喫しているようだ。


 ただ、そのジュース。


 先程、彼がデスアイランドの森で拾った、得体の知れない果実の果汁100%である。


「っていうか、ヘルサ。そのトロピカルジュース、本当に大丈夫なの?」


 グラスの中が、完全にポイズン色をしているんだけど……。


 あと、なんかその内容物……。


 ボコボコ()き立っているんだけど!?


「平気ギギ~! しぼりたてだからフレッシュ(きわ)まりないギギ!」

「いや、フレッシュ極まりないジュースは沸き立たないから!! 絶対に、こんなマグマみたいな音、出さないから!!」

「一口欲しいギギ?」


 そう言って、グラスを近付けてくるヘルサ。


「いらない、いらない! 苦しゅうない! (ちこ)う寄るな!」

「全く、スローは心配性ギギなぁ~」

「心配性っていうか、衛生上の観点から即死まであると判断しただけだから……」

「ギギ~。(あま)(じょ)っぱくてサイコーなのに?」

「えっ……。それ、その見た目で(あま)(じょ)っぱいの……?」

「おうよ! けど、ちょっと()っぱいギギ!」

「えっ?」

「あと、死ぬほど(から)いギギ!」

「いや、やっぱり飲むと死ぬヤツ!」


 もはや、それ毒そのものじゃないの!?


 キュートな縫いぐるみのフェイスをして、一口(ひとくち)勧めてくるんじゃないよ、全く。


 しかし、そんな僕の心の声なんて、どこ吹く風。


 当の本人であるヘルサは、平気な顔をしてストローを(くわ)えている。


 だが、僕は知っている。


 そのストロー……。


 初めは、もっと長かったはずだ……。


 絶対にそのグラスの中で、溶かされている……。


 僕は、そう確信している……。


「チューー」っと、擬音を自分で口に出しながら、フルーティーな味わいを楽しんでいるところ大変申し訳ないが……。


「ねぇ、ヘルサ。そのほっぺたのところ、ちょっと溶けてない?」

「ギギィッ!? しまった!!」


 慌てた様子で、ギュムッと自分のほっぺたを押さえるヘルサ。


 そして――


「後でパッチワークしないとギギ……」

「いや、治るんかいそれ」


 頬の部分から、確実にアウトな何かが染み出ちゃっているけど!?


 しかし、致命傷ではないからなのか。


 ヘルサは、頬から毒素を「お漏らし」しつつも、ギギギと笑った。


 丈夫なんだな……、やっぱり……。


 ヘルサが常軌(じょうき)(いっ)した存在であることを、僕は改めて痛感することになった。


 すると、パラソルの外から――


「スローくん……」


 と、天使の白い羽で、身体の前部分を隠したコルネットさんが現れた。


「あっ! コルネットさんも着替えに行ってたんですね!」

「はい……」


 海をエンジョイする気MAXで、気付けばすでに水着を着用していた「ヴィオラ&レト」コンビに(うなが)されるようにして、天使の二人――コルネットさんとクラリィも、ついさっき更衣室へと姿を消したのだが……。


「どう……でしょうか……?」


 濃い藍色のストレートヘアをポニーテールにしたコルネットさん。


 彼女の純白の羽の下から、その羽と同じくらい純白の水着が……。


「一見、大胆にも思えるそのフレアビキニだったが、隠すところはしっかりと隠されており、すらりと細身で、程よく引き締まった彼女の白い肌は、もはや天使の品格すら窺わせる美しさであった……」

「おい、スロー!」

「ん? 何、ヘルサ」

「『であった……』じゃねぇギギ!」

「えっ?」

「全部、声に出てたギギ!」

「まさかぁ~」


 ははは、何を言っているんだ、ヘルサのやつは……。


 そんなわけが……。


 と思い、僕がコルネットさんに視線を向けると――


「きっ、気に入ってもらえたみたいで……、よかったです……。はい……」


 色白の顔を真っ赤に染め、少し(うつむ)き加減の天使が、そこにはいた。


 マズい……。


 これでは「変態認定」待ったなしである。


 どうしようどうしよう、と焦る意識と、隙あらば称賛(しょうさん)の声を漏らそうとする無意識がせめぎ合っている。


 そんなややこしい状態の僕を前にして、コルネットさんは恥ずかしそうに、また羽で身体を隠してしまった。


 そのとき――


 若干(じゃっかん)緊張気味のコルネットさんの後ろから、小鬼のような可愛らしい怒声が聞こえてきた。


「スロ~~! また、ひわいなこと、考えてたんじゃないだろうな~~!」


 ヤバい! 卑猥(ひわい)警察の強制捜査だ! と、気付いたのも束の間。


 クラリィが、コルネットさんを(かば)うようにして、僕に(にら)みを利かせてきた。


「ダメだぞ、ひわいなことは! コルネットさんは、もう清楚が羽を生やして歩いてるような人なんだからな!」


 そう言って、僕を(いさ)めるクラリィ。


 彼女は、コルネットさんと同じ純白の水着のようだったが……。


「その形状は異なっているようで、ワンピース型の水着となっており、広がった(すそ)に入ったドレープが、幼いながらも繊細(せんさい)な女性らしさを表していた」

「ヤバいぞ、スロー! また心の声が漏れてるギギ!」

()()、肩紐のついたオフショルダーではあるが、その他の露出は少なく、誰が見ても納得の健全スタイルであった……」

「ギギッ!? 接続詞ィ!? もうそれ、わざとだろ、スロー!!」


 ヘルサの核心をつくツッコミもなんのその。


 今もなお天使族二人の水着姿に見惚(みと)れている僕は、思考がバグってしまっているのかもしれない。


「だが、待って欲しい。天界を守護する姫騎士団の団長、および史上最年少姫騎士の水着姿である。それは、もう仕方が無いことなのかもしれない……」


 そんな思考ダダ漏れモンスターの僕を見て、「ひぃっ」と、一瞬、(おび)えた表情をしたクラリィ。


 しかし、彼女は、すぐにその表情をコロッと変えると――


「まぁ、いつもは色気のない黒一色のローブだからね。たまにはこんな感じのもいいかなと思ってさ」


 と、確かめるように自分の水着を見下ろした。


 さらりと、彼女の黒髪が揺れる。


 確かに、いつもは魔法使いのワードローブで、黒ズキンちゃんみたいな格好だけど。


 こうも急にフェミニン全開で来られると、こっちはちょっとドキッとするじゃないか。


「変……かな?」


「いいや、めちゃくちゃ似合ってる」と、即答する僕。


「そう? よかった!」


 そう言って、ニコッと笑顔のクラリィ。


 ピュアな笑顔が炸裂(さくれつ)


 (じゃ)の者、スローに5億のダメージ!


 僕は死んだ!


「みんなで選んだんですよね、クラリィちゃん」


 完全変態の僕の熱視線にも慣れたのか、コルネットさんがいつもの感じで、そう言った。


「そうそう。フィンポートの雑貨屋で、ちょっとね」


 おいおい。


 僕は、停竜所(ていりゅうじょ)の激烈スメルズバッドの中を、必死で耐えていたというのに……。


 みんなは道草を……。


 だが、オールオッケー。


 全て許すのである。


 何故なら、みんな素敵だから。


眼福(がんぷく)なぁ~」

「もうオレは()めないギギ!」


 僕の深刻な心の声の漏洩(ろうえい)問題は、ついにヘルサにも見限られてしまったようだ。


 頬から毒素を漏らすやつか、心の声を漏らすやつ。


 どちらの方がヤバいかというと、どちらも等しくヤバいとしか言いようがない。


 そんな調子で目の保養をし続けて、そろそろ(まばた)きの仕方を忘れ始めた僕に――


「そう言えば、ヴィオラとレトはどこ行ったの?」


 と、クラリィが辺りをキョロキョロしながら尋ねてきた。


「えっ? 二人なら、さっき砂浜を爆走していったけど?」


 そっちそっち、と、僕は二人が去っていった方向を指差した


 すると――


「げっ!」


 一体どうしたんだろうか。クラリィの顔が引きつっている。


 ようやく「天使の癒し」から視線を外して、僕もそちらの様子を窺うと――


 ここから少し先に見える、客船サント・セイント号の停まった入り江。


 その前に広がるビーチで……。


「いざ尋常に勝負だね、レトちゃん!」

「わーーい! 勝負勝負ーー!」


 ヴィオラとレトが、屈強な悪魔たちに取り囲まれていた。


いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。


少しでも明るい気持ちになったり、クスっと笑っていただけていたら嬉しく存じます。


次話、『第153話 砂上の戦い』は、明日、9月6日(日)に投稿する予定です。


これからも、ゆるゆるな異世界コメディーを何卒よろしくお願い致します。


ご指摘やご感想もお待ちしております! 大歓迎!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
▲応援いただけますと、大変励みになります!▲
 
▼みなさまのご感想、お待ちしております!▼
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ