第12話 No Lucky, No Life.
コンコンというノックの音。
――が聞こえるや否や、ガチャリと客室の扉が開かれた。
「おはよう、スロー! もう朝だよ! 起きてる?」
このスピード感は、間違いなくヴィオラである。
すでに、あの「姫騎士三人の三大欲求大解放事件」から数日が経とうとしていた。
僕はといえば、毎日毎日、快適な客室に引き籠り――
ダラダラ、ゴロゴロと、ぐうたら生活をエンジョイしていた。
ビバ! スローライフ!
まぁ、どうして僕がこんな素晴らしい待遇でいられるかというと。
ヴィオラ曰く――
「スローは、この天界の大きな戦力となるかもしれん……だって! バス王さまが言ってた!」
……だそうだ。怖い。
なんというか、客人というより秘密兵器扱いなのだ。
そして、まだ初日のアレから敵襲は無さそうだったのだが、どうやら戦っている相手というのが、天界を取り込み、軍拡を企んでいる人間族なんだそうだ。
同じ人間族である僕は、少し肩身が狭い。
なので、僕はあまり部屋の外を出歩くことができず、こうやってヴィオラが遊びに来てくれるのを楽しみにしているのだった。
ときに――
もう一度確認しておくと、この部屋には鍵がない。
今の僕はというと、シャワーを浴びたばかりで、腰には何も巻いておらず。
机に置き忘れた着替えの下着とローブを取りに行こうと、部屋を練り歩いている最中だった。
生まれたての姿で。
「あら、御免あそばせ」
僕は、どこまでも平静を装い、淑女のような気高さを持って、ヴィオラにそう返したが。
心の中では、淑女のような悲鳴を上げていた。
対して、ヴィオラはというと――
「あ、あ、あ……」
思考回路はショート寸前のようだった。
そんなに今すぐ会いたかったの?
僕の純情はどうしてくれるのだ? ミラクルロマンスか?
こんな逆ラッキースケベがあっていいはずがない!
これは夢だ! 夢なら早く覚めてくれ!
「あっ、そうそう! バス王さまが、話があるから来てくれって」
意識を取り戻したのか、自然な笑顔で僕にそう報告してくるヴィオラ。
彼女の脳内では、僕はもう、そういう生き物だと、みなされてしまったのかもしれない。
生憎、僕には、姫騎士セーナさんのように肌を露出する趣味はない。
が、焦っていると思われるのもなんだか癪だったから、実にゆったりと、優雅なモーションで着替えを始めた。
すると、そのとき。
「なんか、スローって色白でいいね」
いや、余計なことを!
これは受け手側の問題である!
場合によっては、女性から男性に対してでも、立派にセクハラが成立するって言うじゃないか!
第一、僕より色白で、肌も瑞々しいヴィオラがそれを言うんじゃない!
「いいでしょ?」
……。
僕も返答をしくじった!
何が、「いいでしょ?(クソ爽やかボイス)」だ!
日に焼けていない色白が美徳とされるのは、女性かヴァンパイアくらいだ!
反省しろ、自分!
ヴィオラのは純白、大雪原の色!
僕のは蒼白、ゾンビ色!
「う~ん。バス王さまの話って、なんだろうねぇ……」
クリティカルな部分まで完全に目視され、まだ心穏やかではない僕を差し置いて、もうすっかり普段通りのヴィオラ。
彼女が投げ掛けてきた会話の種に対して、下着姿で猛省中の僕は、もう何も言い返せなくなってしまっていた。
こんなことになるなら、筋トレの一つでもしておくんだった……。
生まれてこの方、ずっと自堕落な生活を続けてきたツケ。
それが、とうとう回ってきたのかもしれない。
ガリガリで腹筋が割れているなんて不本意すぎる。
もう、あまり記憶が残っていないけれど、生前から他の追随を許さない程、モヤシ野郎だった僕である。
死ぬまでに一度は、「筋肉はファッション」などと宣ってみたい人生だったなぁ……。
そんな思春期真っ只中の僕の筋肉事情をよそに――
一難去ってまた一難。
ぶっちゃけありえないバス王との拝謁タイムは、刻一刻と近づいてくるのだった。
お読み頂きありがとうございました。
少しでも明るい気持ちになったり、クスっと笑って頂けていたら嬉しく存じます。
次話、『第13話 監視役クラリィ』は、明日の午前中に投稿する予定です。
新キャラが登場します! 黒髪ショートの魔法使い!
ゆるゆるな雰囲気の異世界コメディーですが、気に入って頂けていたら幸いに存じます。