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第122話 到着、デスアイランド!

 

 波音が聞こえている。


 ついに到着してしまった。


 絶海の孤島、デスアイランド。


 雲一つない青空の下、いい感じの入り江を見つけて停泊したサント・セイント号。


 今、そのデッキに立つ僕の目には、モクモクと黒い煙を吹き出している山が映っている。


「わぁ~! 綺麗な山だねぇ~! スローもそう思わない!?」

「う~ん、圧倒的っ!」


 目の上に手をかざして遠景を眺めているヴィオラに対して、僕は酷く曖昧(あいまい)な返事をするしかなかった。


 確かに、山の中腹には、ピンク色の花が咲き乱れていて、見る者を圧倒する美しさがある。


 ただ、それよりも、噴火秒読みと言わんばかりに(とど)まることを知らない黒煙の方に、僕は圧倒されているのである。


 それは花の美しさなどでは決して相殺(そうさい)することができない。だって命が大切だもん。


「それで、ティトレスさんは何しにこの島へ?」

「えっと、あの……、人探しなんです……」

「ほぇ~。人探しですか」


 僕の質問に、ティトレスさんはすっかり(かしこ)まった態度で答えた。


 こんな地図にも載っていない島に、本当にお目当ての人が存在しているのか?


 得体の知れない島をジッと凝視しながら、僕がそんなことを思っていると――


「じゃあ私……、行ってきますね……。一時間経っても私が帰って来ないようでしたら、もう出航しちゃって下さい……」


 ティトレスさんが、まるで今から断頭台へ向かうかのような、か細く震えた声でそう言った。


「えっ!? 一人で行くつもりなの!?」


 と、僕が驚きつつ、ティトレスさんを引き留めようと思った、そのとき。


「そんなぁ~! 一人で行くなんて絶対ダメだよ! 私も行くよ!」


 ヴィオラが、お腹の底から声を張り上げた。


「ヴィオラさん……」


 ティトレスさんが、(うる)んだ目でヴィオラを見ている。決死の覚悟の反面、きっと内心ではとても不安だったんだろう。


 そうだ。


 そうだった。


 ヴィオラは、誰よりも正義感が強くて、いい子なんだった。


 それはもう、困った人がいたら放っておけないタイプで――


「みんなで行かないと! だって冒険なんだから!」


 いや、だから。ヴィオラのそのワクワク具合は、海賊のそれなのよ。


 モチベーション高すぎない?


 全力で大秘宝でも探し当てるつもりなの? ヴィオピース?


「ワタシも行くんだからね! だって森があるんだもん!」


 モチベーションの化身(けしん)、ヴィオラの隣で、そう息巻いているのは、アマゾネス族の幼女レト。


 彼女は、“森と生き、森と共に滅ぶ”系女子。


 生粋(きっすい)のジャングリッシュ・ピーポー。


 本当の意味で、森ガール。


 おしとやかに見えてゴリゴリのアウトドア派であるヴィオラとレトは、いつの間にか、ちゃっかりとお揃いの探検隊服に着替えている。


 行く気満々の準備万端である。しっかり者。


 そんな本意気のヤル気(ぜい)二人をよそに、僕は全くと言っていい程、気が乗らなかった。


 それは、今になって、入り江の目の前に鬱蒼(うっそう)と広がっている森の中から、何者かに見られているような気配を感じ始めたからだった。


「変な島だね……。森に何かいるみたい……」


 クラリィも同じことを思っていたのか、僕の隣で不安そうに森の様子を(うかが)っている。


 島に向いて吹く強い潮風が、青々とした森の木々を揺らし、ザワザワと不穏な音を立てる。


 デッキにいる僕たちの頭上遥か高いところを数羽の海鳥が舞っているが、一匹たりともこの島には近寄ろうとしない。


 やっぱりこの島は危険なんじゃ……。


 すると――


「スローくん、体調は良くなりましたか?」


 緑竜ミドリのお世話をしにいってくれていた姫騎士団長コルネットさんが、船尾の方から姿を現した。


「コルネットさん、ご心配をお掛けしました。もうすっかり快調ですよ!」

「ふふふっ、元気そうで安心しました。なんだか一日スローくんと会わないだけで、しばらくずっと会わなかったみたいな感じがします」

「ほんとですね。僕、ベッドでゴロゴロしながら、早くみんなと会いたいなぁ、ってずっと思ってたんですよ」

「私もスローくんと早く会いたかったです。昨日は、その……ちょっとだけ寂しかったです……」


 コルネットさんのしおらしさの中にも色気が漂うその表情で見詰められ、「すっ、すいません……」と、つい緊張してしまう僕。


「謝らないで下さい。またこうして、すぐに会えてるんですから」


 それは美しい微笑みだった。


 すると、そんなやり取りを僕のそばで聞いていたクラリィが。


「すごいなぁ。大人の会話だ」と、ポツリ。


 なんだか無性に気恥ずかしくなった僕は。


「クラリィにも早く会いたかったぞーー!!」


 照れ隠しに、クラリィの頭を優しく、かつ激しく撫で回した。


「うわわわーー!! スロー、どうしたーー!!」

「ヨシャヨシャヨシャ~~!!」

「わーー!! やめてーーーー!!」


 ハハハハ、くすぐったいーー、と笑っているクラリィの声が届いたのか。


「ねぇねぇ!! みんなも行くでしょ!? デスアイランド……ってそうだった。スローはまだ病み上がりなんだった……。私ばっかりはしゃいじゃってゴメン……」


 風のような速さで僕たちに近づき、同じく風のような速さで自らの言動を(つつし)む、風のヴィオ三郎。


 その急激なテンションの暴落具合は、まるでストップ安。監理銘柄からの上場廃止まであるレベル。


「ヴィオラ、そんなに落ち込まなくても……」


 シュンとしているヴィオラを慰めるため、僕のことは気にしなくていいから、みんなと行っておいで、と言おうとした、その瞬間。


「ぶぉ~くは、まだ仕事が残っているから丁重にお断りさせていただくよぉ~。船も守らなきゃいけないからねぇ~」


 何故か、ちゃっかり僕たち一行に加わる気でいた船長が、丁重なのか分からない口調で、丁重にお断りを告げてきた。


 なので、僕は――


「いや、やっぱり僕も行くよ! もう大丈夫、ピンピンしてるから!」


 全ての考えを撤回して、ヴィオラに捜索隊への参加を表明した。


 よくよく考えると、ヴィオラがみんなを連れて冒険へ出かけた後、サント・セイント号に不気味な船長と二人きりというのは、単純に怖い。もちろんデスアイランドも怖いけど。


 何より、一時間経ってみんなが帰って来なかったら出航することになるんでしょう、船長と二人で。


 それこそ丁重にお断りさせていただきたい。


「やったー! ほんとに!? みんなで冒険できるの!?」と、笑顔がはじけているヴィオラ。


 その向こうで、船長が、ラフな服装の僕を見て――


「あれ? 男の天使さん、背中の羽はどうしたんだろぉ~?」と、疑問を抱いている。


 ……。


 まぁ、「今、洗濯中」とでも答えておくか、後で。


 とりあえずは、僕もヴィオラに探検隊の服を貸してもらおうかな。いざ行くとなったら本格的な装備がいい気がするからね。


 そんなことを考えていると、どこからともなく、悪魔の縫いぐるみヘルサが僕の頭の上に飛び乗ってきた。


「ギギギ? スローも一緒に行けるのかぁ?」

「あぁ、ヘルサ。昨日、丸一日寝て完全に回復したからね。足手まといにならないように頑張ってついていくよ。っていうか、ヘルサもデスアイランドに行くの?」

「アタボーよぉ! 冒険がオレを呼んでいるギギッ!」

「何それ、格好いい」


 けど、冒険ねぇ……。この島、安全なのかなぁ……。


「スローも一度、口に出して言ってみるといいギギ! ヤル気がミナギってくるギギ!」

「それ、ほんとに言ってる?」

「マジマジの大マジギギ!」

「……分かった。言ってみる」


 (にわか)には信じられなかったけれど、僕は不安を()き消すように、意を決して――


「冒険が僕を呼んでいるッ!」


 デッキに響く、僕の気合の言葉。


 波が引くように、シーンと静まり返るデッキ。


「わぁー……!!」と、輝く碧眼から感動の眼差しをくれているのはヴィオラだけ。


 周りのみんなは、「何? スロー、急にどうしたの?」と、珍しいものを見る目で僕を見定めている。


 とても高視聴率。これは、かなり恥ずかしい。


 それに加えて……。


 僕自身、イマイチ(みなぎ)ってこないんだけど……。


「ウ~ン。やっぱり、スローはそんなキャラじゃないギギ!」


 そう言って、ギギギと笑うヘルサ。


 その小さな顔を、僕は丁寧に四つ折りにしてあげるのであった。


いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。


読者のみなさまが、少しでも明るい気持ちになり、本作をお楽しみいただけていたら嬉しく存じます。


次話、『第123話 アウトかセーフで言えば』は、5月16日(土)に投稿する予定です。


これからも、ゆるゆるな異世界コメディーを何卒よろしくお願い致します。


ご指摘やご感想もお待ちしております! 大歓迎!

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