第11話 咆哮とその顛末
「うおおおおおおおおおお! 解除おおおおおおおおおお!」
物音一つしない謁見の間に、雄叫びがあがった。
これは僕の魂の叫びだ。
右手をショナさんとスーナさんに向けて力む僕の姿。
ヴィオラの澄んだ目には、どう映っているだろうか。
異世界への転生に失敗し、天界へやって来た次の日の朝一番に、喉を傷めている哀れな男に対して――
すごいね、よく頑張ったね、と微笑みかけてくれるだろうか。
やはり、突き出した僕の手のひらからは何も出てこず、静寂。
まさしく、うんともすんとも、というやつである。
あぁ……。
僕は今、泣いてはいないだろうか。
目から塩化ナトリウム水溶液が、無駄に垂れ流されてはいないだろうか。
それとも逆に――
顔から火が出ていないだろうか。
野生の動物たちから、火はやべぇ、逃げろ逃げろ、と恐れられてはいないだろうか。
知っていたんだ。
僕にはフロアを沸かせるバイブスなんて元から無かったことを。
熱くビートを刻んでいた僕の拍動が、どんどん弱っていく。
僕はもう、どこかに消えてしまいたいと心から思っている。
そんな僕の心臓のBPMは5とかそこらだろう。医学的にも、音楽的にも。
「終わったのか……?」
バス王が、ポージングだけベリーナイスな僕ではなく、姫騎士二人のことを見下ろしている。
これは、僕の方を見ていないよ、というバス王なりの優しさなのかもしれない。
バス王さま、マジ感謝。
「恐らく、終わったみたいです……」
静かにそう答えるショナさんの頬に、一筋の汗が流れた。
これが終わっているかどうかは、正直、僕自身よく分かっていない。
僕には、スキルをかけたという明確な手応えがないのだ。
だから、解除できたという手応えが知覚できるはずもないのだ。
これは、当然の帰結といっていい。
僕はもう早くベッドに戻って二度寝、三度寝したいんだ。
今朝のスーナさんのように、五度寝まではできないと思うけれど。
あれにはナマケモノの才能がいるから、間違いなく。
スーナさんは素質がある。天才肌。
「それでは、暫し二人の経過を見るとしよう……」
「承知致しました」と、姫騎士二人の声がユニゾンした。
その後の顛末としては――
僕の処遇は、ひとまず「保留」ということで、スキルの全容が把握・解明できるまで、客人として天界においてくれるそうだ。
さらなる後日談としては――
彼女たちは、二人とも見事に自制心を取り戻し、姫騎士団の一員として、より一層華々しい活躍をみせるのであった。
……何か忘れているような気もするけど、まぁいいか。
セーナさんは程なく子宝に恵まれ、姫騎士を寿退団の後、許嫁と共に、それはそれは幸せな家庭を築きましたとさ。
めでたし、めでたし。
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
本日も夕方頃に、もう一話投稿する予定です。
次話は、逆ラッキースケベの回となっております。
お楽しみ頂けたら幸いに存じます!