第10話 崩壊する自制心
「ショナも起きられなかったの……?」
スーナさんが、涙を拭いながら尋ねる。
「いや、私は……。食欲のセーブができなくなってしまったんだ……」
ショナさんは、そう言って俯いてしまった。
「ショナよ。どういうことだ……」
バス王が、ふわふわの口髭を左手でゆったりとしごきながら、そう言った。
「少し前に朝食をとったのですが、今朝はどういうわけか、いつもの量では我慢できず、限界まで食べてしまったのです。それで、お腹が苦しくて、今日は大剣の自主トレーニングを……」
サボってしまったのか。
「昨日の夜食も食べすぎてしまったし、このまま食欲が暴走し続けて、姫騎士にあるまじき体形になってしまったらどうしよう……。そうなったら私……」
ショナさんは、そう言うなり、顔を両手で覆ってしまった。そして――
「一人称が、我輩になってしまう……」と、嘆いた。
待って、怖い。それ、どういう仕組み?
もはやそういう癖じゃないかと疑いたくなるセーナさんに比べると、しっかりと鎧を纏っているショナさんは、決して露出が多いわけではない。
しかし、彼女も彼女なりに体形を気にしていたのかもしれない。
いやいや、そんなことよりも――
「スローよ。スキルの解除の仕方は、わからないのか……?」
「は、はい。分かりません……」
「ふむ……」
だから、あのとき言ったじゃないか!
何が起こるか分からないって!
そもそも、彼女たちの自制心が崩壊してしまったのは、本当に僕のスキルのせいなのか!?
そんなこと、まだ決まっていないはずだ!
その蓋然性が高いというだけだ!
これは法廷で争ってもいい!
……。
やっぱり、僕のスキルのせいなの? 決定?
……。
多分そうなんだろう。きっと、恐らく。
「でも、やれるだけは、やってみます……」
僕は、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
広間中の視線が僕に集まっているのを感じる。
わぁ、凄い! 高視聴率!
などと、早々に現実逃避し始めそうな精神をギュッと抑え。
白いローブの袖をまくると、そこから日を浴びていないモヤシのような細い腕が出てきた。
これは落ち込んでいる大人のお姉さんたちのため!
僕は、自称・鋼鉄のメンタルに、そう強く言い聞かせ。
顔を真っ赤にしながら、歯を食い縛り。
再び、あの羞恥極まる沈黙タイムに耐える用意をするのだった。
……個人的には、ポーズ自体は、中々格好いいと思うのだけれど。
……ダメ?