第三回 ―補講―
どうもみなさん、ごきげんよう、ボンクラです。
何か、いつの間にか恒例化しつつある補講のお時間でございます。
今回も、ちょっとした具体例を挙げてみましょうか。
正直、ダメダメな例文ってのが、想像以上に難しいと前回思い知らされたんですが……比較対象無いと意味ないっすもんねえ。
えー、では、剣戟響き渡る剣士たちの戦いを例にとって――とか言うと、手を叩いて大笑いする人たちがわりといそうですが、やりませんからね? 後が怖いっすから。
なんせほら、商業主義的に言えば向こうが絶対正義なわけですしねえ。加えて、ボロクソにこきおろしたところで私が何か得するわけでもないですし。精神衛生上よろしくないので無視しましょう。
……え? 充分ケンカ売ってる?
やだなあ、何の話ですか? 単なる私の寝言独り言ですよ? ええ。
……というわけで、具体例にする音は「パンパンパン」にしましょう。
これなら大丈夫だろ。うん。
ではまず、「効果音」でしか使ってない場合。
*
その通路に足を踏み入れた途端――。
パンパンパン! パンパンパン! パンパンパン!
「うわっ!」「ひえっ!」
ボンとクラは慌てて隠れた。
パンパンパン! パンパンパン! パンパンパン!
「こんなに厳重なんて聞いてないぞ……」
「これじゃ飛び出た途端ハチの巣にされちまうな」
パンパンパン! パンパンパン! パンパンパン!
「まあ、何とかなるだろう、俺たちなら……」
「そうだな、やるしかないか――行くぞ!」
パンパンパン! パンパンパン! パンパンパン!
パンパン! パンパン! パンパンパン!
「これで……全部か?」
「おう。ふー……いや、ホントに何とかなるなんてなあ」
敵陣を突破したボンとクラは、さらに先へと進んでいく……。
*
………………何だコレ。p押しすぎて右手小指が痙攣しそうになった。
いやまあ、さすがにここまでムチャクチャな文はないでしょうが、そこはそれ、例文ゆえに極端にしたということでご容赦下さいな。
取り敢えずイメージとしては、「すごい数の敵に待ち伏せされ、銃弾が雨あられと降り注ぐ屋内戦」なんですが……。
その勢いを表したかったのか知れんが、それが音ばっかりで、なんのこっちゃワケ分からんよーになってる、という感じですね。いいからまず落ち着け、みたいな。
そもそも音が一本調子で意味を持たせてないから、銃声かどうかすら一瞬分からない。
会話文の「ハチの巣」で、どうにか、銃撃にさらされているのだと理解出来なくも無い程度。
――では続いてこれを、同じ数だけ「パンパン」は使用しつつも、それが意味ある「擬音」として活きるように改稿してみましょうか。
*
その通路に足を踏み入れた途端――。
パンパンパン! パンパンパン! パンパンパン!
無数の銃火が二人の目を灼いた。
「うわっ!」「ひえっ!」
ボンとクラは慌てて、手近なコンテナの陰に飛び込んで隠れる。
改めて状況を確認しようと、そっと顔を覗かせると……。
パンパンパン! パンパンパン! パンパンパン!
すぐさま首を引っ込める二人。
「こんなに厳重なんて聞いてないぞ……」
「これじゃ飛び出た途端ハチの巣にされちまうな」
パンパンパン! パンパンパン! パンパンパン!
銃声の軽さから言って、敵は小口径の拳銃しか持っていないようだが、とにかく数が多い。
そもそも、ボンとクラの二人も、武器はそれぞれ拳銃一挺ずつしかないのだ。
「まあ、何とかなるだろう、俺たちなら……」
「そうだな、やるしかないか――行くぞ!」
ボンの合図に合わせて、クラが配電盤を撃ち抜き――明かりが落ちたその瞬間、二人は一気に攻勢に転じようと、コンテナの陰から飛び出した!
パンパンパン! パンパンパン! パンパンパン!
パンパン! パンパン! パンパンパン!
闇を裂いて、激しく交差する銃火。
やがて――。
消えた照明が非常灯に切り替わる頃には、動く者はボンとクラの二人だけになっていた。
「これで……全部か?」
「おう。ふー……いや、ホントに何とかなるなんてなあ」
こうして敵陣を突破した二人は、休む間もなくさらに先へと進んでいくのだった……。
*
……どうでしょうか。
あ、技術面はともかく、話の内容についてのツッコミはナシでお願いしますね。
えー……さすがに「音」が多すぎるきらいはありますが、それでも、その「音」にある程度の意味は見出せるようになったかと思います。
これなら、ただの「効果音」ではなく、一応、意味ある「擬音」になっているのではないでしょうか……あくまでボンクラ式分類においての、ですが。
――というわけで、今回の補講はこれぐらいにいたしましょうか。
あ、もちろん、「だからどうした」程度の補講なんで、チョコは結構ですよー。
……え? オマケ、ですか?
はあ……じゃあまあ、ついでに、「音ナシ」バージョンも載せときますか。
私、一応そっちの方が得意なんで。
ああ、でも言っておきますが、「音ナシが正義」とか宣うつもりはまったくありませんからね? それについては、第三回本講の方でも述べたと思いますけど。
あくまで、参考程度に、ということで……。
*
その通路に足を踏み入れた途端――無数の銃火が二人の目を灼いた。
「うわっ!」「ひえっ!」
ボンとクラは慌てて、手近なコンテナの陰に飛び込んで隠れた。
その後を追うように、押し寄せる鉛弾が乱暴に床を洗っていく。
……ややあって訪れる、奇妙な沈黙。
しかし、このスキに改めて状況を確認しようと、二人がそっと顔を覗かせると……。
待ってましたとばかりに、そこを目がけて鉛の雨が降り注ぐ。
臆病なカメよろしく、すぐさま首を引っ込める二人。
「こんなに厳重なんて聞いてないぞ……」
「これじゃ飛び出た途端ハチの巣にされちまうな」
隠れていてもムダだとばかりに、今度の雨はなかなか止まなかった。
コンテナを激しく、しつこく打ちすえるが……実のところ、その雨粒一つ一つの音は軽い。
控えめな爆竹のような銃声から言っても、敵は小口径の拳銃しか持っていないということだろう。
しかし……とにかく数が多い。雨粒も寄り集まれば河に――激流になるのだ。
そしてそもそも、対するボンとクラの二人も、武器はそれぞれ拳銃一挺ずつしかない。
単純に考えれば、子供でも分かるほど戦力差は絶望的だが……。
「まあ、何とかなるだろう、俺たちなら……」
「そうだな、やるしかないか――行くぞ!」
二人は絶望どころか、悲観すらしていなかった。
ボンの合図に合わせて、クラが配電盤を撃ち抜き――明かりが落ちたその瞬間、二人は一気に攻勢に転じるべく、コンテナの陰から飛び出した!
見えずとも、数に任せれば何とかなると踏んでいるのだろう――止むことのない激しい銃火が暴力的に暗闇を照らし、場を蹂躙するが――。
二人は、その場所には既にいなかった。
先の銃火によって敵の配置を悟っていた二人は、一瞬の闇を利用して、側面を突くように移動していたのだ。
そして――。
無駄のない正確無比な射撃で、反撃のスキも与えず、一方的に敵を無力化していく。それはまさしく、圧倒だった。
……やがて。
切れた照明が非常灯に切り替わった頃には、すっかり場には静寂が戻り――。
動く者は、彼ら二人だけになっていた。
「これで……全部か?」
「おう。ふー……いや、ホントに何とかなるなんてなあ」
こうして、敵陣を突破したボンとクラは、休む間もなくさらに先へと進んでいくのだった……。
*
うーん……こんな感じ、でしょうか。
手を入れ出すといつまで経っても終わらなくなりそうなので、ひとまず。
それでは、今回はこれぐらいで失礼いたします。
皆様、ボンクラに惑わされることなく、良き執筆生活をお送り下さいね。