第5章1 挑むに知者欠ける
初日終了直後、予選の成績がランキング形式で会場各所に掲示された。
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1.チーム・ガント
2.チーム・ハル
3.チーム・モロ
4.チーム・ブリリアン
5.チーム・リッド
6.チーム・ズッテロ
7.チーム・クォンタス
8.チーム・ブルックルン
9.チーム・オグワス
10.チーム・エステランタ
~二日目・本選1回戦目の組み合わせ~
第一試合:1位 vs 8位 試合開始予定時刻:11:00
第二試合:4位 vs 3位 試合開始予定時刻:13:00
第三試合:7位 vs 10位 試合開始予定時刻:14:00
第四試合:6位 vs 2位 試合開始予定時刻:15:00
第五試合:5位 vs 9位 試合開始予定時刻:16:00
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出場選手は勿論、観戦する他生徒や学外からの招待客なども掲示をチェックし、やれどの試合を見に行くだの、どこが勝ち上がるかだのと掲示の前で盛り上がる。
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本選はトーナメント形式。
本選初日は1回戦。10チームが5チームに減る。
2日目に2回戦。1回戦勝ち残りの中で予選成績最上位チームがシードとなり、5チームから3チームに絞られる。
3日目は1回戦・2回戦の敗北チームが予選と同じ方式で敗者復活戦を行う。
4日目は3回戦。敗者復活で勝ち上がった1チームを加えた4チームによる準決勝。
そして5日目が最終日。残った2チームによる決勝戦。
………というのが大まかな流れとなる。
もっとも、各試合の進み具合によってスケジュールはその都度前後し、日数が伸びる事も考慮して予備日も設定されている。
なので当日は会場各所の拡声魔導具によって随時アナウンスが流れ、客や生徒達に試合の案内がなされる仕組みが整えられていた。
―――――――学園内選抜戦技大会。第一会場。
ワァァァァ!!
閑散としていた初日の予選日とは違って、会場は歓声に包まれていた。
二日目の今日から予選を通過したチームによる本選が執り行われ、各試合は招待されたゲストや、選手ではない生徒らも観戦できる。
そして本選は原則、この第一会場でのみ執り行われていく。しかも予選とはルールも異なり、個々の試合の制限時間は最大10分になり、勝ち星の数ではなく大将を倒した方が勝利という本格的なものとなる。
なので予選に比べて進行はかなり遅くなる事が予想され、最後の試合となる決勝の決着がつくその時まで数日を要する大会スケジュールだ。
もちろん長くなる分、連日に渡って出店ゾーンも活気が続く事が見込まれ――――
「 " ―――今大会の企画・責任者である教師・フラッドリィとしては、むしろどんどん長引いてくれて結構、とさえ思っていた " 」
「何を勝手に人の思惑をアナウンスしとるかっ」
「じゃあ、とっとと終わった方がいい?」
「………」
シオウの指摘に押し黙るフラッドリィ。完全に図星らしく、誤魔化すように明後日の方向を向いたその顔面は、軽く照れ赤らんでいた。
「…え、ええい! 今はそーゆー話をしとるんじゃあない! お前の防具の話をだなっ」
「誤魔化した」
「誤魔化して悪いかっ! だいたい余計を言って先に話を逸らそうとしたのはお前の方だろうがっ!!」
チーム・リッドは無事、予選を通過して本選に進む事が出来た。…が、他のメンバーが予選で傷ついた装備を補強したりなんなりしている中、やはりというかシオウだけはいつもの制服姿だった。何かしたかと言われれば、予選で汚れたスカートを洗ったくらいだ。
結局、それがまたぞろフラッドリィに見つかり、こうしてガミガミとお説教を受ける運びとなっていた。
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シオウがフラッドリィにつかまっている同じ頃、一足先に試合会場に来ている4人は、執り行われようとしているチーム・クォンタス vs チーム・エステランタの試合をのんびりと観戦していた。
「うーん、やはりと言いますかー…予選とはレベルが違いますねー」
スィルカに同調するようにリッドもうなずく。
「だな。どの対戦でも選手の真剣味が違う……まぁ当然か。予選はそもそもふるいだしな」
「大会の趣旨としては強い方々が残るのは望ましい事なのでしょうけれど…私達のお相手もやはりお強いチームなのでしょうか?」
ミュースィルの問いに、ノヴィンも気になるとばかりにリッドを伺う。
視線が集中して質問の答えを期待されたリッドは腕を組み、空を仰いで少し考える。
「うーーーん……なんて答えるべきなのか、難しいところだなー。俺は分析とか苦手だし、普段の戦技の様子くらいしか知らないしなぁ。かといって戦技演習の成績や様子なんざ、参考にもならないし」
参加選手は全員がこの学園の生徒である。
普段の戦技科目における成績であるとか、実際の戦技の実技演習での動きだとかは一見、実力を知るための材料になりそうに思える。
だが出来る奴にしてみれば学園の戦技演習などいわばお遊び。普段は手抜きが当たり前で、本気の実力を推測するのは不可能だ。
実際、リッドやスィルカにしても戦技演習は割と適当にこなしている。他の連中も同様である可能性は高い。
「シオウ先輩がいれば、もう少し詳しい事がわかったんでしょうか?」
「まーな。アイツはウチの知恵袋、かつ分析担当みたいなもんだし。まさか2日続けてフラッドリィのおっさんに出くわして首根っこ掴まれる事になるとか、さすがのアイツも思ってなかったろうな、ははっ」
リッドの言葉を受けてスィルカとミュースィルは、猫っぽいシオウが筋骨隆々なフラッドリィに首根っこ掴まれて持ち上げられてる様子を妄想し、すごく似合うと思わずクスクスと笑ってしまう。
しかも予選の時とは違い、リッド達の試合まではまだ時間が結構ある。
シオウがフラッドリィの説教から解放されるまでは長くなる事必至だろう。
折れて素直に防具増強するか、フラッドリィに何かしらの用事が入るかしない限り、この場にチームメイトである女子みたいな白髪の男子が合流する事はできそうになかった。
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などと思っていると、予想以上に各試合はトントンと進み、チーム・リッドの出番がきてしまう。
時刻はまだ14:50分で当初の予定時刻よりも随分と速い。前の試合終了後から、定期アナウンスによって次のリッド達の試合は何度も15:00からと周知されており、観客席もほとんど埋まっている。
そして4人は既に試合会場は闘技場の脇に集合していた。
だが、やはりそこにシオウの姿はない。
「シオウさん、まだ来ませんねー?」
スィルカが片手を額に当て、闘技場脇の選手入り口の方を伺うが、何者かがやってくる気配はなかった。
「え、えーとこの場合って、どうなるんですか?」
不安そうなノヴィンだが、リッドはまるで心配してはいなかった。
「大丈夫だろ。さっき拡声魔導具で試合案内のアナウンスが流されたから、さすがにフラッドリィのおっさんも解放するだろうし。万が一シオウが間に合わなくても試合は普通にやれるしな」
「そうなのですか? 人数不足でも大丈夫なのでしょうか?」
「ルール上は問題なかったはず……例えば姫さん、急病とかでチームの誰かが試合に出られなくなったら、そのチームは人数不足で敗退…ってなると思う?」
その問いにミュースィルは、んーと少し考えてから解答する。
「…もしそんな事をしてしまいますと、チームの他の方が可哀想ですから、ならないと思います」
「そーゆー事。最悪シオウが間に合わなくても、4人で勝てばなんら問題ないわけだな。それにシオウの奴は元々、直接の戦力というよりかはその観察眼と経験からくるチームの参謀みたいな貢献を期待してたからな」
「戦力という意味なら、不在でも問題なしゆー事ですか。確かにそれはあるかもしれませんねー」
スィルカは納得するが、ミュースィルは少しアレ? と小首を捻った。
元より自分やノヴィンは出来ない方なのは自覚している。そして二人がそこに、シオウも同列扱いしている事に違和感を覚えた。
もしかしてリッドは知らないのだろうか? とミュースィルは不思議に思う。
「(知り合ってまだ数か月のシルちゃんはともかく……、1年次から御友人のリッドさんが…シオウ様のお強さを知らない??)」
あるいは、ある程度は出来るといった認識だろうか? 一度スィルカと手合わせをした時も、攻撃を回避しては見せているがそれ意外は何もしていない。二人からすると、回避する事だけは一級品という認識止まりなのだろうか?
だがミュースィルは知っている。見ている。
予選の最後の試合でのシオウの戦いを。かつてリッドとガントの模擬戦に割って入った時のシオウの動きを。
それを語ろうかと思った。けど口を開きかけてすぐ止める。
シオウが戦力にならない方であると二人が認識しているのは、他ならぬシオウが普段、自分の力を誇ったり示したりしていないからだ。
そして彼の性格を考えれば、わざとそうしている可能性が高い。さほど長い付き合いではないにしても、己を誇示する事に後ろ向きな人である事はわかる。
だから彼の名誉のために語りたい衝動を抑え、彼女は黙する事にした。
すると、同時に不思議な高揚感を覚える。まるで彼の秘密を自分だけが知ってるような気分になって、ほんのりと温かいものが彼女の心を満たした。
少し前の14:42分。出店ゾーンにて……
「………」
シオウは、約10分ほどの案内行為でどっと疲れていた。
「まぁ、これは何かしらね、メル。 …シオウ、この料理は何ですの?」
「うー? うー」
とある出店の前でおしゃまそうなご令嬢が赤子を抱きながら、目の前で調理されている料理に見入っていた。
料理から視線を外すことなく訊ねられ、シオウは軽いため息を一つついてから答えた。
「最近、東隣の国ヌーヴルガンで流行ってる焼きクロケット。ただしクロケットとは生地が違っていて揚げずに焼く。中の具財も肉やチーズ、蛸の欠片なんかを入れるから、クロケットじゃなく “タコ焼き” って言う新しい料理らしい。ルクシャード皇国じゃまだ馴染みのない手軽な屋台料理だよ」
シオウがフラッドリィから解放された理由は意外なものだった。ずばり彼女の来襲である。
アレオノーラ=ケイ=レステルダンケ。
アルバイト先の小さな喫茶店によく来る常連客の貴族夫人であり、その見た目は10代前半でありながら、既に子持ちという若すぎる奥様だ。
抱いているのが彼女の子、メルリアナ。
バイト先でちょっとしたひと騒ぎの後に妙に懐かれ、彼のバイトの日に来店してきては母娘揃ってシオウに絡んでくる。
それがこの大会にゲストとして招かれてきていた。
「(教師のくせに、生徒に押し付けて自分はさっさと逃げていったな……)」
彼女はその界隈では結構な有名人らしく、特に肝っ玉と行動力の凄まじさは高い地位にある国の偉いさんでさえも一目置いているという。
フラッドリィは案内役などする事になったら振り回されて苦労しそうだと思ったのだろう。シオウが知り合いと知るや否や、じゃあ後のエスコートは頼むぞと言って、長々と説教拘束していたのが嘘のように解放し、そそくさと去っていった。
《ホント、縁があるわネぇ。もう彼女の申し出、受けちゃう? ナンテネ♪》
「(折れろって? それはない。誰かに仕えたら自分の時間が取りづらくて、自由に本が読めなくなる…そんなのはゴメンだ)」
アレオノーラは、優秀な人材としてシオウを大変気に入っており、自分の側用人ないし一族に入れたいと兼ねてより猛烈なスカウトを続けている。
当の本人はハッキリと断り続けているというのに、まるで諦めてはくれないので、いつでも誰に対しても自分流な不敵なシオウも、さすがに苦手な人物だった。
『『ピンポンパンポーン。お知らせします。』』
『『次の、第4組、チーム・リッド、vs、チーム・オグワスの試合はこの後15:00、第一試合会場にて、執り行われます。観客席の、混雑が、予想されますので、ご観覧ご希望の方は、お早めに、会場入り頂けますよう、お願い、いたします。繰り返します――――』』
そのアナウンスは渡りに舟。シオウはホッとして、物珍しさから出店にひっついて調理の様子を眺めているアレオノーラ母娘に歩み寄る。
「そろそろ出番なんでな、俺はコレで失礼させてもらうが……今日は御付きはいないのか??」
バイト先の喫茶店には、メイドと護衛の最低2名は伴って来店する彼女だが、今日は周囲にその影がない。
するとアレオノーラはしれっとのたまう。
「置いてきましたわ。連れてきては自由に見て回れませんもの、ね、メル~?」
「ぁ~いっ」
「置いてきた…って、それ大丈夫なのか? …とにかくこっちは時間がもうないんで行かせてもらうぞ。さすがに試合に遅れたら仲間に迷惑かかるしな」
「でしたら私達も行くわ。私の夫も出場してますの、今日の目的は観戦ですわ。シオウ、客席まで案内してくださる?」
それを聞いてシオウは、あー…とちょっとだけ困ったように声のトーンを下げた。
「モーロッソだな、確か? あいつのチームの試合はもう終わってる。第二試合で昼食後すぐだったしな」
「あら、そうでしたの。…まぁ構いませんわ。せっかく来たのですから試合観戦はしていきたいですし。ちなみにモロは勝ちまして?」
話ながらも、さすがにシオウは歩き出す。それに合わせてアレオノーラも歩き出した。
赤ん坊のメルリアナも含めて仲のいい3姉妹であるかのような一向に見えるが、まさか男子学生+人妻&その子供であると、一目でわかる人間はいないだろう。
「ああ、予選も上位通過でチームとしての実力もあったし、順当って感じだな。俺はさっきの教師につかまってたから試合の方は見れなかったが」
「そう…なら良いです。勝ったのなら明日の試合を観戦すればよいのだし。でも意外でしたわ。私も後押ししたとはいえ、あのモロがこういった大会に参加する気になるだなんて」
彼女は珍しい事もあるもの、といった語り草だ。それを見てシオウは成程と思う。
「(モーロッソの抱えてる事情を知らない…か。さて、どうしたものかな…)」
――――――それは、食堂でモーロッソと会った日の夜の事。
『シオウ、いるかー? ちょっと相談があるんだけどさ』
そう言って、宿舎のシオウの部屋を訪ねてきたリッドから聞いた話、それは…
『……脅されている、か』
『たぶんな。聞いた限りじゃあ、アイツ自身だけじゃなく、家事情も絡んでそうな雰囲気だった』
食堂を出ていく際のモーロッソの寂しげな雰囲気がなんとなく気になったリッドが、こっそり彼の後を尾けた際に聞いた、彼と彼の大会出場仲間の会話。
リッドが見聞きした内容から判断できるのは、モーロッソが彼らに何か弱みを握られているらしいという事。
『それで? それを知ったリッドさんは一体どうしたいんで?』
『なんとかしてやれないもんかな、ってね。わかるだろ?』
『まぁな。モーロッソの勝ち負けに関係なく、その脅してる奴が彼の家族に魔の手を伸ばす可能性……ないとは言えないだろうな』
もっとも本当にそんな事になるかといえば、ならない可能性の方が高い。
貴族の、それも他家の人妻を奪うなんて真似は外聞が悪すぎる。聞いた限りでは、脅している方はそんなに強欲なタイプでもなさそうで、現時点ではあくまでもモーロッソに協力させるためのカードでしかない様だ。
だがシオウの知っているモーロッソの妻、アレオノーラは年齢不相応に聡しく、行動力と決断力の塊みたいな女の子。
家絡みの問題であるならば、夫や子…そしてレステルダンケ家そのものを守るために、自分が犠牲になる道を躊躇なく選択できてしまう人物である。
分かっているピースからでも、モーロッソの家族が分断される未来……ありえると判断できる。
『けど、それはモーロッソの事情であってリッド、お前が首を突っ込む事じゃないだろ?』
『それはそうなんだけどさ……ほら、聞いちまった手前、ほっとけもしないだろ?』
『まったく、お前は芯からリーダー気質だな、大物になるよ。…俺に頼らずに自分で解決策を用意できればの話だが』
『えへっ、…すまん。俺の頭じゃ、小難しい問題はどうにも……身体動かして解決できる事ならいいんだけどさ』
『その小難しい問題を持ち寄られるこっちの身にもなれ。……とにかく、俺にしたってすぐ妙案がポンポン浮かぶわけじゃないし、詳しい事情も不明だ。一応は考えてはおくが期待するなよ。よそ様の事だしな、どのみち俺らがしてやれる事は多くない』
《なーんて言って、話聞いてた時にもう色々考えが出来ていたじゃない》
『(考えるだけならな、そう難しくはない。似たようなのは昔、経験した事があったろ?)』
《そーねぇ、どこの国の貴族サマもやる事似通ってるワよね、ホント》
かつて旅先で訪れた地で遭遇したアクシデントの数々を思い返し、守護聖獣は懐かしむようにしみじみする。
『(最も、この件はまだ詳細が分からん。全容が見えない内にするお節介は火傷のもとだ)』
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「やれやれ、しょうがないな」
「? シオウ、何かおっしゃいまして?」
第一試合会場の入り口。ちょうど選手専用入り口と観客用入り口の別れるところまで、3人は来ていた。
時刻は既に15:01分、試合は始まっている。
「いや、試合の前に用事があったのを思い出しただけ。完璧遅刻だが、出番まで10分は余裕あるだろうし――――招待客だから客席は専用の予約席か?」
「ええ、チケットはこの通り」
ドレスの胸元――――というか首元あたりからニュッと一枚の長方形の紙を取り出して見せるアレオノーラ。取り出されたチケットは、妙なところにしまわれていたにしてはシワ一つない。
その不思議はひとまず置いておき、シオウは彼女のチケットに記載されている座席位置を確認すると、アレオノーラ母娘と共に観客用入り口の方をくぐった。




