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紅凰の学園戦活  作者: ろーくん
第一編:大会の序曲

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第4章1 代表選抜戦技大会



―――――学園内、代表選抜戦技大会。


 アルタルクエ神聖公国にて2年に1度開催される国際戦技大会に向け、ルクシャード皇国が自国の代表チームを決めるために開催している戦技大会である。


 送り出す選手の決め方は国によって異なるが、アルタクルエが定めた大会出場規定に当てはまる自国の人間の中から、なるべく高い戦闘能力を持った者達を選出してくるが当然と考えがちだ。

 しかし貴族や組織、あるいは派閥や強い発言力を持った個人の介入など、上流階級者たる権力を振りかざして少しでも選抜に関与しようとする連中はどの国にでもいる。そのため毎回、国一番の最強チームを作り上げて送り出す事はなかなか難しい。


 国際大会でもし自国チームが好成績を残した場合、そのチームメンバーの選出に関わったとなればそれだけで自慢の種になる。

 間接的ではあるが国家貢献の功として誇る事もできるし、ましてや自分の一族や血縁者が代表選手として選ばれていたりしたなら、その意味はさらに大きなものとなる。


 ルクシャード皇国でもそうした名誉と栄光を、業突く張りに欲する連中のせいで、本当にふさわしい選手を送り出せない時期があった。

 そして皮肉な事に、国際大会の成績が低迷し続けた結果を受けて近年では、少しは実力を反映した選抜方法を取れるようになった。





「……もっとも完全な実力主義じゃなく、優勝チームのリーダーに選抜メンバーを選ぶ権利が与えられるなんて半端な方式になったのは、権利者(そいつ)にアプローチ(すり寄って)して自分の息子なり娘なりをメンバーに選ばせる道を残す、っていう欲深い貴族サマの悪あがきの結果だな」

 シオウはアホらしいとばかりに投げやり気味に説明の言葉を切った。


「みっともない奴らだな、結局本大会の場で負けたら恥になるとか考えたりしないもんか普通?」

「その時は自分は関係ないという態度で黙するみたいですね。以前、お兄様が呆れながら “ 大の大人が子供じみた責任逃れをしている ” とおっしゃってた記憶があります」

「逆に成績良かった年なんかは、うるさいのがより声張り上げて社交の場(パーティー)で、あからさまな自慢してまわってはったらしいですよ。ウチも親が家帰ってきてどっと疲れた様子で愚痴を呟いてるのを、小さいころに一度見た事ありますー」

 お姫様二人から疑問の解答を聞かされ、リッドもシオウにならって呆れ顔になる。

 上流階級といっても偉い奴もいれば愚な奴もいるんだな、としみじみ感じ入った。




「それにしてもすごい活気ですね。まるでお祭りのようです!」

 ノヴィンがいささか興奮気味に周囲を見回す。


 今日は学内の代表選抜大会当日。


 試合会場の整備は勿論、その周辺も様々な店が出稼ぎに出てきていて、普段自由に買い物を楽しむ機会が少ない厳粛な貴族家の子息生徒を中心に盛り上がっていた。


「ていうか、まんまお祭りですね。ウチもこういう雰囲気は好きなんで楽しみですけども」

「あら、でもお兄様の年は試合会場で粛々と試合をしただけと伺ってたのですが…」


「はは、そりゃそうですよミュースィル姫様。ちょっと気合い入れて準備したんでね、例年はしてなかったが今年は近場の商店中心に声かけて出店協力を要請してみたんだ」

 生徒ではない。

 大人の声が聞こえた方へと5人が振り向くと、そこにはフラッドリィ先生がいた。


「フラッドリィのおっさん」

「おいこらリッド。おっさんではない、先生と呼ばんか先生と!」

「ほれへほのフラッホリィへんへいはまは、はにフロフロひへふんは?

 (それでそのフラッドリィ先生さまは、何ウロウロしてるんだ?)」

 シオウはそこらの飲食系の出店から、いつの間にやら買いあさった食べ物を口いっぱいに含みながら話す。


「食べながら喋るんじゃあない。まったく……一応この学園はそれなりに格式あるんだぞ? カチコチになれとは言わんが少しはお行儀よくせんかシオウ。またぞろネーリ先生辺りがキャーキャーうるさく言ってくるぞ?」


「んで、フラッドリィのおっさんはこんなとこウロウロして、何やってんだ?」

「おっさんではないと……まぁいい。なぁに、いわゆる見回りだよ。出店エリアは今回、初めての試みだからな。火の元の管理やら怪しげな品を出しておらんかなど、色々とチェックしながら回っているというわけだ」

 今回の準備担当として責任があるとばかりに、フラッドリィは胸を張る。行き交う生徒達の出店に対する反応が上々だからか、なんとなく機嫌が良さげだ。


「ご苦労様です、フラッドリィ先生」

 丁寧に礼をするミュースィルは疑問に思っていた事を聞こうと、下げた頭をすぐに上げる。

「ですが先生、よろしいのでしょうか? 見たところ少数のようですが、ご商売の方以外にも学外のお客様(ゲスト)を入れられているようですが…」

 行き交う人の中、明らかに制服以外の恰好の、年齢もマチマチな人々が混ざっている。おおよそ 生徒8:2ゲスト の割合くらいだろうか? 中には一般人よりは明らかにワンランク上の恰好をしている者もいた。


「客に貴族を招き入れるんは問題にならへんのです?」

 ミュースィルの言葉の先の危惧を、スィルカが代弁するかのように繋ぎ問う。ただでさえ、各方面の権力介入をなるべく避けたい代表選抜。そこに客として安易に金持ちや貴族を招き入れるのは当然よろしくはないだろう。

 だがフラッドリィはフランクにその疑問に答えた。


「ご心配無用。ゲストは影響力の乏しい小貴族や小金持ちなどに厳選して招待してますんでね、選抜に口だし出来るようなのは来ないようにしておりますから―――」

「――――と、それは建前で本音は…予算オーバーで赤字だから、苦肉の策で商人や外部ゲストを招待し、赤字補填分の金を見物料名目でしっかりといただきます…といったところだろうな」

 シオウにズバリ痛いところを突かれ、思わず噴くフラッドリィ。可笑しさからそれに呼応するようにリッドも噴いた。


「おいおい、フラッドリィのおっさん。予算内でまとめないとダメだろ~」

「う、うるさいうるさい! いいだろう結果、こんなにも活気が出たんだ、大成功だろうが! ……んっんっ、それはそうとお前達……ほう、なかなかしっかりとした装備を整えているな」

 大会出場者は、武器こそ安全のため厳しい規定内のものに限定されているが、防具に関してはそれは幾分か緩い。これも大ケガや万が一をなるべく起こさないためだ。

 フラッドリィが指摘した通り、リッドのチームはそれぞれが普段の制服姿とは異なる装備で身を固めていた。



――――リッドはオーソドックスな剣士スタイル。

 少し厚手のアンダーウェアの上に、金属糸を縫い込んだレザー(皮革)をベースとしたライトアーマー(軽装鎧)を着用している。

 保護部分こそ少ないが、肝心な部位はしっかりと守られている。飾りっけがなく全体的に地味だが、動きに制約がかからず自分のスタイルにしかと合わせた最適な選択だ。


――――スィルカも自身の蹴り技を活かすために軽装だ。

 レオタードのようなアンダーウェアに、下半身はスパッツで上半身には半袖シャツ…パッと見では防御力不足も甚だしい。

 だがよくよく見ると、シャツは軽くて衝撃を吸収する特注品。絹糸のように細く頑丈な、高価な金属糸で編まれているソレは、下手をするとリッドのライトアーマーを凌ぐほどの防護力があるだろう。

 両足には薄い金属板の内側に、肌触りの良い毛皮を付けた簡素な脛当て(すねあて)。両腕にも同じような手甲を装着している。


――――ミュースィルは、アンダーウェアのレオタードらしきモノは、スィルカと同じ…おそらくは一緒に発注したものだろう。

 しかし上は両肩を覆うだけの最低限の半透明なケープのみ。しかし止め具に不思議な輝きを内包した宝石が付いている事から、何かしらの魔法の力が込められている品だろう。

 下はスパッツではなくタイツ。そして腰のベルトから伸びるレースのような透明なスカートも不思議な輝きを宿しており、魔法効果を持った防具である可能性が高い。

 全体的にやや軽装気味の魔法使いを思わせる装いだ。



――――ノヴィンはリッドよりも保護領域が多めの、国の兵士が普段使いしている鎧に近しい雰囲気のレザーアーマーを装着している。

 単純な防御力では5人の中では一番高そうに見える出で立ちだ。背の高さも手伝って、それなりに様になっている。



 そして、シオウはというと……


「……おいシオウよ、まさかとは思うが一応は聞くぞ? 何で着替えていない(・・・・・・・)んだ、お前だけ?」

 そう、シオウだけはいつもの恰好―――学園の制服姿―――のままだった。


「準備は終わってるぞ、ほれ」

 そう言ってシオウは、腰にひっかけてた杖を取り出し、フラッドリィの前に掲げてみせた。

 その杖は学園に常備している模擬戦用の木杖とほとんど同じものだが、一応は新品らしく、少なくとも新しく買ったものだろう。


「………。それを装備して着替えは完了だ、などと言うつもりじゃああるまいな??」

「その通りだぞ。ほらミューの武器も同じ杖だ、問題ないだろう?」

「大アリだバカもんっ! 武器じゃあなくて、恰好の問題だ恰好の!! 確かに制服を防具と認めないなどと言う事はないが、明らかに防御力不足だっ! 怪我したいのかお前はっ?!」

 シオウの長い髪が後ろへと吹っ飛んでいきそうな勢いで一喝するフラッドリィ。しかし、それにまるで堪(こた)える事もなく、シオウ当人は両目を横棒にした無我の境地のごとき表情で、嵐が過ぎ去るのを待つモードへと既に移行していた。



 ・


 ・


 ・



「おー、やってるやってる」

 リッド達が到着すると、試合会場では他のチーム同士が試合の真っ最中だった。最終的に参加を届出たのは全部で20チームで、予選で10チームまで絞られる。

 初日の今日はその予選日で、参加選手以外は会場には入れない事になってる。なので試合会場は、観客席のあちこちにチラホラと参加する生徒の姿があるだけで、閑散としていた。


「今やってるチーム・ベルットと、チーム・ハリウスの対戦の次が僕たちの番なんですね、緊張します……」

 ノヴィンはゴクリと喉を鳴らした。



「心配すんなって、ホラ見て見ろよアイツらをさ」

 リッドが指し示した試合中の闘技場の上では、二人の生徒が各々の武器を振るっている。だが…


『せぇいっ』

『いっ…たぁ。や、やったなぁ!!? このっ、このっ!』


 なんとも程度の低い戦いが繰り広げられていた。

 互いに手にしている得物を振るってはいるものの、非常に拙い。子供のチャンバラごっこ並みのじゃれ合いだと言われても、仕方ないような戦いっぷりだ。



「……なんなんですアレ?? あんなんでよー参加しようとか思いますね」

 そのレベルの低さに、スィルカが呆れるあまり両肩と共にメガネもズリ落とす。


「シオウが言うには、あれが貴族のメンツが悪い方向にでた結果の一つなんだと。本人がやりたくなくても親に強要されたりとかで、渋々参加した生徒(やつ)は結構いるみたいだ」

「それは少し可哀想ですね……」

「勝てなかったら、親からすごく怒られるって事ですか。でも僕が言うのもなんですけどあれじゃあ……」


「ま、それは相手の御家事情ってヤツであって、こっちには何の関係もないことだから、同情の必要はないけどな」

 遅れて会場に入ったシオウが、リッド達の後ろから会話へと合流した。



「フラッドリィのおっさん、割と早く解放してくれたな? ハハッ」

 それでも少しばかりくたびれている様子のシオウを見て、リッドは軽く笑い飛ばした。

「もうすぐ出番だからって言ったらさすがにな。選手を引き留めて試合に出させなかったら問題だ」


「それもそーだな。…で、結局その恰好で出るわけだ?」

 防具の類が何か増えているわけでもなし。シオウの恰好は変わらず、いつもの制服姿に本人の身長より少し長めの木杖1本のみ。


「ああ、これでいいよ。俺のスタイルは防具関係ないから動きなれてるのが一番」

「んー……まぁシオウさんの動きなら、そうそう捉えられる相手なんていない思いますけど…油断はせん方がええんと違いますん?」

 スィルカの苦言は最もだが、シオウは心の中でだけ笑みを浮かべ、言葉の上ではそーだな注意はするよ、と短く答えるだけにとどめた。



《メガネのお姫様の言う通りヨ? 無茶はしないでよねホントに》

「(わかってる。心配はいらない、この学園の生徒程度の強さ(・・・・・)なら問題なくかわしきれる)」

 それでも守護聖獣は、心配そうな感情をにじませたままだ。生まれた時から共に歩んできたソレは、当然シオウの半生をつぶさに見てきている。


 おそらくこの世の誰よりも彼の事を把握し、理解している存在だろう。

 言われずとも、シオウ自身に無茶をする気はない。制服姿なのは、下手に防具の類をつけてしまうとその分だけ無理がきいてしまい、無茶をしてしまいそうになるからだ。

 武器防具を自分で制限する事によって出来る事の範囲を意識的に狭めれば必然的に、それ相応の範囲で事を行わざるを得なくなる。それに容易く敗北しても武具が不十分な分、敗北は致し方なしと周囲を納得させやすいという意味もあって、元よりあまりやる気のないシオウには、これでベストな武装だった。






――――――試合会場の少し離れた観客席。


「おい見ろ。チーム・リッドだ」

 チームのリーダーたる生徒が、今しがた会場に姿を現したリッド達を見つけ、チームメイトに話しかける。真っ先に反応したのは、ミュースィル姫に手を出そうとしてシオウに邪魔されたあの男……

「いるいる、むかつく顔の奴がぁ~。ふひっ、ふひひっ…シオウ~、直接ぶちのめせる時がっ、実ぅに楽しみだぁ~ぞぉ…ひっひっひぃ……」

 相変わらず……いや、より危険な気持ち悪さを拗(こじ)らせながら、彼はにっくき相手を睨みつつも笑っていた。


「………」

 その隣でモーロッソは、複雑な心境を抱きながらチームメイトと同じように彼らを眺める。できれば戦いたくはないという気持ちがまだあるが都合上、彼らと当たっても手は抜けないとも思う、二律背反な心中。

 その後者の気持ちが、彼らの防具をその見た目より分かる事から分析させようとしてきて、彼の意識は相手の戦力をはかろうとする方向へと傾いていった。




――――――試合会場の、また別の観客席上段部。


「どうしたガント、何見てる?」

 一緒に試合を観戦していたチームメイトのヴェッダに聞かれ、彼はアゴで自分の視線の方向を示した。

「チーム・リッドだ。……ふむ」

 ガントは腕を組んだまま、遠目に見えているリッド達を品定めするように視線を動かす。


「………まともな戦闘が出来そうなのは二人……といったところか。しかし」

 ガントの視線がシオウのところで止まったタイミングで、ヴェッダも丁度その異質さに気付いた。

 今日は一般の観客は入っておらず、試合会場にいる者はほとどんどが参加者だ。その全員が制服ではなく、各々が用意した防具に身を包んでいるのだが…

「!? なんだ、一人フツーの制服姿だな? あれも連中のチームの一員なのか? アシストとかマネージャーとかじゃないのか?」


「いや選手だろう。頭数合わせのつもりの参戦者か、それとも――――」

 ガントの脳裏に、リッドとの模擬戦で自分の攻撃を割り込み(インター)防いだ(セプト)時のシオウの姿が思い返された。


 その後、あの容姿で男子生徒であると知った時は、さすがに硬派なガントも驚きを隠しきれなかった。

 実際、並みの女子と同等かそれ以下の小柄さだ。それで自分の一撃に横やり入れて受け止めたという事実が、未だに彼の中で引っかかっていた。


「―――存外、強敵やもしれんぞ?」

「まさか。ああ、もしかすると防具の準備が間に合わなかったセンもあるかもしれないな。用心はしておくか……最も、それも向こうさんが勝ち上がってきたらの話だろうけどな」

 気楽な口調のヴェッダだが3年次生徒の彼は2年前、前回の国際大会をその目で直に見ている。今行われている低水準な対戦なんかよりも遥かに厳しい現実を知っている彼に油断はない。

 ガントはそれがせめて、より多くの実力ある参加者に伝染してくれればと願う。これ以上、今行われている試合を見る必要はないと言わんばかりに、黙してその場から歩き出し、そのまま試合会場を後にした。





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