【9】入学式 (5)
「北側駐車場に車停めてあるのでそこまでお願いします」
「了解...」
俺といちごが入部することを決めてからというもの、ぬこ先輩と紫音さんは心から喜んでるみたいだ。いちごもずっとにやにやしている。
「ドライブって楽しいですよね。知ってる道でも知らない道でも、1人でもみんなとでもすぐ笑顔になりますもん」
「わかるよー。もちろん運転中は集中しないとダメだけど、音楽とかDVDとか、お家で楽しむのとは違う良さがあるよね」
「自分の好きなクルマならなおさら...」
「そういえば、ぬこ先輩はミニクーパー、自分で買ったんですか?」
「それはねー。実はうちのサークルが中古車販売もやってるから、安くで売ってもらったんだぁ」
「えっ、じゃあもしかして車検とか定期点検とかもですか?」
「うん、けどねー、大学側が始めた事業の割にはあんまり手伝ってくれなくてね。学生も最近よく聞く『若者のクルマ離れ』でクルマに興味持ってくれないし、大学が雇ってる整備士の人も業績不調で給料が伸び悩んで辞めちゃうしで、いろいろ問題があるんだよー。あ、でもでも、2人は気にしないでね!この辺のことは先輩たちに任せてくれていいから!」
なるほど。中古車が売れずに伸び悩む業績を見かねて整備士が辞めていった、と。
自動車の分解整備をするにあたって、必ず各地方の運輸局から工場毎に認証を得なければならない。認証を得るにあたっては一定以上工場が広くてはならないことや工員の人数、機械工具だけでなく、油を海に流さないための油分離槽など工場の設備も充実させなければならない。工員は突発的なお客でもない限り、車を売った後の修理や定期点検、車検等から活躍するのだが、そもそも車が売れないとなるとお客さんを捕まえるのが難しいだろう。仕事を辞める理由もわからないでもない。
「到着......」
「先輩、我に策有り!です。もしかしたらなんとかなるかもですよ」
「「 ? 」」
「とりあえず、私について来てください。20分くらいで着きますので」
「えっ、いちごちゃんのって、このS15?」
「車高、低すぎ.....,」
「まぁまぁ、このS15はさておき、百聞は一見に如かずですよ。見てもらった方が理解が早いと思います」
満点のドヤ顔で話すいちご。こんなに気の合う仲間を見つけたんだ。力になりたいと思うのが普通だよな。話してみないと相手に自分の気持ちは伝わらない。社長に相談しにいこう。