【23】加藤涼平
デモ講義と聞かされていた割に講義という講義はなく、まぁ一種の取扱説明書の類いだった。要は大学の生徒用ホームページから学籍番号毎にパスワードを設定して講義登録をし、 各々教科書を準備するようにとのこと。
パソコンを持っていない生徒のために学生証をかざすだけで入れるパソコン室があるらしい。
「意外と早く終わったね。これからどうする?」
「時間あるし授業登録だけチャチャッとやっときたいかな。テツとギンはどうする?」
「俺も予定ないしそういうのは早めに済ますタイプだからよ、付き合うぜ。ギンも行くよな」
「あぁ、パソコンの使い方教えてくれ」
デモ講義は12時までと聞いているが1時間も経たずに終わったので、おそらく他の生徒もこれからパソコン室に向かうのではなかろうか。ま、今日もし授業登録ができなくても会社のパソコン使わせてもらえば済む話か。ーーっと、また来た。
「さっきは体調悪いのに驚かせてごめんね、遊佐ちゃん」
「え?あ、その......」
「俺、加藤涼平っての。よろしくね」
窓側の席からわざわざ来なすった茶髪は不愉快な声で懲りずにいちごと会話を試みている。とりあえず、俺は仲良くなれそうにない加藤くん。
「おい。行こうぜ」
「あ、あぁ......」
お構い無しに立ち去る提案をするギン。
加藤くんも周りの奴に聞いていちごの名前を調べたのだろう。
「呼び止めてごめん。またね、いちごちゃん」
手を振りながらニコニコ顔の加藤くん。
加藤くんにイラっときたが、よく考えたら前にも同じようなことはあった。
この通り、いちごは初対面の男を大の苦手としているため、俺が仲立ちをしてきたのだ。
文句を言ってくる男もいたーー「お前と話してるわけではない」と。
その通りなのだが、いちごを1人にはできないので、女子の力を借りたり、さっきみたいに体調不良を理由に躱してきたのだ。テツに話を聞くと工学部に進学した我ら石神高校卒は他にいないらしい。しばらくはいちごの弾除けだなこりゃ。
「俺ら3人居ないもの扱いじゃん、逆にすげえよね」
テツのもっともな感想だと思う。
スルーというよりは眼中にないといった感じで。
「まぁ、なんとなくギンの言ってた意味がわかった気がする」
「お前が煮え切らないからだろう」
(......?どういうことだ?)
テツもギンの言葉を理解しているような顔でいちごに「ねぇ〜」と同意を求めている。何が煮え切らないのか、ねぇ〜なのかさっぱりわかんねぇ。
「ソラ、お前、加藤の事が気に入らないだろ」
「まぁな」
「何が気に入らないのか考えてみたらどうだ?」