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ドライ部  作者: 如月 六
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【2】久我 柚


「お兄ちゃん、そろそろ起きないと。朝だよ〜」


少しの気だるさを覚えつつ、起き上がりながら眠い目をこする。

寝起きは悪い方ではないんだけどなぁ。

目覚めきってない頭で上半身だけ起こし、ボーッとしていると慎ましいノックの後にガチャン。


「あー、ちゃんと起きてるなら返事くらいしてよ〜」


「ごめん、ごめん。おはよう柚」


久我柚。

お兄ちゃんという呼び方で分かるように俺の実の妹だ。

先週から中学生になった妹は周りの子たちよりも一周り......いや、二周りほど小さい。

薄桃色のショートカットに空色のリボンで見た目の幼さと相まってとても似合っている。

両手の甲を左右の腰に当ててまったく...とでも言いたげなポーズで頬をぷくっと膨らました妹の柚だったが、すぐにいつもの柔和な笑顔に変わる。可愛い。



「おはよう、お兄ちゃん。朝ご飯できてるよ」


両開きのカーテンを開けてくれる柚からはほんのりとアカシアの花の香りが漂っている 。まだ布団から上半身を起こしているだけの俺には優しい目覚まし代わりだ。もっとも、当の本人は俺の手を握り布団から出そうと躍起になっているのだが......お嬢さん、落ち着きんしゃい。


2DKの我が家で俺の部屋はリビングの隣。

柚に続いて部屋を出て食卓につく。

四角い小さなテーブルには炊きたての白米に出汁巻き玉子。人参と牛蒡のキンピラ、鮭の塩焼き。いりこから出汁をとっている豆腐の味噌汁。小鉢には翡翠ナスの煮浸し。


「今日はお兄ちゃんの入学式だからね。早く準備して遅刻しないようにだよ!」


両手を合わせ、いただきますと同時に食べ始める柚。小さい頃から『食事中は正座』という家訓を律儀に守る良い子だ。俺はもう忘れたのでいつも胡座をかいている。


「いつもありがとう。いただきます」


「今日お兄ちゃん、朝の占い1位だったよ。ラッキーアイテムは兎のキーホルダーだって」


そう言って俺の手を取り何かを握らせる。


「良いことあるといいね」


手を開くと、どこかやる気のない感じの兎がデザインされたキーホルダー。


「有難いけど......なんだこの兎......」


「えーっ。お兄ちゃん、ぐでうさ知らないの!? 今流行りのゆるキャラだよ!」


「そうなのか......?」


流行には疎い方だが、こんなのが流行っているとは...


「で、柚は占いどうだったんだ?」


「私は最下位だったよぉ...。ラッキーアイテムはトランプ柄のものだったからこの前いちご姉と買いに行った...ってなんでもないなんでもないっ!そんなことより早くご飯食べないと!」


いきなり早口で慌て出した柚。トランプ柄なんてなかなか見ないが、いちごと何か買い物に行った時にトランプ柄のものを買っていて今日持ち歩くということか。さっきのキーホルダーといい、女の子が占いを好むのは事実のようだ。なんにせよ、俺も早く食べないとな。


柚が占いを気にするようになったのはいつからだったか考えていたのだが、口に入れた出汁巻き玉子が美味しくて箸が進む。


柚は料理上手...いや、『上手』という言葉だけでは伝えきれない。たとえ満腹状態であろうと一口食べれば食欲が湧く。二口食べればもう食べ尽くすまで箸を止める事はできない。おかわりに注意していなければ、数ヶ月で肥満コースを爆進するだろう。


それと、さっき柚が言った通り、今日は俺が4年間通うことになる私立佐奈大学の入学式だ。家からはそれなりに遠い大学になる。


「そういえば、いちご姉が迎えに来てくれて一緒に行くんだよね?」


「うん、そうだよ。あ、それと今日は午前中だけで帰れるみたいだから真っ直ぐ工場に行くよ。いつもの時間くらいには帰ると思うけど、遅くなりそうだったら連絡するから」


出汁巻き卵最後の一口を食べる。



「ご馳走さま。ありがとう。美味しかったよ」


「お粗末様でした。お昼は本当に良かったの?今からでも簡単にお弁当作れるよ?」


心配してくれるのは嬉しいのだが、少しはお兄ちゃんを信用して下さい。優しい妹なのだが、自分も登校の準備をしないといけないだろう。自分を蔑ろにしてしまうところがあるのが玉に瑕だ。


「昨日も言った通り、昼過ぎに予約が入ってるからね。時間があれば自分でしっかり食べるから大丈夫。心配性だなぁ柚は」


柚の頭を優しく撫でながら話す。

うちの食卓は四角いテーブルで、俺視点から右隣の辺に柚が座っているため座りながらでも簡単に手が届く。

柚は頭を撫でられると猫のように目を軽く瞑り『はむぅ』と変な声を出す。柚曰く、俺は頭なでなでスキルがマックスらしく、とても気持ちが良いらしい。自分ではわからないが、撫でられている柚が非常に可愛いので良し。


「はむぅ......はっ!撫でるなら撫でるって言ってよぉ〜。だらしない顔になるの自分でもわかってるんだからぁ〜」


だらけきった表情から一気に真っ赤にした顔を上げる。俺もそろそろ準備をしないと間に合わない。妹に癒された俺は10分で身支度を済ませ食器を洗う。うちでは料理を柚が担当してくれる分、後片付けはできる限り俺が担当する決まりだ。


「お兄ちゃん、先に行くね!」


「おぅ!いってらっしゃい。気をつけてな」


柚の通う中学校では黒か茶色のローファーが指定されているので、2人で買いに行ったのだが、今までスニーカーやブーツだった履物が革になったことで大人に近づいたことを実感するらしい。まだまだ子供にしか見えないが言わないでおいた。


「いってきまーす。わっ!」


食器を洗い終えていた俺は玄関で妹を送り出すと玄関を開けた先に女の子が2人........?

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