【18】帰宅
「やっぱり2人とも上手だねぇ」
「いえいえ、いちごはともかく俺は精一杯ですよ」
「ふふーん」
最後のコーナーからゴールまで直線の長いサーキットだったためーーーとは言わないがやはりGT-Rには勝てなかった。結果はいちごのポールトゥーウィンだが、後ろで見ていた柚たちも少しは楽しめたようでなりよりだ。さっきまで眠そうにしてた涙ちゃんもぱっちりと目を開けてやや興奮気味。見てたのかな?
「じゃあそろそろ帰りましょうか」
「そうだね。いやぁ、今日はとっても充実した日だよ、ね、紫音ちゃん」
「うん......とても楽しかった......」
ぞろぞろと来た道を引き返し屋上の駐車場に戻る。そういえば、俺といちごは昼飯食ってゲーセンに来ただけだったな。まぁ元はと言えば柚たちの買い物にしゃしゃり出たからなのだが、勝手に決めて申し訳ない。せっかくの先輩たちの厚意だったのに。
「じゃあ、俺たちはここで失礼しますね。みんなを送って帰りますので」
「うん、気をつけてね。また明日」
「あ、良かったら天といちごの連絡先を教えてもらってもいい......?」
おっと、そういえばそうだ。さすが紫音さんしっかりしてるなぁ。ENILでいいよね。既読とかわかるし電話もできるし。
「はい。これからよろしくお願いします」
「お願いしまーす」と続くいちごとお互いにマイQRコードを差し出す。部のグループとかあったりするんだろうか。もちろん学業と仕事が優先なのだが今から楽しみで仕方ない。ぬこ先輩や紫音さんたちの様子を見てればそんなに変な人はいないだろう。あ、すでに矢野......さん?部長が......。いや、まだお互いの事をよく知らないだけだ。うん、大丈夫。すごく楽しみだぞ。
「ん。届いた。あとで招待しとくね......」
「それじゃあ、柚ちゃん達もまた遊ぼうね」
「あ、はい!今日はいろいろありがとう、ぬこお姉ちゃん、紫音ちゃん」
「「ありがとうございます」」
「うん、また遊ぼうね......」
ぬこ先輩はお姉ちゃんで紫音さんはちゃん付けなのか。まぁ先輩たちが気にしてないならいいけど。やっぱり何か学習法について教えてもらったのだろうか。3人とも見慣れない黒のビニール袋を手に下げ大事そうに持っている。初日から良い人たちに出会えて本当に良かった。俺のことだけでなく妹とその友達の事までこんなに考えてくれたなんて。
先に先輩たちの乗るF57を見送りヴィヴィオに乗り込む。
「じゃあ俺たちも帰ろうか」
「うん、ありがとうお兄ちゃん」
「よろしくお願いします」
柚に続いてお礼を言う千誠ちゃんはもう限界に来てた涙ちゃんを後部座席で寝かしつけている。
「お家まで送るよ。2人とも家はどの辺りなのかな?」
「あ、いえいえ、申し訳ないです。私と涙はバスで帰れますので」
「大丈夫だよ、千誠ちゃん。お兄ちゃん、道に詳しいし、遅くなっちゃったからお母さんたちも心配してるよきっと」
「遠慮しないでいいんだよ。こんな事しかできないけど頼ってほしいな」
柚は本当に良い子と友達になれたと思う。礼儀正しくてお礼も言えるししっかり者。なにより相手の気持ちを汲み取れる子だ。柚は特に人が嫌がることを率先して行動できたり、相手の気持ちを尊重できる子なので、良い様に使われたりしないか不安だったのだが杞憂のようだ。
「柚......天さん......」
「はむ......お言葉に甘えます......」
「ん...?って、涙起きてたの?」
「お家まで乗せてもらえたらラッキーと思って寝たふりをしていました......」
「もぉ...ちゃっかりしてるんだから」
「あはは。バスとか電車ってどうしても他の人の目があるから緊張しちゃうよね。私も早く車欲しいかも」
涙ちゃんは意外とちゃっかり者なのか。たまたま起きて場を和ませてくれたとも考えれるが、深く考えない方がいいだろう。
千誠ちゃんの道案内でまずは涙ちゃんのお家へと向かう。同じ地区内と聞いていた通り涙ちゃん宅と千誠ちゃん宅は歩いて行ける距離だったのだが、涙ちゃん宅から歩いて帰ると言い張る千誠ちゃんを説得し玄関まで送り届けた。
そんなに恐縮しなくてもいいのにと口からでかけたが、性格的な部分や友人の兄であることなど原因はおいおい緩和していくとして。
「お兄ちゃん、今日はありがとうね」
「このぐらい気にするなよ。いつでもとは言えないけどな」
「うん。友達、大事にするね」
家に着いた時にはもう7時を回っていた。今から食事を作ると聞かない柚を説得し先に風呂に入らせる。その間に弁当を買ってくる算段だ。入学初日から遅刻するわ初対面の人と大勢でドライブにいくわで慌ただしかったな。なんにせよ、柚だけでなく俺も良い先輩に巡り会えて良かった。
(俺も大事にしないとな......)