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眠る花みち  作者: 唯人
1/1

あなたはそれでも、生きる事を選び続けられますか?

○8月のある駅のホーム


  蝉が鳴いて入道雲が出ている。

  駅のホームで電車を待つ列にスーツ姿で並ぶ、日下柊(24)と菊池楓花(24)。

  おもむろに楓花がポケットの中からスマホを取りだす。


楓花「あー。人身事故で、電車2時間遅れてるらしいよ。」


柊「え、マジか。次の面接どうしよう。」


楓花「時間へーき?」


柊「あー。微妙。」


楓花「本当に迷惑だな。死ぬ時ぐらい、人気のないとことで1人で逝くべきだろ。そんな、一人

 で逝く勇気もないやつは、自分で自分の命を断つべきじゃないね。

 こんなに人に迷惑かけて、電車止めるとお金だってかかるんだろう?お金かけてまで、死にたい

 と思うかね。普通。」


柊「普通ねぇ…。」


楓花「何。」


柊「死ぬやつに普通を求めるか?普通。」


楓花「…そうだけど。」


柊「それに、飛び込んだのは猫じゃないだろう?誰かに自分の最後を見てもらいたかったんじゃな

 いの?一人で死ぬのは誰だって、寂しいだろ。」


楓花「いやでも、迷惑は…。」


柊「ほっといてやれよ。誰にも迷惑かけないように生きてきた分、逝く時ぐらいは誰かに迷惑かけ

 たかったんだろ。」


楓花「なに?飛び込んだのって柊の知り合い?」


柊「いや?」


楓花「なんだそれ。」


柊「いや別に、俺だったら死ぬ時ぐらい注目あびてぇなっておもっただけ。俺、こんな頑張ってる

 し。」


楓花「柊は人並み」


柊「どんだけ、人並みの基準高いんだよ。」


楓花「でも、飛び込みはダメだからな。死ぬ時は、そうだな。私が殺してやるよ。」


柊「それは光栄だな。」


楓花「意外だったわ。」


柊「何が。」


楓花「柊が轢死志願者だったなんて。」


柊「ちげ―よ。」


楓花「いや、話の流れ的にそうなのかなって。」


柊「今の会話に、話の流れなんてものがあったと事に驚きだな。」


楓花「あったろ。」


柊「いや、話しぶっ飛びまくりだったろ。」


楓花「そうか?」


柊「そうだ。楓花と話すときはいつも、話しがあっちこっちに飛ぶ。」


楓花「…。で、さっきの続きは?」

柊「あぁ。注目浴びて逝きたいけど、痛いのはヤダ。」


楓花「死ぬ時なんて、基本苦痛なんじゃねーの?」


柊「死んだ事はないからわかんないな。」


楓花「そら、そーだ。」


柊「でもさ。」


楓花「ん?」


柊「こういう注目の浴びかたはいやだけど、誰かに注目はされたくないか?」


楓花「というと?」


柊「んー。テレビとかに俺の名前が載って、」


楓花「それはないから、安心しろ。」


柊「はえーよ。」


楓花「いや、柊の名前がテレビに出ることなんて、まずないから。」


柊「いや、まぁそうだけども」


柊「街頭インタビューでも、そんな大きくなくてもいいから、『あの人はすごい人でした』っ

 て、俺の知らない誰かが、俺の逝き方じゃなくて生き様を語るの。褒められなくても、けなされ

 てても、俺がいたって認められてたら嬉しいじゃん。」


楓花「死んでんだから、そんなこといわれてもわかんないけどな。」


柊「まぁ、そうなんだけど…。それもそうか。(笑う)」


柊「逝き方だけ、この世に残ったらそれは人生を死に染められたって言う意味で、負けらしいよ」


楓花「へぇ」


柊「死んだっていう結果より、生きてた過程が大事らしいからさ。」


楓花「なにそれ。誰かの言葉?」


柊「死んだことある奴の体験談。」


楓花「あぁ。なるほど。」


柊「でも、ホント。死んだらなにもわかんねーよな。誰かが俺のために悲しんでくれてもさ…。」


楓花「?…あ、あぁ。」

○夏のある高校の2年教室・朝


  まばらに生徒の入っている教室。

  窓側後ろから2番目に座る日下柊(17)。

  文庫本を読んでいる。そこに、汗だくの菊池楓花(17)が隣の席めがけて歩いてくる。


楓花「はよ。」


  本から目を離さず、柊が話し始める。


柊「今日は早いんだな。明日は台風か?」


楓花「いや、私いつも学校一番乗りで来てるんだけど。寝坊してるみたいな言い方しないでくれる?」


  不満そうに柊を見ながら柊の隣の自分の席に腰掛ける。


柊「じゃあ、教室にこの時間にいるのは珍しいな。キャプテン」


楓花「じゃあってなんだよ。雨降ってきちゃったから早めに切り上げたの。この時期だとなかなか、基礎練できなくて困るよ。」


柊「あぁ、降って来てたのか。」


楓花「気づけよ。」


  席を立って、窓を開ける楓花


柊「今、気付いたから十分だろ。学校の中にいるんだけら関係ないし。あと、まど閉めて。キャプテン」


楓花「あっっついんだもん。あと、さっきから何。そのキャプテンって」


柊「暑苦しい少年漫画に出てくる、暑苦しいキャプテンみたいだったから。」


楓花「なにその、スポーツ漫画ファンを敵に回すような言い方。」


柊「閉めて」


楓花「はいはい。私そんなに暑苦しいかな?あ、もしかして汗臭い!?さっきシーブリーズやったんだけどな…。」


  ドア側から楓花に男子生徒(17)が話しかけてくる。


男子生徒「菊池~。今日って女バド、中?外?」


楓花「放課後は中!」


男子生徒「うわ、マジかよ…。メニュー考え直しだ。」


楓花「ざまぁ」


  男子生徒が自分の教室に戻っていく

  柊が本から目を離して楓花の頭から足までを目だけ動かして見る。


柊「(ため息)」


楓花「何。」


柊「いや、なんでもない。」


楓花「そういうところむかつくんだけど。」


柊「むかつくなら話しかけなければいい。実際、俺に話しかけてくるのなんて、楓花くらいだしな。」


楓花「私は、柊じゃなくて、凛菜ちゃんとおばさんが心配なだけ。」


  柊は本に目を戻し、ページをめくる。


柊「別に、変わりないよ。」


楓花「…。」


柊「凛菜はいつも通り寝てるし、母さんは毎日、抜け殻みたいにぼーっとしてる。」


楓花「…そう。」


楓花「今日もいくの?病院」


柊「あぁ。そのつもり」


楓花「凛菜ちゃんも、喜んでるだろうね。お兄ちゃん大好きだし。」


柊「さぁな。なにも離さないからわかんないけど。」


  蝉の声が2人を包む。


柊「たまには楓花も来るか?知能指数が々やつが来たってきっと喜ぶぞ。」


楓花「私もいきたいのは山々何だけど、もうすぐ大会だから…。」


柊「キャプテンになってから一層あついな。その熱意を少しは、勉強に向けたらどうだ?」


楓花「私は2つのことをいっぺんにやれるほど器用じゃないの。ほら!あれだよ。2匹追いかけたらどっちもいなくなっちゃったーってやつ。」


担任「二頭追うものは一頭も得ず。だろ。そのくらい小学生でも知ってるぞ。」


楓花「うわっ…」


  2人の前で仁王立ちする体育会系の担任(42)


担任「菊池。お前、この間の数学の小テスト点数悪かったんだってな!数学の杜先生に俺が怒られたぞ。俺が。」


楓花「いや、私的には良くできてたんですけど。」


担任「じゃあ、余計に勉強しろ。」


楓花「でも!私には部活が!!」


担任「学生の本分は勉強だろ。」


楓花「私、ここスポーツ推薦なんですけど。」


担任「文武両道をするのを条件にスポーツ推薦の奴は、入ってくるんだ。」


楓花「私はそんなつもりではいってきてません。」


担任「お前なぁ、女バドにも特進クラスの奴はいるんだろう?」


楓花「いますけど、それとこれとは別です!」


担任「なぁ、日下。お前からもなんか言ってやってくれよ。」


柊「言っても無駄ですよ。こいつ、頑固ですから。」


担任「(ため息)」


  楓花は担任との口論にかって、自慢げに柊をみている。


柊「あほか。」


担任「間違えなく、バカだよ。菊池は。」


担任「そうだ。日下お前、萩原って知ってるか?」


柊「え、まぁ。名前ぐらいは。」


担任「萩原にプリント届けてくれないか?」


柊「え。」


  担任が柊にプリントを差し出す。


担任「今週、週番だろ?」


  カレンダーを見てから、しぶしぶプリントを受け取る柊。


楓花「いまどき、生徒にプリントを届けさせるんですね。」


担任「こういうのは、郵送とかよりクラスメイトの手から渡された方が嬉しいだろ。」


柊「だったら、女子のほうが…。」


担任「めんどくさいからって、ほかの奴に押し付けようとするな。いいか?今日、必ず渡してこい。分かったな?」


楓花「先生、今の特大ブーメラ…(ブーメランと言いかける)」


  担任が楓花を睨みつける。


楓花「さ―せん」


柊「…というか。萩原さんまだ在籍してたんですね。全然来てなかったのでもう、やめたのかと。」


楓花「確かに」


担任「あいつにもいろいろ、事情があるんだよ。テストは受けに来てるぞ。授業を受けてる菊池より、よっぽどいい点数とってるし。」


楓花「はぁ!?私関係ないでしょ??」


担任「次、俺が怒られるようなことあったら放課後みっちり補習してやるからな。」


楓花「パワハラだぞ!!柊からもなんか言ってやってよ!」


柊「先生としてまっとうな事を言ってるだけだと思う。」


担任「決まりだな。」


楓花「柊のばか!」


  先生が2人の元から立ち去ろうとする。


柊「あの…。住所とかは?」


担任「そんなもん必要ない。」


柊「え。」


  担任がクラス全体に向けて連絡を歩きながらする。


担任「今日の朝のSHRはなしなー。連絡はとくになーし。」


  担任が教室をでていく。


楓花「あいつ、絶対めんどくさいだけだろ。」


柊「どうしよう。」


楓花「いいんじゃない?一応もっておけば。」


柊「あぁ。」


  柊がかばんに貰ったプリントをしまいこむ。


楓花「いやー。意外だったな。」


柊「何が。」


  柊が本に目を向ける。


楓花「萩原さんのこと。知らないと思ってたからさ。」


柊「萩原さんぐらい知ってるよ。」


楓花「可愛いもんね。」


柊「そうじゃない。まぁ、確かに整った顔はしてると思うよ。」


楓花「そういうところつまんない。」


  本から顔を上げて楓花を見る。


柊「え、なにが。」


楓花「もっとさー。こう、テンパったりしないわけ?」


  本に目を戻す。


柊「なんだ。そんなこと。しないよ。」


楓花「つまんねーのーー。」


  机に突っ伏す楓花。


柊「なぁ。」


楓花「何さ。」


柊「俺って、感情ないのかな。」


  楓花が柊のほうを見て、少し呆れたように笑う。


楓花「ホント、柊はそういうところ、繊細。」


柊「は?」


楓花「柊自身がないって答えで納得するなら、ないって事にしとけばー?」


柊「答えになってないんだけど。」


楓花「答えにならない答えを言ったからな。」


柊「なんだそれ」


○午後の病院


  にぎわったロビーを抜けて、病室に向かう制服姿の柊。

  柊の目に、愛実がとまった。

  愛実は柊と同じ制服を来てぼーっと掲示板を眺めている。

  柊に気づいたように柊を見た。

  不思議そうに柊を眺めてから、にっこりと笑った。

  愛実は、ゆっくりと会釈してから柊よは別の方向に歩いていく。

  集は少女を呼びとめる。


柊「あの…っ。」


  愛実は柊の声に気づいて振り向く。

  愛実に近づく柊。


柊「なんでここに…いるの?」


  少し困ったような表情をする愛実。


柊「あ、いや…えっと。あっ。」


  バックの中にしまってあったプリントを愛実に差し出す柊。


柊「これ、先生から渡してくれって頼まれて…。」


  愛実は柊とプリントを交互に見合わせてから、嬉しそうにわらった。


愛実「ありがとう!」


柊「あ、いや別に…全然。大丈夫。」


愛実「日下、日下柊くん…だよね?」


柊「あ、はい。」


愛実「何かのんで行かない?」


柊「あ、いや…。」


愛実「忙しい…?」


  首を横に振る柊。


愛実「こっち。」


  愛実は柊の手を取り、自分の部屋へと連れて行く。


○愛実の病室


  窓側、右のベッドが愛実のベッド。

  病室からは田んぼが見える。

  ベッドわきには、椅子とテレビとごみ箱、点滴の台だけが置いてある。

  ごみ箱の中はお菓子のごみでいっぱいになっていた。

  ベッドの頭には『萩原愛実』と彼女の名前が書いてある。

  それをみて、柊は目をそむけた。


愛実「座って。」


柊「あ、うん。」


  柊は、ベッドサイドの椅子に腰かける。

  愛実はベッドサイドの棚から、冷えていないコーヒー缶を一つ取り出して柊に渡した。

  柊と向き合うようにして、ベッドに座る愛実。


愛実「はい。来てくれたお礼。」


柊「ありがとう…。」


愛実「仲いい同い年の子があんまりいなくて、退屈してたの。」


柊「あ、そうなんだ。」


愛実「そう。」


  少し、沈黙の時間が流れる。


柊「あのさ。何で萩原さん。なんで制服着てるの?今日、学校きてなかったよね?」


愛実「平日だから。」


柊「…うん?」


愛実「先生。私の事なにか言ってた?」


柊「いや、特には…?」


愛実「?じゃあ、病院に行けって言われたときに何も先生に質問しなかったの?」


柊「いや、どこに行けとも言われてない。」


愛実「?じゃあ、なんで日下くんはここにいるの?」


柊「俺は、毎日ここに来てるよ。」


愛実「どうして、毎日来てるの?」


柊「それが日課だから。」


愛実「どこか悪いの?」


柊「頭が悪い。」


愛実「なにそれ。」


柊「あ。」


愛実「なに?」


  柊がバックから桃缶を取りだす。


柊「桃缶、好き?」


愛実「?うん。好きだよ。」


柊「じゃあ、あげる。」


  桃缶を受け取る愛実。


愛実「なんで、桃缶持ってるの?」


柊「これも、日課だから。」


愛実「筋トレ?」


柊「まぁ、そんなところ。」


愛実「なにそれ。」


柊「いや、それは萩原さんが言いだしたんだろ。」


  愛実は噴き出すように笑った。


柊「なに。」


愛実「そんな言葉づかい、するんだね。」


柊「まぁ。」


愛実「なんか変なの。」


柊「なんで。」


愛実「あんまり、人と話すの好きじゃなさそうだったから。」


柊「いや…。それであってる。」


愛実「やった。正解。」


  沈黙の時間が流れる。


柊「そろそろ、行くよ。」


  ゆっくりと立ち上がる柊。

  座ったままの愛実が柊を見上げる。


愛実「また来る?」


  柊は少し困って、ベッドの頭の彼女のネームプレートを見る。


柊「また、近いうちにおじゃますると思う。」


愛実「本当?」


柊「あぁ。」


  愛実は満面の笑みを浮かべる。


愛実「ありがとう。」


  柊は、少しだけ会釈してから愛実の病室を出る。

  柊は周りを気にしてから、個室の病室に入る。

  入ると、カーテンで閉め切られていて薄暗い。

  柊は、病室に電気を付けてから入る。

  病室には、ベットが一つと呼吸器などの医療機器がベッドサイドに並んでいる。


柊「遅くなってごめんな。」


  荷物を下ろし、ベッドサイドの椅子に腰かける。

  凛菜はあおむけになって寝ている。

  柊の問いかけに対しての返事はない。


柊「ちょっと、変な奴につかまってな。」


柊「その変な奴に、今日は桃缶あげちゃったからないんだ。ごめんな。明日また持ってくる。」


  柊が黙ると、医療機器の音が部屋に響く。


柊「…今度。その子も連れてくるよ。」


柊「多分。凛菜を見て驚くだろうけど、きっと仲良くしてくれるだろうし。」


柊「…。」


  柊が時計を見ると、19時30分過ぎをさしている。


柊「もう、行かないと。」


  柊が寝ている凛菜の頭をなでる。


柊「また来るから。」


  柊は、荷物を持って部屋をでる。


○昼の教室


  騒がしい教室。

  周りの生徒がお弁当を広げている。

  机に突っ伏している柊。


楓花「おい。いつまで寝てんだよ。」


柊「別に。」


楓花「…何だよ別にって。なぁ、昨日萩原愛実のところ行ってきたんだろ?どうだった?」


柊「あぁ…。」


楓花「なんだよ。さっきっから。」





       



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