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ある日の事。

作者: 新原 墓地

私は大学を卒業して

一年間フリーターをしていたのですが

親や親戚に「早く真面目に働け」と言われてしまいました。


そんな事を大学時代に私の事を良くしてくれていた

先輩の秋山さんに相談した所、

「俺が働いてる会社紹介してやろうか?」と言われ、

先輩も働いているし、甘えさせてもらおうと思いそこに安易な気持ちで就職をしました。


私の仕事はコピー機の営業をしているのですが、

仕事自体は営業マンというのもあり、

ほとんど残業が当たり前でした。


しかし苦ではありません。

一緒に働いている同僚や上司は気さくな人が多いし、

営業という事もあり心なしか地元の友達達よりもお金を貰っています。

やり甲斐もあり順風満帆です。


しかし一つだけ不満というのか

辛い事が。


それは社宅住まいという事です。

私は奈良の田舎から出てきたので

その会社の社宅にお世話になる事になったのですが、

小さな事ですが毎日見ていたテレビ番組がこっちではやっていないとか、

食べ物があまり美味しくないとか、

近くに友達が住んでいないとか。

まぁ簡単に言えばホームシックみたいなもんです。

一番きついのは社宅ですので、

職場の先輩も住んでいるというのがなんだか

気を遣ってしまい疲れてしまいます。


私は学生時代から所謂“いじられキャラ”でしたので、

毎日のように良い意味で先輩に可愛がられます。


そんなある日の事です。


いつものように残業をし、

先輩達と共に社宅に帰りました。


私はあまり体調が良くなかったという事もあり、

風呂にも入らず速攻で布団に入りました。


明日も仕事か。

なんて思っているうちにうとうととしてきました。


すると、


ドンドンドン……。


玄関のドアをノックする音が聞こえました。


何だろうと思い眠い目を擦りながら

玄関へ。


覗き穴から見てみると

そこには誰も居ませんでした。


眠たかった事もあり、

すぐにそのまま布団に戻ってまた目を瞑りました。


あれは多分夜の23時を回っていました。


また、


ドンドンドン……ドンドンドン……。


またか。


そう思い再び玄関に行き覗き穴を見てみると、

ドアの前から立ち去ろうとする人影を見ました。


先輩か?


そう思い慌ててドア開けて確認すると、

何の人影もありません。

というより、

人の気配すらありません。


少し気を遣いながら、


「誰ですか?誰かいますか?」


返事はありません。


不思議に思いながらも

ドアを閉めて

布団に戻りました。


そこで変な事に気付きました。


足音が無かった。


社宅は五階建てのマンションなので、

階段を歩く音がする筈。


しかし眠気もあり、そう思うだけで

そのまままたうとうととしてきました。


するとまた、


ドンドンドン……ドンドンドン…ギィィ…ガチャン。


さすがにびっくりして慌てて玄関へ。


誰も居ません。


社宅で住んでる人全員が知り合いな訳ですから

私はあまり鍵などを閉めずにいる事の方が多いので

たまに先輩が普通に入ってくる事がありました。


しかし先輩も居ません。


明かりを点けて部屋中を見ましたが、

勿論誰も居ません。


ドアを少し開け、

そーっと隙間から顔を出しました。


誰も居ません。

音もしません。

気配すらありません。


少し鼓動が早くなっているのに気付きました。


そのままドアを閉めて

鍵をし、チェーンもしました。


布団に再び戻って寝ようとしましたが、

何だったんだろう?

そんな事を考えていると中々寝付けずにいました。


何分?何時間経ったでしょう。


そこからは気にしていたにも関わらず、

ドアをノックされる事はありませんでした。


気がつくと朝です。


何回かに分けてセットしてある

携帯のアラームの最後のアラーム音で起きました。


慌てて昨日入らなかったお風呂に入り、

朝食も食べる余裕すらなく職場へ急ぎました。


ギリギリ間に合い朝の朝礼なるものをして

各々仕事に取り掛かります。


その時に昨日の夜の出来事を社宅に住む

先輩達にしたところ、


「いや、俺じゃない」


「俺はその時間ゲームしてたな」


「俺はテレビ見てたわ」


などなど。


誰も違うのか。


そう思うとなんだか物凄く怖くなってきました。


その日は特に忙しく、

普段よりも残業が長引きました。


ようやく終わりも見えてきたその時

一人の先輩が、


「お前が朝言ってた話あるじゃん?アレって俺達じゃないとすると、どの選択肢も怖くないか?」


何故だか先輩は嬉しそうに話を振ってきました。


「やめて下さいよ。本当に怖いですよ。」


恐怖のあまり思わず本気のトーンで返しました。


続けて先輩は


「だってさ、もしもだよ?“人”ならどーよ?俺達以外の誰かが社宅の敷地内に入ってきてお前の家だけノックしてんの。怖くない?」


なんとなく女の人をイメージして話を聞いたせいか、なんだか無性に怖くなりました。

髪は長いだろーなー。

とか、

服は白のワンピースだろーなー。

とか。


別の先輩が、


「それだったら俺達も怖くない?」


「まぁ確かに。でも誰も変な奴なんて見てないもんな」


それは私だって見ていませんから。

絶対無いとは言えませんが可能性としては低いでしょう。


だとすると……。


先輩が続けて、


「じゃあやっぱり、“この世の者じゃない”って事なんじゃない?“幽霊”的な?」


先輩は物凄く笑顔で私に向けて

嫌な事を言います。

考えないようにしていたのに。


また別の先輩が、


「だからさ、それも俺達も怖いじゃんか」


「まっそうだな」


私の方が怖いです。


先輩達はそんな不思議な事は今まで聞いた事も感じた事も無いとの事です。


じゃあ私の勘違い?


いえ、確かに昨日アレは起こったのです。


こんな事を話しているうちに仕事も終わり、

あの社宅に帰る事に。


「誰か泊めてくれませんかね?本当に怖いんですよ」


私がそう言っても先輩達は面白がって


「大丈夫」


この一言で片付けます。


本当だろうか。


家の前に着き、

鍵を開け中に入る前に辺りを見渡して急いで中へ。


部屋中の電気を点けました。

勿論テレビも。

心なしか音をいつもより大きくして。


風呂は朝の明るくなってから入る事に決め、

昨日と同じくそのまま布団に入りました。


部屋中を明るくしていたので、

安心したせいか

思ってたよりも早くうとうととしてきました。


今日は大丈夫だ。


そんな事を思いながら眠りにつきました。


何時間か経って

尿意を催しトイレへ向かいました。


その時には恐怖心なんて皆無です。


トイレに向かう途中廊下が暗くて見えなかったので

脱ぎっぱなしにした私服のジーンズのチャックを踏み、

「痛っ」


完全に目が覚めてしまう程の痛みでした。


とりあえずトイレに入り

用を足している時ふと、


あれ?

電気……消してたっけか?

え?


辺りは真っ暗です。


あれ?

リビングも消したんだっけ?

ていうか……寝室の電気も消したっけ?


急に寒気がしてきました。


鼓動が早まり急いで用を足してトイレから出て

廊下を渡り寝室に入ろうとしたその時です。


ドンドンドン…ドンドンドン…。


ドアをノックする音です。


来たっ!


心臓が止まるかと思いましたが、

心臓は異常な早さで動いています。


鳥肌も立ち、

汗が止まりません。


動いて欲しい足は恐怖で止まってしまっています。


以前とは違う。

何が違うかと言うと、


ドアの向こう、

確実に誰かがいる。

くっきりとした気配がある。


ドアの向こうからまた、

ドンドンドン……ドンドンドン……ガチャガチャ。


入ろうとしている。


何だ?


人なのか?もしくは霊的な何かなのか?

どちらにしろ恐怖は変わらない。


しかしこうもしてられないと思い私は、


「誰だ!な、なんだ!!」


思い切って叫んだ。


するとドアの向こうに確かにある気配が薄らいでいく。


完全に気配が感じられなくなってから、

思い切ってドアの覗き穴を見てみた。


誰もいない。


いてもらっては困る。


恐る恐るチェーンを開け鍵も開け、

ゆっくりと扉を開けて辺りを見渡してみた。


誰もいない。


そのままドアを閉め鍵も閉めチェーンをかけた。


まだ心臓の鼓動は早いが少しずつだが弱まってきた。


落ち着かせようとリビングに行き

冷蔵庫に入れてある冷たいお茶を一気に飲んだ。


呼吸が荒い。


ゆっくりと深呼吸をし気持ちをどうにか落ち着かせた。


寝室に戻り明かりをつけベッドに腰掛けタバコに火を付け一服。


頭の中ではもう何が何だか。


手は少し震えている。


タバコを根元まで吸いきり灰皿に押し付けた。


再度頭の中では、

一体何なんだ?

誰だ?

人間か?

それとも……。

いやいやいや。

ないだろ。

先輩の悪戯の筈だよな。

うん。


そう無理矢理自分を納得させ寝室の電気を消した。


消した瞬間真っ暗な寝室の中に自分以外の気配を感じる。


!?


言葉には出せない程の驚き。


確実に入っている。


確実に何かいる!


体が動かない。

金縛りか?


その“何か”は確実に私に近づいている。


瞬きする事すら出来ない。


すると耳元に微かに生暖かい空気が。

それと同時にか細い男の声で、


「ただいま」


私は気を失った。


後日この話をしても

誰も信じてはくれなかった。


夢だったんだと言われてしまう。


確かにそうだったのかもしれない。


しかし気味が悪いので私は社宅を出て一人暮らしをする事にした。


それからというもの、

平和な毎日を過ごせた。


やはりあそこは何かがあったのかもしれない。


でももう忘れよう。


それから数ヶ月経ち私には彼女が出来た。

同じ職場の子だ。


同棲生活は最初は慣れなかったが

段々と彼女がいるのが当たり前になっていた。


ある日彼女が残業で帰りが遅くなった日があった。


彼女の帰りを待っていると

ドアをノックする音が聞こえた。


合鍵を忘れたのだろうか?


そう思い


「お帰りなさい」と言いながら玄関を開けた。


そこには彼女は立っていなかった。


え?

そう思っていると耳元に聞き覚えのある男の声で、


『ただいま』


どうやらあの家ではなく私に憑いているみたいだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 怖いです……夏にぴったりだと思います。 夜中にトイレに行けなくなりそうですよ!
2017/08/05 08:16 退会済み
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