鈍行列車
僕は電車に乗るのが大好きだ。それも各駅停車する鈍行列車が特に好きだ。
時間を気にせず、あまり目的を持って
乗らない。
音楽を聴いたり、居眠りしたり。
景色を楽しんだり。人間を楽しんだり…
仕事が休みの日は一日中、列車に乗っている
今日はどこまで乗ってみようかな。
心が自然とはずんでくる。
こんな時間に女子高生?
今、午前十時をまわったとこだ。今日はズル休みかもしれない。可愛い顔立ちだ。
危ない危ない。こんな風に見ていたら
何を言われるかわからない。
以前、同じようにちょっと可愛いなと
思いながら見ていたら、その娘が下車した
途端にすぐに警官が乗車して来て僕に職務質問をしてきたことがあった。
下手に目を合わせたりしたらこんな事に
なるから気を付けなければいけない。
そんな事を考えながらウトウトなりかけた。
あの、すみません。
か細い声が聞こえたような。気のせいかな。
もう一度
すみません…あの…
女子高生だと思うその娘が僕に話しかけてた
僕はまさか自分に声をかけてくるとは思わないから怪訝そうにその娘を見てしまった。
回りをキョロキョロし、自分のことかと
僕は自分に指をさしながら彼女を見た。
その女子高生はコクンと怯えたように
頷いた。僕の中ではどうして僕に話しかけたのか何か巻き込まれてはいけない空気にしらを切ろうかと考えたがその女子高生は僕の側から離れようはしないし、どうしたのかを僕から話しかけてくるのを明らかに待っている
あまり気は進まなかったがその女子高生が
僕のタイプだったということと普通ではあり得ない状況に少し興味を持ってしまった。
でも、馴れ馴れしくならないよう丁寧に
どうしたんですか?と話しかけてしまった。
その女子高生は待ってましたと言わんばかりに私を助けて。と小声で、でも必死に僕に
助けを求めてきたのだ。
僕は後悔してた。声をかけるべきではなかった。これから話し始める彼女の話を聞きたくなかった。何に巻き込まれるんだ。
僕は自分からどうしたのかを聞いてしまったのを悔やみながら彼女に丁寧に警察に連絡されたらどうですかと優しくやんわりと言った。今、電話してあげましょうかとも言ってやった。彼女は悲しげな目で訴えるように
警察では駄目なんです。と消えそうな声で言った。
電車に乗ってる主婦や年寄りがチラチラと
こっちを見てるのが僕の視界に入ってきた。
このまま、この女子高生が僕が座ってる目の前で今にも泣きそうな顔で立ってる状況は端から見たら訳ありな様子にしか見えないだろう。実際、訳ありになってしまったが…
僕は彼女に丁寧に座りませんか?と言ったら
彼女は素直に隣に座った。肌が白いので大きな目が際立っていた。
ヤバイ、ヤバイ。僕は彼女から目をそらし、
彼女との距離を作ろうと少し席をずらしたら
彼女もそれに習って僕のほうに席をずらしてきた。なんだよ、何かのコントみたいじゃないかよ。と軽く吹き出してしまった。
彼女は不思議そうに僕を見た。
僕は次の駅で降りてファミレスでお話を一応、聞きましょうか。
と、一応を強調して言った。
女子高生は安心したのか嬉しそうに笑顔で
頷いた。僕は後悔しながらも少し気持ちが弾んでいるのを楽しんでいた。
電車の中では話すこともなく、次の駅で降り
近くのファミレスに入ってはみたが主婦の集まりか高校生の集まりかあちこちから大声で話すグループやけたたましい笑い声をだしてる中年女子会やらでここでゆっくり話を聞くのは無理なようだ。それに制服女子と32歳の僕が一緒にいるのは格好の話しのタネになるだろう。年齢はわからないだろうが。
ここはやめた。
平日の昼間ってこんなに多いのか。
と独り言のように言ったら、それに彼女が
ファミレスって、値段も安いし何時間でも居られるから学生には人気なんです。と
答えていた。
ホテルのラウンジにするか?いや、怪しすぎるだろう。行きつけの喫茶店。知り合いには見られたくない。そんな葛藤をしていたら
彼女が公園が近くにあります。と言ってきた
そうだよな、店に行く必要はないな。と思いながら彼女におなか空いてない?と聞いたら
自分が腹減ってるのに気がついた。
コンビニでおにぎりとサンドイッチ、飲み物と買って公園のベンチにひろげた。
昼休み中のサラリーマンやOLが所々にいたが、自分たちを気にするような人たちはいなかった。
僕は彼女に理由を聞いた。
それと、なぜ僕だったのか。
彼女は僕が一番、話しやすそうだったから
それに害がなさそうだったからと。
まぁ、いいんですけどね。
電車で切羽詰まったようだったのは自分が見張られてるからだと。
だったら、今も見張られてるのでは?と聞いたら電車に乗ってた男はいつのまにかいなくなってたらしい。
怪しい、怪しい。僕は彼女が話した内容を
整理していた。
彼女は母親と二人暮らしだったが先日、母親が亡くなる前に父親が大手企業の社長だと教えられた。その社長が先日亡くなり遺書に遺産を自分にも分けるような事が書いてあったらしくその社長の家族や役員が彼女の家に押しかけてきて、凄まじい剣幕で自分に問いただしてきたそうだ。
なんだ、この安っぽい二時間サスペンスドラマのような設定は。
怪しさが増してきた。
彼女の身辺で近所のネコが殺されたり
歩いているところに上から植木鉢が落ちてきたりとしてるらしい。
今日はずっと着いてきてた男が電車にまで乗ってきたらしく怖くなり僕に助けを求めたようだ。
この話しを信じろと言われて信じる奴がいるのか。それに自分にどうしろと言うのか。
僕は彼女に自分にどうして欲しいのか聞いたら、わからないと言うし。
とりとめもなくコーヒー牛乳をズルズルと飲んでいたら彼女が僕にその社長の遺族に一緒に会ってくれと言ってきた。
どうして僕が!何の関係もないのに。
ドッと後悔の気持ちがわいてきた。
彼女にお母さんの他に家族はいないの?と
聞いたらわからないという。
今まで母親としかいなかったから祖父母がいるのかどうかもわからないらしい。
母親が連絡をとっていなかったのか、それとも実際に居ないのかもしれない。
あー僕はどうすればいい。
この女子高生は僕に話してこれで自分の役割が終わったかのようにサンドイッチを頬張っている。 可愛いな…
俺はアホか!
落ち着け。これからの事を冷静に考えないといけないな。
彼女にこれから社長の家族に会いに行く?と聞くと他人事のように女子高生は行ってみます?なんて答えてきた。
やっぱり怪しすぎるぞ。
彼女が連絡してみます。と電話をかけている間、僕は後悔と疑心でいっぱいになり吐きそうになっていた。
彼女が今から大丈夫そうです。と戻ってきた
じゃあ、行ってみようかと言ったものの
僕は何をすればいいんだ?
彼女に遺産は欲しいの?と聞いたら
母親が遺してくれた貯金と保険金があるから
いまのところ生活に困るような事はないようだ。ただ、貰えるものは貰いたいと言ってるところは今どきの女子高生だな。
儚げなイメージが段々と崩れてきた。
女子高生とタクシーに乗りこんだ。
誰がこのタクシー代は払うんだ。と思ってたら心を読まれたかのように
ここは私が払いますから。と堅苦しく言った
僕はいや、自分が払うからいいよと言い。
なんとなく重い空気になった。
目的地に着くと僕とは住む世界があきらかに
違う建物が建っていた。
なんだよ、これって家なのか?
どうみても高級旅館だよな。よく政治家や昔の文豪などが何日も滞在するような
どっしりとした風格のある庶民には近寄りがたい旅館。
と、旅館ではないが、どっちにしろ自分に関係のない世界だ。
じわじわと後悔の念で潰されそうになっていた。
隣に立ってた女子高生が
ごめんなさい。変な事に巻き込んでしまって
と悲しげな目で僕に言ってきた。
僕はいいよ、大丈夫だよ。解決出来るかわからないけど出来る限りのことはしてみようよ
と強がってしまった。
そこへ長身の男が彼女に向かって走りかかってきた。僕は無意識に彼女を庇おうとして楯になった瞬間、男が持っていたナイフが僕のみぞおちに何の反発もなく刺さってきた…
と、もう終点か。
電車の中でアナウンスが流れた。
また、今日も妄想に耽ってしまった。
でも、誰にも邪魔されずに妄想出来るからやめられないな。
僕にとっての妄想列車。
帰りに続きを妄想するか。
僕は乗っていた女子高生が降りているのを
確認しながら次に乗るべく列車へ向かった。
電車の中で他の乗客を勝手に
ストーリー仕立てに妄想したりと誰もがいつの間にかやっていることをお話にしてみました。
つたない文章で分かりづらい箇所もあるかと思いますが良かったら読んでやって下さい。