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超短編

手の温かさ。

作者: ミーケん

【Twitter企画36作目】

 明るい太陽は静かに膨らんで僕らを覆い隠してしまうかもしてない。

 輝く星々はもうすでに消えてしまっているのかもしれない。

 そんなことがまだすっかりわかってないいつかの日に僕はさよならを言われてしまった。

 きっかけなどはなく、伏線などはなく、フラグなどあったものじゃない。

 そんな唐突なタイミングで僕は別れを告げられた。


 もちろん僕はそれに疑問をぶつけた。

  なんで?どういうこと?

 そんなありきたりでなんの意味も持たない質問をした。

 突然の別れに動揺を隠しきれず、もはや隠す気もなくなった僕はただそうやって投げ掛けることしかできなかった。

 そんな混乱する僕とは対照的に相手は冷静だった。

  どういうことでもないわ。そういうことよ。

 冷たく、なにも感情が込められていないようなその声は決して大きい声ではないのに森の中心に響いた。

 静かな夜空にフクロウが雨を呼び寄せ、辺りは水溜まりとなった。

 しかし、僕らは動かず、ただその場に取り残されたかのようにそこに居続けた。

 雨を呼んだフクロウが飛び立つ頃。僕らはそれに合わせるようにそっと歩き出した。

 目的なんてものはなく、帰る場所などどこにもない僕らは雨のある方へと向かうようにより暗い方へとぬかるんだ地面を踏みしめた。

 森でふたり。

 この少ない条件で、僕が1番最初に思い付くのはお菓子の家だ。

 たしかどこかのおとぎ話に出てくるすべてがお菓子でできた家だったような気がする。

  もしお菓子の家についたらさよならなんてやめようよ。

 僕はそう言った。

 そう言わないと相手はもっと遠くに行ってしまう気がしたのだ。いま、この場で止めないと本当にさよならになってしまう。そんな根拠のない不安が僕の心を舐めたのだ。

  いいわよ。もしお菓子の家についたらね。

 相手は袖で目を隠しながら言った。すこしして、下げたその袖にはちいさなシミがあった。

 僕は必死にお菓子の家を探した。

 相手を手で引っ張りながら必死になって探した。

 ズボンが泥で汚れても、靴のなかに水が染み込んできても、僕は立ち止まることをせず、探した。

 いつまでもふたりでいられることなど絶対にないことはとうの昔からわかっていた。

 でも、僕は諦めることなんてできなかった。

 いつまでもふたりで居続けることができるなら僕はなんでもする。もしそれが人殺しでも僕はする。

 すべては僕のため。相手のことなんてなにも関係ない。僕だけがよければそれ以外はどうなってもいい。人間だった僕は昔周りにいた人間のように自分の欲だけを追求した。欲求に呑まれ、それに従って必死に這いずった。

 もしも、お菓子の家があったら僕はふたりで一緒に過ごそう。ずっと死ぬまで生き続けよう。それが1番の理想。

 しかし、理想はあくまで理想でしかなく、現実とは相容れないものであった。

 どれ程時間が経ったか。月が傾き始め、森も静かになった頃。僕らは森を抜けてしまった。

  なかったわね。お菓子の家。

 相手はまた無感情にそう言った。いつの間にか袖のシミは消えており、そんな乾いた袖を通した手で僕を撫でた。

  うん。

 僕はそういう他なかった。それしか言えなかった。よく考えるとこの森にお菓子の家などあるはずもなかったのだ。現実的に考えてあるはずなどなかったのだ。

 あれはおとぎ話で、ここは現実世界なんだから。だからなにもないのが当たり前で、当然で、必然で、だからこそ現実。

 雨はいつのまにか止んで、また星が夜空を飾っていた。儚く、いつなくなってもおかしくないちいさな光。

 いつまでも続くわけのない現実はそれはそれは綺麗で、とても僕には明るすぎるものだった。

 広い草原の真ん中で、なにをするわけもなく僕らは手を繋いで立っていた。

 いつかの日。

 その日の夜空はとても青く、とても黒く、とても明るかった。

 空を見上げる僕は相手の顔を見ることはできなかったがそのとき横から聞こえた声を僕はずっと覚えている。

  さよなら

 悲しくも、明るく、楽しくも、悔しい声。

 いつもは僕を励ましてくれる僕の大好きな声は震えていた。

 それだけで僕は相手がどんな顔をしていたのかわかった。僕の大好きな相手は唇を噛みながら目から水を溢れさせているに違いない。そのしょっぱい水は頬を伝って地面に落ちてしまうのだろう。

 僕はその言葉に返す言葉を探す。しかし、僕にはそれに返す言葉などひとつもなかった。

 いつもはバカにされるほどおしゃべりな僕はこのときだけ口を塞ぐ。でも、僕は手を繋いでいた。それなら僕にだってできることがある。

 僕は相手の手を強く握った。

 力足らずで、小さな僕の手は相手の手を包むことなどできなかったけど、それでもなんとかしたかった。

 そんな思いが通じのか僕の手を相手が握り返してくれた。

 相手の手は温かく僕の手を包む。そんな手が僕は大好きだった。そして、同時に僕はこの温かさをもう2度と感じることはできないのだと。

 そう思った。

お久しぶりです。

約1ヶ月ほど間をあけての執筆になりました。

今回挑戦したのは『雰囲気純文学』です。

純文学は僕にはハードルが高過ぎるので雰囲気だけ純文学っぽい感じにしました。

そうなってることを祈ってます。

また、今回から再び解説を省きます。

やっぱり解説がついてしまうとそこで物語が終わってしまうので、それは個人的にもったいないなーと思ってしまうので。

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