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The rapacious Living Dead 作者:四月一日代継

chapter2

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23:群れ離れ

この小説、大胆に舵をとってゆきます
 家に帰ると、仲間がいるというのはいいことだ。扉を開けると、旨そうな匂いが漂ってくる。リビングではジョセフがテレビを見ている。
「よおカール、今日の仕事は楽しかったかい」
 彼の視線が俺に移る。
「ああ、まあまあだった」
「そいつは良かったぜ」
 それだけ言うと、彼の目はすぐにテレビの画面に戻ってしまう。
 とりあえず、腰に差したナイフを部屋に置きに行こう。そう思っていると、ゼラがやってくる。
「カール!」
「やあ、ゼラ。今日はどうだった?」
「楽しかったよ。ほらこれ見て!」
 ゼラの小さな手が、目の前に差し出される。そこには、四葉のクローバーが一つ乗っかっていた。
「おお、良いじゃないか。これどうしたんだい」
「緑のお姉ちゃんがくれたの」
「緑のお姉ちゃん?」
「最近あった、あの人だよ」
「ああ、ラッパ吹きか。まあ、よかったじゃないか」
「うん」
 そして、ゼラは去っていく。
 あのクローバは、あの後どうなるのだろうか。保存するにしてもあのままだったら、すぐにぐちゃぐちゃになってしまうだろう。せっかくだ、ゼラが本を読むのが少しでも楽しくなるように、しおりにでもしてあげよう。
 部屋に戻り、物騒なものを置いて、リビングへ戻る。すると、ソファーに座るジョセフとゼラの隣にマーシャが立っていた。物音を聞いたマーシャがこちらを見る。
「あら、カールさん。今日のお仕事はいかがでした?」
「まあまあだよ」
「そうですか。そうだ、夕食までは、もうしばらくお待ちください。今、ラザニアを焼いているところなんです」
「わかった」
 ちょうどいい。今は時間があるそうだ。全員そろっているのだし、例の話をしてみることにしよう。
「なあ、三人とも聞いてくれ」
 三人とも、同時にこちらを見る。
「そうだな、今から冗談のような本当の話をする。だから、真剣に聞いて欲しい」
 俺は、三人に多くのことを話した。死者たちのことや、革命のこと、それに俺たちのこれからのことも話した。それを聞いた、三人の反応は同じだった。
「できることは協力するぜ」
 それは、当然の反応だ。革命というものに一人一人ができることなど限られている。しかも、結局のところ、革命の軸となるのは俺なのだ。ジョージと直接のつながりを持たない三人は、ただ受け身でいることしかできない。
 新体制への変化に巻き込まれる一般町民でしかないのだ。
 それでも、革命自体には納得してくれた。現状、大きな問題がなくても、いつか必ず不幸になるのがわかっているからだ。
「ありがとうな」
 この闘いは、比較的孤独なものになるだろう。だが俺は、もう「やる」と決めた。正直な話、ここ数か月にあまりにも多くのことがあって、もうどうとでもなってくれという感情も強い。でも、俺の中の偽善者は、革命に協力しろと言っている。積極的に、善を行えと言っている。
 そう結果的に、平和が訪れるならば、俺はそれでいいのだ。
 この日より、俺の革命の核としての生活が始まった。



 革命の核、といっても生活はそこまで変わらない。散歩のような仕事がほぼ毎日、それにジョージの助手の仕事がたまに入るだけだ。
 俺は、その助手の仕事で彼から、信頼と技術を奪わなくてはならない。文系の俺には、ジョージの言うことはほとんど理解できなかった。だが、手伝いを続けているうちに、用語などが理解できるようになり、しまいには質問して、もっと専門的な知識を引き出せるほどにもなった。
 しかし、信頼はまだまだ足りない。俺は、メアリーや黒のラッパ吹きの立場、否、それ以上にならなくてはならないのだ。それは、彼の仕事を把握するためだ。
 助手をしていて分かっただけでも、ジョージは予想をはるかに上回る仕事をしていた。死体を改造すること、整備すること、生者の健康管理など公衆衛生のほとんど。また、町の破損や劣化の点検と、修繕や補修
の指示。それらは、体が一つでは足りないほど多岐にわたった。
 いや、実際に体は足りていない。でも彼は、自分の手足のように死者を操っているのだ。無駄なく恐ろしいほど的確にだ。
 例えば、彼は家のひび割れを補修する際、かかる日数と腕を折るなど負傷する死者の数を推測している。それは、実際彼の言った通りの数となる。彼が三日といえば三日だし、右腕が三本と言えば右腕が三本折れるのだ。
 俺は、恐らく彼にはなれない。それは、関われば関わるほどに分かった。
 そして、この町に来てから半年がたった。町は相変わらず安定していて、生気を失った生者と、呻き苦しむ死者でにぎわっている。革命なんて言葉が、馬鹿馬鹿しく響くほどの安定だ。
 だが、この安定は逆に不安になる。安定しすぎていると、人生がつまらなくなる。死者が立ち上がるようになる前から、毎日は同じことの繰り返しだった。役場に行って、窓口で奥様方の無駄話を聞いて、書類などの整理をしたら、家に帰る。
 だけど、この町はそれ以上に酷い。俺は、ジョージの手伝いもあるからいいが、基本的に仕事が単純化されすぎている。
 そう、例えば歩くだけ。決まった場所を、荷車を押して往復するだけ。または、立っているだけ。ノルマなどの決まりもなく、機械的に同じ作業を繰り返す。しかも、失敗のしようが、そうそうない仕事をだ。それは、人間の器用さを無視した、道具状態だ。その仕事に責任感や誇りなんて生まれない。
 生者が心を失う理由はこのせいだろう。社会的に人間らしくいることを許されない。しかし個人的な人間らしさは保障される。個人的な人間らしさとは欲だ。利己的な快楽の探求。interestingやamusingやfunを無意識に刻む行為だ。
 でも人間は社会的な動物である。長い歴史の中で、人間は牙も爪もないために共同体をつくった。言葉、宗教など文化でつながった社会という特性を得た。人と人のつながりを武器とする私たちは、社会自体への貢献、他者への施し、または、他人との比較などで人間らしくあり続けると思う。社会的な人間らしさとは、他者との関わりから生まれる道徳などのことである。
 個人がこの社会への貢献を意識しづらい単純作業と、生者における万人平等は人間性を剥奪した。いくら、欲が満たされても、真に人間を象徴する社会を意識できなければ、人間は死んでしまう。この町の生者は、ある意味、生きた死体なのだ。
 そんなある日、革命を志す者で集会を開くこととなった。メンバーは、メアリーとラッパ吹き全員、それにカルヴィンと時計守だ。場所は、時計台の中である。
「黒、メアリー、例のものを用意してくれたか」
「はイ、もちろんデス」
 渡されたのはレシートサイズの長い巻物だ。黒も同じようなものを、無言で渡してくる。
「ありがとう」
 中を確認する。そこには、一週間にわたるジョージの行動が記録されていた。
 就寝が24時、起床が3時だ。その3時間の睡眠を除くと、彼は常に仕事をしているようだ。しかし、一つおかしな点がある。確実に空白となっている時間帯がある。黒の紙からもメアリーの紙からも抜け落ちた時間がある。就寝前の一時間だ。作業終了の文字から、時間が飛んで就寝と書かれているのだ。
「なあ、就寝の一時間前は、どうなってるんだ?」
「ワかりマせン。いツモお父様は、姿を消スのです。側で、お仕事しテイても、気が付けバイないノデす」
 黒も静かに頷いた。
「どこに行っていたか聞いたことはあるのか?」
「前に何回か、あリマす。でも、いつもトイレに行っテイたと言いマス」
「一時間もか、やけに長い用足しだな。戻って来るときはどんな感じなんだ?」
「イツも通り笑顔でしタ。でも、ドこか満足ソウに見えまシタ」
「満足そうなあ。さっぱりわからない」
「プライベートタイムじゃないのかい」
 紫が妙なジェスチャーをつけて言う。
「そうね、ジョージも男だものね」
 黄が話に乗る。
「そうさ、男なら当然持て余す肉欲があるはずだよ」
「メアリーに欲情してたりしてね」
「実の娘にかい。それは近親相姦ってやつじゃないか」
「でもあり得るわ。だってジョージだもの」
 紫と黄の言葉の撃ち合いが始まる。
 ジョージが、「そういうこと」をしているのを否定はできない。だって彼は、天才だ。それに、狂人だ。何をしていてもおかしくない。だが、想像はしたくない。
 隣のメアリーを見ると、首をかしげている。
「プライベートタイム?」
「うん、プライベートタイムさ。公的じゃない、彼の欲を開放する時間さ」
「学校で習わなかったかしら? 時代は変わったのねえ」
「ああ、なるホド……」
「まあ、それはどうでもいいことだ。次の話に移ろう」
「革命の方法デスね」
「そうだ。どうやって、ジョージを廃するか、廃した後のジョージをどうするかだ」
「前回は、確かメアリーさんとカールさんで殺害。その後、死体は町の外に追放でしたね」
 カルヴィンが、前回の話し合いをまとめた紙を見ながら言う。
「だが、それには問題があるんだ」
「死後に、キングとナる可能性ですネ」
「おい」
 口から紫煙を吹く青が、低い声を響かせる。
「ミンチにしちまえ。形も残さずぶっ殺せ」
 それは、簡単で一番いいことだ。流石に、動くミートパテなんてリビングデッドは生まれないだろう。砕いた肉は畑の栄養にすればいい。 
 でも、それでいいのだろうか。あの男を殺していいのだろうか。あの天才を、上手く利用する道はないのか。
「なあ、やはり殺さないという選択肢は無理か?」
「カールさん、それは、何度も話したことではありませんか」
 そう、これまで何度も検討して、無理だと結論付けられたことだ。
 ジョージなら、話し合いをすること自体が大きなリスクとなる。話し合いの途中に、町を崩壊させるような暴挙に出たら。それはつまり、噂の自壊システムというやつを発動させたらどうするか、という話だ。だから、暗殺というような形が望ましいのである。
「その話はするだけ無駄だ」
「同意する」
(わたくし)も、これには同意しざるをえませんな」
 黒や緑など、その場のほとんどの者が首を縦に振る。
「ああ、わかったよ」
 その日の話し合いでは、ジョージは殺し、全身を解体して保存することになった。その際、脳は四分割、体も動かなくなるまで細かくすることにした。
 そして、その日も終わる。
 会議から数日後、ジョージより仕事の依頼があった。いつも通り、助手の仕事のようだ。俺は、いつも通り準備をして、ジョージの研究所へ向かった。
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