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The rapacious Living Dead 作者:四月一日代継

chapter1 The world

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1:運命

ジョージ・A・ロメロ氏の『Night of the Living Dead』を見て、ゾンビ作品を書いてみたいと思い、書いてみました。
なかなか、すらすらと書けました。
 死んだものは動かなくなり、次第に肉が溶け骨になって土になる。それは本来あるべき生物の姿であり、それを外れるものはいないはずであった。しかし、あるときそのルールが崩れ去った。
 世界は「リビングデッド」と呼ばれる、生きている死体という矛盾を孕んだ存在をうみ出した。神の仕業というべきか発生の原因は不明。死ねば誰でも瞬く間にリビングデッドへと変化した。リビングデッドは、自らの欲求のまま動き、時間とともに腐敗してゆく。最後には、動くための筋肉や腱がダメになって動けなくなり、土に還ってゆく。
 さて、そんな世界では生者は死者から逃げなくてはならない。それは彼らが本能のままに動いているからで、捕まれば犯されるなり食われるなりする。
 ただし、伝統的なゾンビ映画にあるように、噛まれたら直接ゾンビになるようなことはない。あくまでも、雑菌が繁殖した口で噛まれるだけであって、ゾンビウイルス何てものは無い。ただその雑菌の毒性が強くて、結果、奴らの仲間入りをはたすことになる。
 それで、我々生存者はそこらじゅうをブラブラさまよい歩く奴らから隠れるようにくらしているのだ。
「おい、カールなに呆けているんだ! さっさと行くぜ!」
「ああ、すまない。平和な世界のことについて考えていた」
「そうか、まあいいんだが、遠い何時(いつ)来るかわからない平和より、すぐ近くの平穏のことを考えろ!」
「わかっている」
 今、俺たちは食料など生きるためのものを探して、崩壊した街のなかを歩き回っていた。しかし、どの家も食料どころか、使えそうな食器さえない。生きるために皆、使えるものはもっていくからだ。欲しいものが見つからないことは、俺たちの心の苛立ちの炎に薪をくべた。
「もしあの腐れ野郎が出てきたら、はらわたをぶちまけてやるぜ!」
 俺の古い友人であるジョセフは、我慢の限界を迎え苛立ちを吐き出していた。
「落ち着けよ、本当に出てきても撃つなよ。銃声であつまってくるぞ」
「そんなこと、わかってる。冗談は真に受けちゃいけないぜ!?」
「そろそろ黙れジョセフ。銃声みたいにバカデカイ声でしゃべるな」
 案の定、声に誘われたリビングデッドどもが、集まる。まるで(さざなみ)のように、黒ずんだ腕や、目のない頭を揺らしながら、呻き声をあげて奴らは近づいてくる。
「まずいな」
「みりゃわかるぜ」
「どこか、避難するところを探すか」
 俺たちは歩みを早くした。
 荒廃した街には建物らしい建物がほとんどなかった。道路にはコンクリートを突き破って草が生えている。公園の噴水では、その中心にある像の上半身が崩れ去り、下半身のみになっていた。そんな中で、ゆらりゆらりと蠢くリビングデッドは、死んだ街の住人にふさわしいと思った。
 少なくとも俺たちは今は、この街の住人ではない。腕が突然落ちたり、穴という穴からうじを垂れ流すようなこともないし、人間を喰うこともない。だから、この街の住人からすれば俺たちはよそ者(えさ)ということになるに違いなかった。
 この街の住人は、つねに欲求不満であるようだ。だから食い物や性欲のはけ口のことに関して、かれらは一回の音でも聞き逃さなかった。俺たちの歩く先にはまばらだが、たくさんの死者が足を引きずりながら近づいてきていた。
「なんだ、こりゃすげえぜ……」
 学習したジョセフは呟くように言った。
「はやく見つけないと本当にまずいな」
 俺たちは急いで安全な場所を探そうとした。だが、死者たちは俺たちにとって大きな壁となり進行を妨げた。道中、彼らはその欲を満たすため襲い掛かってくる。それをナイフで切りつけても心臓を貫いても、地面に倒れない。
「こいつでカタを着けてやるぜ」
 ジョセフはショットガンを構えなおした。
「やめろ、この壁が厚くなるぞ」とさとした。このあと、俺はこの言葉を何度も言うことになった。昔からジョセフは脳みそまで筋肉なやつで、面倒なことを嫌い、早くカタをつけることが彼の常だ。
 そんなジョセフと俺は、協力しながら死者を避け進み続けた。俺が捕まればジョセフは死者のもろい腕をへし折り、ジョセフが捕まれば俺はナイフで死者の手のけんを切断した。
 そして俺たちは荒廃した街中に、念願の「避難所」を発見した。
 真新しい白壁に赤い屋根の民家。街の荒れぐあいと比べると、その存在は不自然であったが、間違いなく最高級の物件に違いなかった。
「ジョセフ、ここにしよう」
「ヒュ~、良い家じゃねえか!」
「急げ入るぞ」
 こうして、俺たちは銃を構えながら慎重かつ急いで家の中に入った。
 室内に入ると、俺たちはすぐに扉を閉める。近くにあった高そうな革のソファーで入ってきたドアを塞ぐ。そして、乱れた息と心拍数を落ち着けるため、ソファーに腰かけた。
「ふぅ、これで一安心だぜ」
「あぁ、そうだな」
 息を整えながら見たその家の様子は、まさに楽園だった。部屋を見回すとラジオにテレビに、高級そうな家具までが揃っている。まるで先程までが嘘のようである。俺はこれが「不幸中の幸い」というやつなんだなとしみじみ思った。
「なあ、カール」
「どうした、ジョセフ」
「少しこの家を捜索しようぜ、奴らがいたら大変だし、こんな立派な家なら生存者がいるかもしれないぜ? それに、他の出入り口も塞ぐべきだろう」
 ジョセフの提案に俺はうなづいた。ジョセフの脳みそが筋肉でも大馬鹿ではないのは本当にありがたい。俺は、先に立ち上がったジョセフの手を借りてソファーから立ち上がった。
 俺たちはまず、食料の確認もしようということでキッチンに向かう。
「おいカール、こっちにチリビーンズの缶詰があるぞ! ピーチもある!」
「ジョセフこっちに、もっといいものがあったぞ。お前の好きなトマトスパゲティの缶詰だ」
「最高だな!」
「ああ。まったく最高だ……」
 そこは食料の宝庫だった。味がよくない缶詰めばかりだが、腐るほどある。
 それにしても、死者が、入れてくれとドアを叩いているのに「最高だな!」とは彼らしい。彼は昔から、こんな奴だったが、リビングデッドが現れてから磨きがかかったように感じる。
 しばらくして「キッチンはお前にまかせるぜ」ということで、ジョセフはどこかにいった。
 俺は、ジョセフがいなくなったところで缶詰以外に大量のボトルドウォーターを戸棚から発見した。そして、これだけあれば二週間はもつだろうなと思い戸棚を閉めた時であった。
「アーー! クソッ、なんなんだ!!」
 ジョセフの怒号が家をふるわせる。
 俺はキッチンを飛び出し、声をもとにジョセフのもとに向かった。ジョセフは裏口の近くにいて「おい、やめやがれっ! 腐れ野郎が、離さねえと首からうえを粉々にしてやるぞ!」と、彼は死者と取っ組み合いしていた。
「アア、ハラガ。……クワセロ……クワセロ」
 死者は、枯れた声でつぶやく。
 俺は、すぐに彼のもとにかけより、死者を引き剥がそうとする。しかし、離れない。死んで脳の制限が外れた筋肉は、腐っても恐ろしく強い。手を叩いても、顔を蹴っても彼を離す様子がない。
「なんだこいつは……!」
 どうにかしようと、死者の体を揺さぶる。すると、リビングデッドはジョセフに覆い被さるように倒れた。
「チニクヲ、ニクヲ!」
 奴は腐って頬が裂け歯が変色した口を顎が外れんばかりに開きジョセフに噛みつこうとする。
 ジョセフはショットガンを盾にして防いだ。だが死者の力はなかなか強く押され気味だ。俺はかがんで死者の頭を後ろに引っ張り、ジョセフから牙を遠ざけようとした。
 その時、俺は、腰に差したナイフの存在を思い出す。思い出すや否や、俺はナイフを腰から抜き、死者の喉元を勢いよく切りつけた。
 ヌチャッという湿った音とともに、死者の腐った赤黒い血液がジョセフの顔に垂れてゆく。
「ヒュー。ニ、ク。ヒュー。ニクヲ」
 死者の喉の穴から空気が漏れるが、勢いは止まらない。
「早くしろ! ショットガンが折れそうだぜ!」
 ジョセフのショットガンから金属の軋む嫌な音がしている。
 俺はひたすらに切りつけた。切るたびに血が滴り、酷い悪臭とともにジョセフの顔を赤黒く塗り替えていく。そして、とうとう硬いものに当たった。頚椎(けいつい)だ。
 俺は咄嗟(とっさ)に奴の頭を抱き抱え、勢いよく後ろに倒れた。肉が削がれた頸椎はゴキッという音とともに折れ、死者の首はうなじに残った肉に垂れ下がり、その体は完全に動きを止めた。
 俺たちは二人そろって肩で息をしながら、お互いの顔を見合わせた。
「いやあ、助かったぜ」
「噛まれたりしてないか?」
 俺はジョセフに手を差し出した。
「ああ、大丈夫だぜ。ただ、くそ不味い血液(スープ)を飲んじまったがな」
 ジョセフは俺の手につかまって立ち上がった。
「……まて。それはまずくないか?」
「ああ、全くだ。いくら腹が減ってても二度と口にしたくないぜ!」
「いや、そういう『まずい』じゃない。ヤバいんじゃないかってことだよ」
 死者の血液は腐敗が進み、恐ろしい量の菌が繁殖している。前に、死者に噛まれた人を見たが、その人はあっという間に弱って死んでしまった。恐らくその穢れた体液が口に入っても、それは問題であると思うのだがジョセフは平気な顔をしていた。
「油断はよくねえな、今から気引き締めていかねえと」
 彼は、気合いを入れなおすようにこぶしを握り締めた。
 すると次の瞬間、物音がして振り向くと収納から何かが飛び出してくるのが見えた。俺たちはすぐに、武器をかまえた。そこにいたのは血塗(ちまみ)れの少女の死者だった。ジョセフはすぐにショットガンのトリガーに指をかけた。
「さっきはよくもやりやがったな、ミンチにしてやるぜ!」
 ジョセフは眉間にしわを寄せ、歯を食いしばった。
 ジョセフが、トリガーを引こうとしたとき、俺はその死者が(うめ)きながら襲いかかってこないことに気がついた。むしろ、それは怯えたように小刻みにふるえていて、よく見ると血塗れではあるが、その肌は死者のそれとは違いほんのり赤く染まっていた。
「……こわい」
 少女は呟く。
「おい! ジョセフ、やめろっ!」
 俺は彼女が生きていると気がつき叫んだ。しかし、もう間に合わない。ジョセフの指はトリガーを引く動作に入っている。
──もう少し早く気がついていたら。
 空しくも部屋に銃声が響く。
「……おい、カール。それはどういうことだ?」
 硝煙のにおいが漂う部屋で、俺とジョセフは時間が止まったように身動きひとつしない。空気は冷たく、死者どものドアノックの音さえ俺には聞こえなくなっていた。発射された弾は少女の体を吹き飛ばさしていなかった。天井を見上げると、そこには大きな穴がまるで化け物が口を開けたようにあった。
 
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