少女貴族
扉の先は、文字通りの別世界が構築されていた。イメージとしては古代ローマだろうか。補強されていない土の地面の上に、石の建築物が多く並んでいる。どことなくボロさがあり廃れているように感じられて、まるでタイムスリップしたような気分だ。しかしそこかしこに歩いている人々の服装は現代の物で、言うならばタイムスリップ観光などという未来チックな言葉が浮かんだ。
「なあ挑御川。ここは——」「古代ローマ、ですよね」
言い終える前に結論を述べる挑御川。思ったことは同じだったようだ。
「コンセプトはそうみたいですよ。『始まりの街アッシュ:遺跡や文献を参考に古代ローマとファリジア王国の街並みの融合を目的に建設される。闘技場や賭け場もあり、メラを稼ぐには絶好の場所』って書いてありますし」
そう言って、手に持つパンフレットらしきものをひらひらと見せてくる。それを貸してもらい内容を見ると、その通りのことが書いてあった。他にもこの街、アッシュの地図も描かれており、どこにどの建物があるのかが一目瞭然だ。宿屋がやたら多いのが目につく。だがそれよりも、地図を見ていて疑問に思ったことが一つ。
「レースの最終地点がどこにも書かれていないのだが」
「それはこの街じゃないですね。他の街への移動手段があって、それを確保するためにもメラの調達が必要なんですよ」
なるほど。ようやくこのファリジア・レースを理解できた気がした。それならばレースという名前にも合点がいく。まあバトルロイヤルの感が否めないのは変わらないが。
挑御川は、さて、と会話を一区切りした。それからポケットから財布を出して私に一枚の紙を差し出して言った。
「とりあえず、受付でもらった一万メラを渡しておきますね。稼ぐ方法はあるとはいえ、この世界でお金はとても大事ですから。くれぐれも失くさないでくださいよ」
これがこのレースの通貨、メラか。後輩の女性に札を手渡されるのは何となく嫌だが、気にするのはあまりに神経質か。それと専用の端末も同時に受け取りポケットにしまっておく。そうしてようやく、正面を見つめながら聞いてみることにする。
「なあ、メラを落とすことは結構あるのか?」
聞かれた挑御川も正面を向きながら、少し哀れそうな表情を浮かべて答える。
「そうですね。初心者はよく落とすみたいです。後はそういうおっちょこちょいな初心者を狙ったスリなんかも序盤は多いですよ。何度か見たことがあります」
「……そういう場合は助けてもいいのだろうか」
「お金を貸してあげるってことですよね。それは先輩のお金ですから好きにすればいいと思いますけど、一般的には助ける必要ないです。そういう風に見せかけて何も知らない初心者からメラを頂こうと考えている玄人の可能性も、わずかながらありますからね」
そう言いつつも、挑御川は一層哀れな表情で正面を見る。
「まあ、あそこにいる彼女はきっと、本当に困っていると思いますけど」
そうだろうな、と私は地面に座り込む女の子に同情した。
「ない! やっぱりないですわ! 先ほどもらったばかりのメラがありませんの! ほんの数十秒前まではあったのに、どうしてですの? これではもうすぐお昼なのに何も食べられませんわ!」
さっきから正面には、何やら声を上げて困り果てている少女がいたのだ。事情を察するにお金を落とすか盗られたかされたことが分かる。その表情は真に迫っていて、なんとなく彼女が演技ではないだろうと感じた。
挑御川にはああ言われたが、私は目の前の少女を助けるつもりだった。ランチを一緒に食べるくらいならそこまで手持ちが減ることもあるまい。もしも演技だとしても、その演技に金を払ったということにしてもいい。だから、いよいよ泣きべそをかき始めた少女へ声をかけた。
「そこのお嬢さん。よければ三人でランチでもどうだ?」
するとこちらに顔を上げた。目に涙をためた哀愁漂う表情で、よほど不安でその上お腹を空かせていたのだろう。
しかしずいぶんと……格式高そうに見える少女だった。
白を基調としたワンピース。しかしレースがきめ細やかに縫われていて動きづらそうだ。ひらひらしたフリルは袖にもスカートにもついていて、高級感にあふれている。髪は金髪を肩まで降ろしているが、毛先が綺麗にカットされていて無造作な感じがしない。目の色はグリーン。背は一五〇くらいだろうか。はっきり言って殺伐とした雰囲気のあるファリジア・レースには似合わない佇まいである。先ほどから私たちの横をすれ違う人々が少女へと向ける視線は奇異な存在を発見した時のそれだったから、私の見解が大きく外れているわけではないはずだ。少女の存在はこの場において、高貴すぎて明らかに浮いている。
だがまあ不自然に長い、竿竹でも入りそうな大きな筒を背負っていること以外は——と、付け加えておくべきか。
少女は私の言葉に対して、大仰な身振り手振りを交えつつ声を上げた。
「オー、ニホンジン! ニホンジンデスネ! ヤパリニホンジンハ、シンセツ! カンシャ!」
「さっきまでの流暢な日本語はどこへ行ったんだ」
さりげなくお嬢様口調が消えていることもだが。指摘すると、少女は思案顔で首をかしげる。
「あれ、おかしいですわね。日本人は根源的に、外国人の言葉は流暢よりも片言を好むと聞いたことがあったのに……」
それは否定しづらい指摘である。日本人で統計を取れば、どちらに票が偏るのか知りたい気もする。
「あと日本と言えば、あれですわ。『ホウラ、アカルクナッタロウ』ですわね。日本人はお金に火をつけるクレイジーな一族だと本に書いてありましたわ」
「この少女は否定しづらい微妙なラインをついてくるな」
「誰に言ってるんですか先輩。これは否定しましょうよ。ええと、あなたのお名前は?」
すると少女は金髪を右手でファサッとかきあげて、左手を腰に当てた自信ありげなポーズで答えてくれた。
「わたくしの名前はカモミール=カラカリスですわ。ファリジア王国の由緒正しき貴族ですの」
貴族という単語が、どこかとても遠いところから聞こえてくる。現代日本に住む人間には馴染みがなさ過ぎてピンとこない言葉だ。どう反応するのが正しいのか判断に困る。せめて『財閥の令嬢』ならばまあ何とか想像できるのだが、『貴族』だと現実味が薄すぎて嘘くさく聞こえてしまうのだ。これは庶民で会社員の性。どうしようもない。
けれど知識として備えている情報はある。たしかファリジア王国の貴族は、レースに物資、つまりはアイテムや運営資金を提供していたはずだ。いわゆる裏方の存在だと思っていたのだが。貴族本人が参加することもこの少女から考えるに、ままあるようだ。
貴族云々の話はよく分からないので置いておくとしよう。ともかくだ。
「まあ、自己紹介はどこか落ち着ける場所に行ってからでもいいだろう。地図によればこの近くにバーがあったはずだから、二人ともそこへ向かおう」
「先輩、カモミールさんへの態度が急に雑になりましたね」
「それはな、私は自身の許容範囲を超えたよく分からない人物には、横柄に接する性格だからだ」
宇宙人には出会えませんね、などと言う挑御川の言葉を聞き流す。話の中心にいる当人に目をやると、気にした風もなくこちらを見つめていた。先ほどの言葉に反論することなく立っているということは、さっさとそのバーとやらに案内してくれという意思表示だろう。
かくいう私も腹を空かせている。さらにここは灼熱の太陽にさらされる炎天下だ。少女の視線に促されるまでもない。さっさと涼しい建物内で、食事にありつくとしよう。
そうしてしばらくも歩かない内に、目的のバーを見つけられたのでさっさと入る。木でできた引き戸というのは中々に味があるものだなどと思いながら、私たちは一番奥の席を選んで座った。習性というものはどこへ行っても変わらないものだ。隅っこを好む男、風向緋板。
レース開始直後で、しかも外は炎天下。地図によるとこの街にはかなりの飲食店があるが、それでもこの店は大勢の人でにぎわっていた。ざっと数えるに三十人はいるだろう。それでもバーと言うよりビアホールと表現できるこの店では、空席がちらほらと見られた。
この店は一般的見解から判断するに、そこまできれいではない。しかし先ほども述べたが味のある空間ではあった。隠れ家的雰囲気とでもいうのだろうか。照明の数が少なくて、どうしても暗い。色あせた椅子にたくさんの傷にまみれた机。それでも、いや、だからこそなのかもしれないが、居心地はいい。ピカピカの店内でシックなBGMを肴に酒を飲むのもいいが、こういうところで乱雑に飲む酒もまたいいものだ。
貴族たるカモミールはこういう——汚いのがむしろいいという雰囲気を嫌がるのかと思いきや、意外にも興味を持っているようだ。しきりにきょろきょろと店内を見渡しては、その雰囲気を楽しんでいるように見える。私の視線に気が付いたようで、彼女は気楽そうな笑みを浮かべて口を開く。
「とっても楽しいですわ、ここ。貴族の社交界ではありえないような……ハッキリ言って下品で低俗な雰囲気ですのに。心がふわりと浮かんで、頬が自然と緩んでしまいますの。違う世界に触れるというのは、思っていたよりもずっといいですわ」
「そうだな。その通りだと思う。それよりも注文はしなくてもいいのか? メニューを見れば分かるだろうが、ここは相当に安いからな。思う存分に頼んでいい」
「いいんですの? 当然遠慮する心づもりでしたのに」
「いいさ。私はレース初心者で、カモミール……ちゃんもその様子だとレース初心者だろう? つまり同じ境遇だということだ。目の前で困っていれば、昼食くらいおごるさ。それにレース最初の飯を腹いっぱいに食べられないのも、さみしいからな。逆の立場だったら実際さびしい」
言うとカモミールちゃんは、真ん丸にした目で見つめてきた。意外だったのだろうか。私の見た目は、そんなにも優しく見えないか。
そんなことを考えていると、彼女の表情が変わる。会ってから初めて見る、緊張の抜けた柔らかな笑みだ。
「ありがとうございます。えっと……」
「風向だ」
「言いなおしますわ。ありがとうございますカザムカイさん。わたくしはどうやら、ここに来て最初にいい人に出会えたようですわね」
「そんなことはない。日本人なら当然の理屈だ」
「その判断はわたくしにはできかねます。だからこそ、自分の気持ちに乗っ取って感謝の気持ちを述べるのですわ。素直に受け取ってくださいまし。それと、わたくしのことはちゃん付けではなく、カモミールと、そのまま呼んでくださいな」
「あー店員さん。とりあえずファリジアビール」
微笑む私とカモミールの前を、おっさんのような言葉が過ぎていった。
「……お前はメニューに酒があれば、頼まずにはいられない病気なのか」
「なんで知ってるんですか先輩」
冗談笑いも浮かべず、ただ首をかしげるこいつには頭を抱えたくなった。今までの会話を何も聞いていなかったのだろうか。
「ええと、こちらの女性のお名前は……」
ようやくカモミールの言葉が耳に届いたようだった。挑御川はビールを求める視線をこちらに戻してから、自己紹介をする。
「私は挑御川集子。会社員です。こちらは同じ会社の先輩で風向緋板さん。先輩はレースは初めてで——」「その辺のくだりはもうやったからいい」
本当に聞いていなかったのか。挑御川に対する優秀なイメージは持ち続けていいものか、真剣に考える必要があるかもしれん。
……こんなことを真剣に考えるのも馬鹿らしい。飲もう。もう飲んでしまおう。
「ああ店員。コイツと同じビールをくれ」
「お二人とも、昼間からお酒を飲みますのね。それは日本の習慣か何かで?」
純粋な好奇心だろうカモミールの質問に、なんとなくギクリとした。例えるならば、休日のだらしない服装を同僚に見られた時のような、自分が悪いわけではないのに罪悪感を持ってしまう感覚か。
「ドイツの風習ですよ。ね、先輩」
「間違っちゃいないが合っているとも言い難いな。別に風習というわけではない。言うならば休日の庶民の……特権とでも言えばいいのか。飲みたい時に飲むという、ただそれだけのことだ」
だらしがないと言えばそれまでだが。
しかしカモミールはその言葉に、なるほどと言って頷く。
「ではわたくしも、ビールを頂きますわ」
「ちょっと待て、カモミールは今いくつなんだ」
「ハタチですわ」
思わず咳き込むほど驚いた。てっきり十五かそこらかと思っていたのだが。隣にいる挑御川が年の割に大人びて見えるせいかもしれない。それとも社会人と貴族の環境の違い、と言うべきか。
「なんですかその老けた老婆を見るような目つきは」
「そこまで思っていない」老けた老婆ってなんだ。
そこまでってどこまでですか! と声を上げた挑御川をさらりと流し、カモミールとの会話を楽しんでいるとビールはすぐに届いた。それからは乾杯をして、めいめい好きなものを注文して、食事を楽しむ。カモミールの食事作法の流麗さに驚いたり、昼間から大量に飲もうとする挑御川を抑制したり、単純に食事のうまさに感服したり。
そうして食事にある程度満足して、三人の手が少しずつ止まりかける頃。そういえば、とカモミールが口を開いた。
「お二人はこのレース、何を狙って?」
和気あいあいとした食事の場に、少しの緊張が走る。と言っても緊張しているのは目の前の二人なわけだが。こちとら一生懸命になって求めるような、高価で豪華なアイテムを選んでいない。目的のアイテムが被っていることもないだろうし、もし被っているならば譲ってもいいとすら思う。
しかしそんな気楽に構えられない一般的な参加者にとって、この空気は当然だろう。もしも同じアイテムを狙っているならば、どれだけ仲が良くなろうと二人は敵同士になってしまうからだ。現にもう十秒ほどの沈黙が続いている。ならば、ここは空気に縛られない人間が言葉を発するべきだろう。一口ビールを含みつつ、軽い口調で沈黙を破った。
「私はファリジア王国で最新式のパソコンだ。自身レース初心者であるし、今回はただ楽しみに来ているようなものだ。アイテムは競争率のないものを選んであるが、それほど興味もない。取れるならばいいが、取れなくてもいい……という感じか」
心なしか、少しだけほっとした表情を浮かべるカモミール。続いて挑御川が答えた。
「私はアーティファクト『境界線の消失』を狙ってます」
言うと、カモミールは驚いた声を上げた。
「それってこのレースの超目玉アイテムですわね。たしか死者との会話を実現できるという。正直申しまして疑わしいと思わざるを得ませんわ」
その言い方からして、カモミールの狙うアイテムはこれとは違う物だろう。それを受けて挑御川は、うん、と頷いてから口を開く。
「確かに疑わしい。けど、これがどうしても欲しいんです。それこそ命を賭けてでも」
強い言葉だが、込められている意志はそれ以上に思えた。これまで挑御川から聞いた、どんな言葉よりも強い意志が込められている。
長らく湧き出ていない感情だ、それは。うらやましいという気持ちを、無理やり押さえつけて閉じ込めた。
「失礼を申しましたわ。けれど、安心しましたの。狙いのアイテムは被らなかったようで。わたくしの求めるアイテムは、『デュベルクの魔剣』と呼ばれる、名剣の一種ですの」
剣と聞いて、自然とカモミールが背負っていた、今は地面に置いている筒に目を向けてしまう。あれの中身も剣なのだろうか。
「それは、どうするんだ? 君が使うようには見えないが」
容姿だけで判断した単純な疑問に対して、カモミールは少し言いよどみ目を伏せる。けれどそれは一瞬で、彼女は唇をキュッと結んで目を上げた。そうして頬を赤く染めて、目を泳がせながら口を開いた。
「ある殿方にプレゼントしますの……」
「ほう」
なるほど。貴族といえども、年頃の女性と言うことか。いやむしろ貴族は、結婚することが仕事のようなイメージだ。偏見はなはだしいが、私は貴族が普段何をしているのか全く知らないのだ。
年頃の女性、という単語を聞いて無意識に挑御川に目を向ける。その行動に対して何か言われるか? と少し身構えていると、しかし彼女は私の方には目もくれない。ホワンとした表情でカモミールを見つめ、どことなく楽しそうな雰囲気を纏っていた。酔っているのでないならば、つまり彼女も乙女の一人であるということか。
「カモミールさん。その人はどんな人なんですか?」
案の定そういう質問をぶつける。こちらはだんまりを決め込むとしよう。女性同士の恋愛話に男が介入すると面倒くさいことになるのは世の常だ。
カモミールは挑御川の質問にまんざらでもなさそうに、しかし恥ずかしげに小声で答える。
「同じファリジア王国貴族の、フランベルジュ=ケンラルーというお方ですわ。社交界の場でケンラルー様が名剣収集を趣味にしていると聞いたので……。それに同じ場で彼は自立している人が好みだと聞いたので、一人で取りに来ましたの」
聞くと、またも挑御川が酔ったような表情を浮かべた。犬も食わぬのは夫婦喧嘩だが、この手の恋愛話はヤギでも食うまい。けれど、そうした貴族社会もあるのだという知識だけは蓄えておこう。
そうして食事も話も一段落して、しばらくは幸福な満腹感に浸っていた。お昼時も過ぎてバーの人も段々と少なっていく。そろそろ席を立つかというところで、最初に立ち上がったのはカモミールだった。
「それでは、わたくしはこれで失礼させていただきますわ。カザムカイさん、奢っていただいてありがとうございました。この恩はいつか、返させてもらいますわ」
「いやそれはいいんだが……」
私は何となく、外に出てもこの街をぶらっと回るくらいまでは一緒にいるつもりでいたのだ。それを言葉にできずにいると、察したように言ってくる。
「これ以上あなた方と一緒にいると、自立しようにもできなくなってしまいそうですの。それくらい、楽しかったですわ。それでは、また出会えましたら……」
「あ、ちょっと待って」
背を向けかけたカモミールを呼び止める挑御川。彼女の手には最初にもらった例の端末が握られていた。
「端末番号を交換しておきましょう。そうすれば好きな時に会えますし、情報交換もできます。ああ、もちろん食事のお誘いとかでもいいですからね」
なるほど、そういう使い道も当然あるわけか。私もポケットにしまってある端末を取り出す。
「こっちもお願いできるかな?」
カモミールは満面の笑みで答えてくれた。
「そんなの、決まってますわ!」
これで断られたら度肝を抜かれるが、しかし端末番号の交換はつつがなく行われた。それを終えるとカモミールは深々とお辞儀をして、チラリとこちらを見て微笑みながら、名残惜しそうにバーから出て行った。貴族とは高飛車で高圧的なものだと思っていたが、彼女のような人もいるのか。まあ今まで出会ったことがなかったのだから、完全な妄想であったわけだが。
それから少しして、私たちはバーから出た。何となく周りを見渡すが、やはりカモミールの姿はなかった。それにしても、
「なかなか楽しい食事だった」
独り言をつぶやくと、挑御川は返事をくれた。
「そうですね。外では全く関わりのなかった人との交流も、レースの醍醐味ですから」
実感の伴う経験という奴だろうか。挑御川は思い出すように目を瞑り、楽しげな表情を浮かべた。
私も今日という日を、こういう風に思い出す日が来るのだろうか。
……少しだけしんみりした。切り替えていこう。




