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  作者: モノノケ
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思考フェイズ

 さて、先に進まなければならない。私は頭をより回転させるために店を出て、街中をあてもなく歩き始めていた。今朝ここに来る時には感じられなかった、涼しげな風が全身を洗っていく。昨日よりも日差しは強いが前の街『アッシュ』のように肌をジリジリと焼く類のものではなく、ポカポカ陽気と表現した方がしっくりくる。外を歩いている人も昨日より明らかに多い。

 もしかすると、今日は何かあるのかもしれない。そう思わざるを得ないほどに、周りの人々から感じる雰囲気や挙動が昨日と異なっているような気がした。どこか楽しげで、それでいてほのかな殺気の紛れた視線。それがあちこちで交差しているような気がした。ファリジアレースに参加して実質五日目だが、いい加減殺気という感覚にも慣れて、そんな玄人じみたことを考えられるようになった。まあこの感覚が正しいものなのかは知らんが。所詮は自称中級者の戯言だ、あてにしない方がいい。そう自分に告げてやる。

 お祭りか何かがあるのだろう。適当にあたりをつけたところで、ポケットに入れてある端末が震えた。何だと思って確認すると差出人の名前に思わず、おっ、と声が漏れた。

 フランベルジュ=ケンラルー。一昨日に私の復帰祝いをしてくれた、初日に出会った二人のうちの一人。ファリジア王国の貴族であり闘技場で七連勝出来るほどの強さを持ち、私を友と呼んでくれる誇らしい存在。

 そんな彼が、なんと食事の誘いをくれたのだ。嬉しい気持ちを覚えつつも、文面には当然、『集子も一緒に』という言葉が書いてあった。思わず身を引き締めて、今自分がなすべきことが何なのかを今一度考える。

 だが感情のままに栄養を取らないで作業に没頭すべきだという前時代的な考えには意味はないし、長い目で見て効率も良くない。となると食事の誘いを断る理由はないか。

 どうやら待ち合わせの時間は十二時で、今は十一時前。約一時間は待つ必要がある。ならばその時間を使って『私自身の超能力』に関する考えをまとめてみよう。当然メールの返信はしてからだが。


 端末をポケットへしまい、再び雑踏を歩きながら考えるとしよう。それでは、超能力考察の第一段階だ。浩太の言っていたようにして、私の感覚を表してみよう。

 『超能力とはどういうもの』なのか。それを私は『体中に流れるエネルギーの塊』だと思って、これまで使ってきた。血液とは人間の身体を稼働させるのに必要不可欠な物質だ。だから血液にはエネルギーが宿っている、と考えてきたのだ。言い換えるならば血液に宿る生命エネルギーのようなものを超能力によって、爆発エネルギーに変換している……とでも表現すればいいのか。これがあっているのか間違っているのかは当然、判断つかないわけなのだが。解釈としてはそういうことにしてある。

 『超能力を使うトリガー』としては、迷うことなく『出血』または『血液』だと言える。いや、それは超能力を使う媒体であってトリガーではないのか。強いて挙げるならば血液に対して、「爆発しろ」等の念を感覚で命じている……という方が正しい。もっと簡単に言えば、爆発しろと思えば爆発するのだ、私の血液は。

 そう考えてふと思い起こす感覚があった。私は自分から離れた血液を、さながら自分の一部のように感じられるのだ。つまり他人に自分の血液が付着した場合、それがどのあたりなのかを目で見なくても分かるということ。この事実は何かに使えそうだ。

 なるほど、感覚でやってきたことをきちんと明確化して理解するのは、超能力を使うにあたって非常に効率がいい。自分のできることが明確になり、それは行動の選択肢が増えていくのと同じだからな……。

 そうなると、これまで出来て当たり前だと思っていた行為も洗い直していく必要がある。割りと途方もない思考労働だが、考えるのは好きな方だ。テキパキやっていこう。

 私は知らずのうちに公園へと足を踏み入れていた。とは言っても昨日逢瀬牧と出くわした場所とは別の地点だ。ここは広いなと感心して、少し歩き疲れている自分に気が付いた。その辺に腰をすえて考えようか。適当にあたりをつけた日陰のベンチへと歩いていき、ゆっくりと座り込んだ。

 ……出来て当たり前だった事象を、洗い直す必要性を感じたのだったか。ならば最初から考えてみよう。

 っと。早くも躓いてしまった。深く考えてこなかった事象がいきなり浮かんできたのだ。

 それは私が超能力に悩まされていた六歳の頃。こける度に出血して爆発して気絶していた、『お昼寝小僧』と呼ばれていた時の話だ。この頃は真の意味で超能力をコントロール出来ていなかった時期だが、十歳になる頃には何故か、こけても爆発しなくなっていた。こういった要因が、超能力は消えてなくなるものだと勘違いするきっかけになったわけだが、今は関係ない。

 爆発によって痛い思いをするのは嫌だったが、そう思いながらも何か努力をして変化を目指したという感覚はない。本当にいつの間にか、こけても爆発しなくなっていたのだ。

 年を取ると——この場合は大人になるにつれて、出来ることが増える理由は語るまでもないが脳細胞が増えるからだ。まして六歳から十歳の間など、能力には天と地ほどの違いがある。

 だがそこから深く考えてみよう。脳細胞云々の仮説はおそらくだが、ベターな分だけそれほど的外れではないはず。となると、脳細胞が増えると超能力がある程度コントロール出来るようになった、という式が成り立つわけだ。頭の浅い所で考えられる馬鹿っぽい仮説だが、一応前提条件としては出しておく。

 ここで私の超能力に対する感覚を思い出してみよう。『体中に流れるエネルギーの塊』。つまりはこれをどうにかしたから最低限のコントロールを得ることになったのだろう。

 その『どうにかした』という曖昧な部分を、こうは説明できないだろうか。

 六歳の頃の私には超能力という概念はなかった。こけたら爆発するという事実をただ、あるがままに受け止めていたように思う。つまり人には空が飛べないだとか、物を投げると必ず落ちてくるような事柄と同列に、そういう事象なのだと考えていたのだ。

 だが年を重ねて、物事をある程度は分かるようになって。事象だと思い込んできた爆発が、超能力という自身の力なのだと気が付いた。つまりは、認識を改めた。これが先ほどの『どうにかした』部分ではないだろうか。

 理解できない事象から、理解できない自分の力へ。それは超能力という存在を自分の考え、または理解の内に近づけたということだ。

 『超能力は自分の考えに強く依存している』という、浩太の言葉を思い出す。これに当てはめるならば、私は超能力を自分の力だと認識したことで、それはコントロール出来るものだと思い込んだ。結果、超能力の制御を最低限ではあるが可能にした。

 『最低限の超能力制御のきっかけとはなんだったのか』という疑問に対する仮説は出た。そして今、私の中に生まれていた仮説の信ぴょう性が増した。

 それは『超能力という存在が自分の考えに強く依存しているのならば、超能力自体を自分の考え、またはルールに閉じ込めることも可能なのではないか』ということ。つまりは超能力に決まりがないのならば、自分が使いやすいような仕組みに変えられるかもしれないという仮説だ。超能力に合わせて自分の自然な感覚を探るという浩太が教えてくれた方法とは逆に、私が好きな事柄に超能力の方を当てはめる。これならば自らの感覚などという曖昧なものを探る必要もない。既存の考え、概念を利用できるのだから格段に使い勝手がよくなるはず——。

 これまで思いつかなかったのが不思議なくらいだ。だが、今まで出来なかったことを責めても意味はない。自分にこういうことができるのだと、新たに自覚することは難しい。

 私は新しい事実の発見に、心が晴れやかになる自分を感じた。難しい問題を解いた後のようなスッキリとした感覚。思わず空を見上げると、夏というにはまだ早い季節だが大きな入道雲が一つ、我が物顔で空を占拠している。その奥行や陰影をじっと見ていると、ふと世界の広さに圧倒されてしまう。

 しかし同時に、ちっぽけな一人の自分という存在を強く深く意識してしまう。

 そこで私はハッと思い出した。自分のことを。自分という人間がどういう性格をしていて、何故『人生を捨てている』と言えるような生き方をしてきたのかを。

 それは、空っぽだったからだ。何事も面白いと思えず、何事にも興味を抱けない。抱いたとしてもすぐに飽きてしまう。そんな自分の正体を、もう一度再認識したのだ。

 これは別に、感傷に浸っているのではない。現実的にまずい状況だということを意味している。

 つまり『超能力は自分の考えに強く依存している』という、決まりのない超能力唯一の決まりが、私を窮地に追い込んだ。先ほど練りだした仮説——超能力を好きな事柄に当てはめるという仕組み。それが最も困難だというのに。

 私は空っぽだ。好きなことも得意なことも、五年前に全てを投げ出して窓際社員になってしまったあの瞬間から全て忘れてしまっている。過去の自分の感情を、自分の物とは認識できない。切り離されてしまったのだ。記憶喪失ではない。記憶はあるが、その時の感情を共有できないのだ。

 例えば学生時代の楽しかった記憶を思い出すとする。するとその時楽しかった自分が浮かぶわけなのだが、その時私の頭は、「なぜ私は楽しそうなのか」と考えてしまう。その前後関係を確認しても同じだ。つまり今の私にとって楽しいと思えないならば、過去の感情は自分の物とは思えないのだ。

 だから私は編み出した超能力の仕組みを、間抜けなことに自分では使えないのだ。自分が使いやすいようにと言いながら、超能力を操作するための基盤——好きな事柄が思いつかない。もしもゲームが好きならばゲームの感覚で超能力を操作できるだろうし、文章を書くことが得意ならば超能力でしたいことを頭に書き起こすなどして能力の自由度は上がるだろう。手話が出来るのならば何かしらの動作を発動のトリガーにすることで、コントロールは容易になる。あくまで仮説だが、そういったことができる可能性はあった。

 しかし私には何もない。いや、分からないのだ。自分は何が好きなのか、または何が好きだったのか。何が得意なのか、または何が得意だったのか。何が出来て、何が出来ていたのか。何も分からない。私にはもうファリジアレースと、そこで出会った友人たちしか残されていないのだから——

 ——違う! 一人、いた。楽しさを失う前の私と、失った後の私。そのどちらとも付き合いのある友人が一人だけいる。そいつは会社の同期で、窓際社員になった風向緋板とも変わらぬ態度を取り続ける変わり者。それ故に今となっては、最も関係の長い友人と言えるかもしれない存在。

 同期一の出世頭、根岸唯雪(ただゆき)だ。


 時刻は十一時五十分。待ち合わせの時間はもう間近に迫っているわけだが、それでも私は今すぐに電話しようと思った。これといった理由はなく、ただの衝動。根岸の存在を思い出した時に、なんとなく奴に電話をかけたくなったというだけだ。

 私の電話帳の中では断トツの通話率を誇る根岸の番号は、確認するまでもなく頭に入っている。ポケットにある端末を取り出して、慣れた手つきで番号を押した。

 コールが十回ほど鳴る。なかなか繋がらないので思い出したが、そういえば今はファリジア王国にいるのだった。そうなると国際電話になり電話料が——ではなくて。時差の問題が生じる。日本とファリジア王国の時差はどれくらいだったか。そもそも二日も眠っていたせいで、曜日感覚はすっかり消え失せている。もしかすると根岸はすでに休みを終えていて、働いている最中かもしれない。

 そんな繋がらないかもしれないという不安は、しかし数秒後には消えた。プッと繋がったような音が鳴って、電話特有の雑音と共に、聞き慣れた声が耳に届いたからだ。

「……なんだ。今が何時だと思ってるんだ。ええ? 風向」

「すまない根岸。少し聞きたいことがあってな」

 どうやら寝ていたらしい根岸。耳には布が擦れる音とスプリング音が聞こえてくる。どうやらベッドから出てくれたらしい。律儀な奴だ。

「というかお前、この電話、国際だな?」

「よく分かるな」

「当たり前だ。こちとら何年真面目に仕事やってきたと思っている。国際電話かどうかなんてノイズを聞けばすぐに分かるさ。で、お前。どこに旅行だ」

「ファリジア王国」

「ファ、ファリジア!?」

 急にむせる音が耳に響く。

「おいうるさいんだが。咳をするなら受話器を離してからにしてくれ」

 言われたとおりに受話器を離したらしい、咳の音が遠くなる。するとガサゴソと様々な音が聞こえてきた。冷蔵庫を開ける音、水を飲んだらしく喉を勢いよく鳴らす音。それから再び根岸の声が耳に届いた。

「……お前のことだからそこへ行ったなら、ファリジアレースには——」

「参加しているが」

「だろうな。全く、イカれているな相変わらず。俺の話をどう聞けばそんな行動に結びつくんだか。いやまてよ、まさか風向。今、挑御川集子と一緒にいるのか?」

 この言葉には驚いた。まあ集子がレースに参加することを知っているのだから、筋道の立った推論は立てられよう。しかし私と集子だ。会社内での関係の薄さを知っているにも関わらずそう考えられる発想力は、さすが根岸だと言える。

「ああ。彼女は何度も参加したことがあるらしくてな、案内というか説明役をしてくれている」

「そうか。怪我には気をつけろとだけ言っとけ。当然お前も気をつけろよ。怪我しないように死なないように、せいぜい一攫千金を狙って来い。帰ってきたら土産くれよ。後、飯奢れ」

「一気に話しすぎだ。それと一攫千金にはあまり期待するな」

 私の目的は今現在パソコンとなっているわけで。そもそも一攫千金と言うが、ここで稼いだメラをどのように持ち帰るのか、その仕組みも知らないのだ。万が一ゴールしたとしても金が手に入らなければ根岸への奢りは身銭を切る必要がある。それでは私は一方的に損ではないか。普段は割りカンなのに——

 いや、私はみみっちい考えを吐露したかったわけでも、話し相手が欲しかったわけでもない。そろそろ本題に入るとしよう。

「まあ土産くらいは買ってこよう。それで、話を戻してもいいか」

「ああいいぜ。俺に聞きたいことってなんだ? わざわざ休暇中、それもファリジアレース中に聞かなきゃならないことなんてそうはないと思うんだがな」

「単刀直入に聞く。根岸、お前から見て私はどういう人間だ?」

「……はあ?」

 予想はしていたが、根岸はやはり素っ頓狂な声を上げた。

「突然こんなことを聞かれて戸惑うのは分かる。それでも答えてほしいんだ。それとも『どういう人間』という曖昧な聞き方が悪かったのか? ならば私という人間が『好きそうなことや得意なこと、出来ること』でもいい。とにかく風向緋板の特徴を教えてほしい」

 まくしたてる言葉の意味を、じっくり吟味するように間を取った根岸。それから考えるように唸って、口を開いた。

「……風向。お前まさか記憶喪失にでもなったか? それともお前は風向じゃなく別の人間だとか——」

「声が分かりやすく震えているが」

 根岸は一息ついてから言う。

「冗談だ。まあいちいち質問の理由を聞くのは野暮だからな。お前じゃあるまいし、気になったこと逐一聞くような趣味もないし、な」

 そうして耳からもう一度、ゴクゴクと喉を鳴らす音が聞こえる。そして小さくため息をついて唸った。私は焦る心を何とか抑えて、奴の考えをせかさないように努めた。

 よし、という言葉が電話越しに聞こえてきたのは十秒ほど後だったと思うが、私には三分にも四分にも感じた。奴は話す内容をまとめたのだろう、詰まることなくスラスラと話し始めた。

「お前がどういう人間か、だったよな。まずは俺から見た印象から述べてやるか。入社直後に見たお前は、仕事が出来る奴のように見えた。実際に接してみてもその印象は変わらなかったな。頭の回転が速く、論理的で、物事を順序立てて考えることに非常に長けていた。そうだな、仕事をプログラミングされたロボットのようだった。

 確か実際にプログラミングを学んでいたんだったな。俺にはそういう知識はなかったからお前に教えを請いた覚えがある。『フローチャートも知らないなんて、一体大学で何を学んでいたんだ!』って上司みたいな口調で言ってきたこともあったなあ」

 記憶からはすっかり抜け落ちている。が、それが自分のことだと言われると体が熱くなるような恥ずかしさがあった。昔の私は、むやみやたらに偉そうだ。若気の至り、学生気分が抜けていない、そういった言葉が浮かんでは消えた。

「アドバイスもがっつり技術的なことを教える時と、やたら抽象的な時があって、教えられる側としてはかなり戸惑った。なんて言っていたか……。

そう、こう言っていた。

『プログラムは大きな力だと考えろ。お前が何をすればいいのか分からないのは、その大きく自由な力をただ見つめているからだ。河川の氾濫、土砂崩れ、津波、雷……。大きな力を制御する方法は、昔から決まっている。

 それは『人間の決めたルールに従わせる』という概念だ。堤防、砂防、防波堤、避雷針。自然という大きな力も人間の決めたルールには逆らえない。

 根岸、プログラムも一緒だ。一見それは何でもできそうに思えるほど自由度の高い力だ。だがな、ルールを定めてやり、力の方向性さえ制御してやれば、その力は自分の思い通りにしか動かなくなる。そのルールは絶対に変わらないものだと狂信しろ。だから大きな力に対して恐れずに、きちんと動きを指示してやればいい』

 ……だったか? まあ一言一句合ってるとは言わないが、それでも印象的な言葉だったからな。意外にスラスラ出てきたよ」

 他には——と、まだまだ述べてくれそうな根岸だったが、それを制止する。

「いや、もういい。ありがとう根岸、ずいぶん参考になったよ。夜遅くに済まなかったな」

「ああ? もういいのか。俺としても懐かしくて面白かったから、気にするな。まあ今度は酒の席で、俺の印象でも語ってもらうとするか」

「……そうだな。気分が変わった。無事だったら、一食くらいおごってやるさ」

「期待しておく」

 それじゃあな、と通話を切ったのは根岸の方からだった。そうして通話を閉じた私の心には、ほんの少しの懐かしさと楽しさが混在している。もっと話をしていたかったという感情は、根岸唯雪が親友であることの証明だろうか。お土産に少しいい物を買ってやろう。いや、それはともかく。

 私は奴の話で思い出した。自分がどういう人間で、どういった思考をしていたのかを。結論から言えば、思考回路自体は今とあまり変わらないと言うべきか。それでも自身の考え方のルーツはよく分かった。そして自分が最も得意だったものが何かも。

 そう、プログラミングだ。私は根岸言うところの『ガッツリ』と、それを学んでいた。いちいち筋道を立てて物を考える性格もそれに起因しているのだろう。

昔の私は、自信を持っていた。プログラミングもそうだし、自身の考え方にも。そしてパソコンという存在には絶対の信頼を置いていた。これだけは自在に操れるのだと。自分の意志の通りにプログラムは作動するのだと。

 思わず顔がにやけてしまう。自分の理論と持論が、全てうまく組み合わさった感覚。パズルを全て組み終えて、完成絵を見ているような気分というのか。組み上げた超能力の仕組みに唯一足りなかった基盤。それがようやく見つかったのだから。

 簡単なことだ、超能力をプログラム化すればいい。頭の中でプログラミング画面を想像して、そこで条件を設定する。こうすれば条件通りに超能力は発動すると、確信を持って言える。何故ならばプログラムとは、私にとって絶対に、自在に操れるものだからだ。

 そうして噴水から立ち上がり、私は静かに目を閉じた。そうしてプログラム画面を頭から呼び起こし、条件を設定する。

——条件設定開始。

——能力発動条件『血液に強い衝撃があった場合』

——能力発動範囲『出血個所を中心に直径十センチメートル』

——威力『十段階設定の二』

 設定を完了すると、静かに目を開いた。同時にポケットに入れていたピックを左親指に装着して、そっと掌に這わせる。うっすらと掌が濡れる感覚に満足を覚えつつ。そうして地面を見つめ、自らの意志で超能力を発動しようとしないままに、左手を地面に叩きつけた。

 瞬間、掌の下から小さな爆発が発生して、土煙が上がった。生えていた草が散り散りになって宙を舞う。ゴホゴホとせき込みつつ手をどかして地面を見てみると、そこには一部分土の抉れた場所が確かにあった。

 その事実を確認して、小さく笑った。

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