月のない夜
あらあら?寝ずにわたしを待っていたのですか?
ふふふ。そうですね。約束しましたね。
もちろん、昨日の続きをおはなししましょう。
どこからでしたっけ?
そうそう!月の女神様が出てくるところでしたね。
それでは今夜も語りましょう。
これは昔、昔のお話です。
時を同じくして、太陽の神様ともうひとり。実は月の女神様も生まれていました。
太陽の神様と共に、人々を導き、世界を照らし、何より、闇を祓い、夜が人々の安らぎの時間となるように。
それが月の女神様に与えられた役割でした。
双子神の誕生によって、人々は昼と夜、安寧と休息、月日、つまり暦を与えられるはずだったのです。
けれど、生まれたはずの月の女神様の姿はどこにもありませんでした。
人々は生まれたことすら知りません。
兄妹である太陽の神様さえ、妹がどこにいるのかさっぱりわかりませんでした。
夜を照らすはずの月の女神様がいなければ、夜を迎える訳にはいきません。
そういう理由から、太陽の神様はもう長いこと地上を照らし続けていました。
だからと言って、人々に本当のことを話す訳にもいかず、太陽の神様も心底困り果てていました。
けれど、そんな日々もとうとう限界を迎えました。
眩しすぎる世界は暗闇に馴れた人々を疲弊させ、失神する者まで出てきたのです。
これでは、ようやく得た信仰を手放すような事態になりかねません。
人々を側で支えていた地の神様のほとんどがこの地を去り、夜を守るはずの月の女神様もいない。
それでも、人々のためには夜を迎える必要があります。
太陽の神様は苦渋の決断をしました。
『ほんの少しだけなら大丈夫だ。私がずっと地上を照らしていたのだから、闇の者たちも弱っているに違いない。きっとそうだ』
太陽の神様は、そう自分に言い聞かせて、人々に言いました。
「人の子らよ、聴け。そなたらには休息が必要だ。けれど、私が司るのは活動。私が空にいては、そなたらは参ってしまう。私はしばしの間、空を降りる。だが、心配する事はない。闇の者らは私の光に恐れをなし、影深くに隠れている。そなたらを襲う力は残っていないだろう。十二の鐘が鳴り止む時に私は戻ってくる。それまで、ゆっくり休め」
人々は不安を感じるよりも先に安堵しました。闇への恐怖を忘れるほどに人々は弱っていたのです。
こうして、人々は初めての『夜』を迎えました。




