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「裕二さん…!裕二さん…!」
女以外誰もいない静まり返った空間。
女の甲高い声がこだまする。
「…裕二さん!」
次々に家のドアというドアを開けていく。
「いない!」
「いないいない!」
次第にうわずっていくヒステリックな声。
「裕二さん!!!!」
そうだ、タバコを吸いに行ったんだわ…。
どおりでいないのよ。
美味しい朝ごはんを作れば、きっと喜んでくれるわ。
そう呟くと女は、台所へと立った。
「何にしようかしら。」
鼻歌交じりに冷蔵庫を開ける。
そこにはぎっしりと食材が詰まっている。
__という訳がなかった。
「ない!」
再び響く甲高い声。
「どうしてなの!なんで!」
朝ごはんを作らなくちゃ。
裕二さんが…裕二さんが…
そうよ、近くに24時間営業のスーパーがあるじゃない。
買ってくればいいんだわ。
女は突然顔を上げたかと思うと、ものすごい勢いで奥の部屋に入った。
棚の引き出しを必死にあさる。
手当たり次第ひっぱりだす。
手を奥へ奥へと突っ込んでいく。
その時だった。
手が、確かに触れた。
目当てのものに。
あった……
目当てのものは、奥の奥に押し込まれていた。
ほんとうに意地悪な子。
どうして?
私と裕二さんの子なのに。
どうしてこんなことするのかしら。
とりだした封筒を逆さまにしてふる。
すると、ひらひらと一万円札が2枚封筒の口からでてきた。
本当にバカな子!!!
女は拳を床に叩きつけた。
かと思えば、急に笑顔になり立ち上がるのだった。
それから鏡で姿を確認する。
分厚い化粧に白い上品なワンピース。
今日も綺麗だわ。
裕二さん、喜んでくれるかしら。
軽い足取りへ外へと向かう。
靴はお気に入りの淡いピンクのヒール。
_________手には二万円がガッチリと握られていた。