明希
2話目となりました。
まだまだ慣れない作業ですがぼちぼち頑張っていきます。
朝がきた。
なんだよ、さっき寝たばっかりじゃんか…。
窓から差し込む日差し。
久々の晴れ間にちょっと嬉しくなる。
今日は外で部活できるな。
ここ一週間天気はずっと不安定で、いい加減室内での筋トレ尽くしにうんざりしていた頃だった。
明希の通う中学は3年前にできたばかりの新設校。
家から歩いて5分で行ける。
だから朝は遅くていいのが楽だった。
部活に打ち込む毎日。
明希が所属するのは弓道部。
1年の頃、その珍しさとかっこよさに一目惚れしてすぐさま入部した。
公立の新設校の割になかなか強い部活で、休日は試合や大会が忙しい。
引退試合が近づく3年生は、今まで以上に熱心に練習をしていた。
明希も必死だった。
''なんとかして結果を残したい''
その一心で。
弓道のなんともいえない魅力に惹かれたのは事実である。
だが弓道の中学生の競技人口の少なさも、入部の大きな決め手となっていた。
もともと明希は幼い頃からサッカーをしていたのだ。
しかし、サッカー部に入部する気などさらさらなかった。
競技人口が多いだろう?
サッカーで名を残すのと弓道で名を残すのでは、弓道のほうが断然簡単に決まってるじゃないか。
はやく、はやく結果がほしい。
この部活の方針は、団体戦を極めることだった。
だから団体戦では結果が出るものの、個人戦は3年生の引退試合のみとなっていた。
これで結果が出せれば。
その成果は俺だけのものだ。
みんな俺を認めてくれるんだ。
理沙に勝ちたい。
明希は理沙が弓道をしていないことに心から感謝した。
理沙は明希が弓道部に入部したての頃、よく呟いていた。
「いいなぁ、弓道。私もやってみたい。」
「なぁんで私の学校は弓道部ないのかなぁ。」
理沙とは年子で、一学年しか変わらない。
しかし、学校が違った。
俺が通う学校は、理沙が入学した次の年に開校したからだ。
普通近い方の学校に転校するものだが、新しい制服なんかを買い揃える余裕はうちにはなかった。
「ごめんね、理沙。」
「学校遠いよね。」
「ううん、いいの。」
「運動できるから遠いくらいが丁度いいよ!」
あいにく理沙が通った中学は山の上にあった。
自転車に乗れない。
そのために理沙は毎朝1時間半歩いて山の上の学校に通っていた。
5分で行ける学校があるのに。
でもこれには心底感謝だ。
同じ学校に通わずに済んでよかった。
理沙はいつも俺の邪魔する。
理沙がいなければすんだ話なのに。
理沙がいるせいで俺は認めてもらえない。
出来損ないの弟としか見られない。
別に俺は自分を出来損ないだとは思わない。
成績も人並みには良かったし、運動だって並以上にはできる。
#理沙__アイツ__#のせいで。
俺は理沙が大嫌いだ。
小さい頃から、ずっとずっと大嫌いだ。
リビングに行くと、電気がついていなかった。
またかと思い玄関に行くと、案の定理沙の靴はなかった。
朝ごはんも食べねぇでなんでこんな早くからでるんだよ?
おかげで俺が飯つくらなきゃいけねぇんだぞ?
こんな日が、もうずっと続いている。
作るのが面倒くさいから、家の前のコンビニでパンでも買ったっていいけど。
あいにく明希の全財産は底をついていた。
『チッ』
夏休み前までは理沙が作ってくれた。
一緒に食べて、理沙が慌てて出て行くことが日課だったのに。
夏休み明けてからだろうか。
理沙の顔を見ない。
もちろん口を利いてもいない。
どうして朝食も食べずに早く登校するのかも聞けずにいた。
部屋から理沙はでてこない。
同じ屋根の下に住んでいるのに、会わない。
おかしい、と感じる。
けれど。
今の明希には、部活以外のことを考える余裕などなかった。
1人で不器用に目玉焼きを焼いて、冷凍ご飯をレンジで解凍する。
母が起きる前に。
急げ。
急げ。
学校に行けば、楽しい時間が待っている。
急げ。
家にいても、つまらないだけだった。
それに、家には母がいる。
檻から飛び出す獣のように、俺は家の玄関を勢いよく開け外へと足を踏み出す。
_________これが、俺の日常。