明希
だいぶ間が空いてしまい待っててくださった方がいらしたら申し訳ありませんでした。
これからものそのそと更新して参ります。
心臓が音を立てる。
今にも張り裂けそうなくらいに俺の胸の中で跳ね上がる。
しんと静まり返ったこの部屋に、ドックドックと心臓の音がこだまする。
今俺は夢を見てる。
そうだろう?
いや、そうだと言ってくれ。
思いっきり頬をつねる。
涙が浮かぶ。
友達にふざけてつままれたときとは違う、刺すような痛み。
嘘だろ?
今あるのは、几帳面な明希のすみずみまで整理された部屋ではなかった。
乱暴に引き出しが開けられ、中にあったものが床に散乱している。
その引き出しは……。
頭が真っ白になる。
そんなはずはない。
そんなはずはないんだ。
まさか…。
ごくりと唾を飲み込む。
震える手を引き出しの奥に入れる。
カサ………
一気に全身の力が抜ける。
よかった。
あった。
冷えた体が温かくなっていく。
明希は安心して、その封筒から一万円札を出そうとした。
あれ……?
温まりかけていた体は一瞬で冷め、目を見開く。
頭から血の気が失せる。
ない。
確かにあったはずの二万円がない。
たたでさえ薄かったその封筒に、厚みはなかった。
「母さんっ!!」
フツフツと湧き上がる怒りを抑え込みながらドアに手をかけた。
悪い冗談はよしてくれ。
いや待てよ。
今母さんに怒鳴り込んで行ったって何も解決しないのではないか。
おろしたての今月の生活費。
それを盗んだのは母さんしかいねぇ。
また父さんがいるとかどうとか狂ったこと言って。
それにしても母さんには見つからないように隠してたのに。
なんでわかったんだ?
母さんには生活費を削って小遣いあげてるのに。
それでも足りねぇのか?
一体母さんは何がしたいんだ?
この一ヶ月どうやって過ごす?
今人生最大のピンチを迎えていることくらい、理沙とは違って平凡な頭しか持ってない俺でもわかった。
どうしよう……。
俺のせいだ。
俺がもっと…絶対見つからないところに隠しておけば。
鍵をつけていればよかったのに。
ああ、どうしたら…。
『ガタンッ』
ん?
玄関のドアが閉まった音がした。
理沙?
てっきり理沙は部屋にいるものと思ったけど…
なんでこんなに遅いんだろう。
そんなことより、今こそ俺は理沙と話さなければ。
理沙が部屋に閉じこもってしまう前に。
玄関への廊下に直接面している俺の部屋のドアを静かに開ける。
理沙、頑張ろう。
なんとかしなきゃ。
仲間はもう2人しかいないんだ。
「理沙………!!!!!」
俺が目にしたのは、俺の知っている理沙じゃなかった。
久しぶりに見た理沙は輝きを放っておらず、まるで薄汚れた雑巾のように醜かった。
いや、電気の点いていない暗闇で、醜くみえたのだ。