理沙
初めての投稿です。
小説を書くのは初めてなので、アドバイスや感想など、コメントをくださると嬉しいです❀.(*´◡`*)❀.
容姿端麗で好かれる。
才能をもてはやされる。
特別なものをもっていたら、それはその人にとってプラスとなる。
誰もが、少しでも綺麗にしようとする。
これができたら、あれができたら、と欲をもつ。
''天は二物を与えず''なんて言葉があるけど、それを都合のいいように使う。
「天は二物を与えずっていうじゃない。私はあれができるからいいのよ。」
「天は二物を与えずとか嘘ばっかり。二物も三物も五物も与えられてるよねあの人って。」
みんな、みんな、特別なものが欲しい。
特別なものをもっている人を羨む。
自分にないものをもっている人に近づきたい。
____________そう思うのって、ある条件の下でしか成り立たないって知ってた?
その条件とは俗にいう''普通''であること。
なんの肩書きももたない人であること。
自分は自分でしかない人であること。
____________罪に縁がない人であること。
朝。それは必ずやってくる。
いつもと変わらない日々。
いつも。いつも。いつも。いつも。
カーテンから差し込む日差しが眩しい。
ゆっくりと布団をめくる。
最近肌寒くなってきた。
もうじき冬が来る。寒いのは苦手だ。
時計に目をやる。5時50分。
一つ大きな伸びをして、洗面所に向かった。
洗面桶に水を入れる。
蛇口からでる水の音が響く。
音が冷たい、静かな空気の中に広がってゆく。
手で水をすくう。
水が冷たい。
目がさめた。
タオルで顔を拭く。
鏡を見る。
極力、短い時間で。
寝癖のついた髪の毛だけを整える。
幸いにも、私の髪の毛は癖のないまっすぐなストレート。
今日もきれいにまとまっていた。
すぐに鏡から目をそらす。
ブラシでさっと髪をとく。
メガネをかける。
マスクをつける。
別に、目が悪い訳でも風邪をひいている訳でもない。
……厨二病って訳でもない。
自分の顔が嫌いなだけ。
自分の顔なんて見たくない。
理沙は大きな溜息をついた。
白く透き通るような肌。
スッと整った鼻。
薄い唇。
それらはマスクの陰に身を隠した。
ツヤのある綺麗な黒髪で顔を隠す。
見えているのは、ダテメガネから覗く二重の大きな瞳。
理沙は制服に着替え、朝食も食べずに鞄を手にとった。
「行ってきます。」
小声でそう呟くと、静かにドアを閉め学校へ向かった。
通学は電車だ。
駅までは田んぼ道をずっと歩いていく。
早朝の日差しに照らされて、さらさらと稲が揺れる。
理沙は風に吹かれて波うつ稲を見るのが好きだった。
田舎にある小さな小さな駅。
そこには古い電車がやってくる。
基本一両編成だが、この日は二両編成だったので少しだけ気分があがった。
理沙は決まって一番端の窓側の席に座る。
カタン、カタン………
一定の心地よいリズム。
電車のこの空間が、理沙の一番幸せなひと時。
20分ほど乗ると、理沙が住む田舎町の駅の30倍の大きさはある駅につく。
ここで八両編成の電車に乗り換え、5分ほど乗ったところが学校の最寄駅だ。
電車を降りる。
駅の周りは建物が立ち並び、通勤・通学で人が溢れている。
''息苦しい''
常々そう思う。
顔を伏せる。
目が合わないように、顔を見られないように。
駅へ向かう人をすり抜けすり抜け、丁度5分歩いたところが学校だ。
気が重い。
いつものことなのに。
心臓に鉛を乗せられているようだ、といつも思う。
理沙の教室は1ーD。
廊下の一番奥にある。
教室に行くまでにいくつか他の教室を通るが、まだ時間は早く人が少ない。
なのに。
理沙の教室だけは人が多い。
クラスメートは楽しそうに談笑していた。
それが見えた途端、理沙の足は更に重くなる。
鎖が。鎖が。
私の足を引っ張らないで。
鉛が重い。
助けて……。
でも決して、表情は変えない。
心がどれだけ嘆こうが、顔は泣かない。
表情を変えるな。
氷になれ。
冷たい、冷たい、芯まで冷えた氷。
鉛のようになんの温かみももたずに。
冷やせ。
心に蓋をしろ。
心を凍らせろ。
『ガラッ』
一瞬静かになる教室。
「おはよ、朝霧さん」
「朝霧さん!」
「朝霧おはよー」
「おう!朝霧!」
次々に飛び交う挨拶……などではない。
「あ・さ・ぎ・り」
やめて。やめてやめて。
みんな「朝霧」を強調したいだけ。
私に挨拶する気なんてさらさらない。
どいつもこいつも見下したように笑いやがって。
こんなやつらに…なんで!
黙って席に着く。
と言う訳にはいかなかった。
いつものことだ。
ご丁寧に、机も椅子もビショビショ。
おまけに花瓶に花まで生けてある。
いつものこと。いつものこと。
悔しい。
机には、大量に付箋が貼られている。
マジックで直接書かないところが陰湿だ。
でもきっとマジックで書いてあったとしても、私は必死で消すだろう。
先生らにバレだって、面倒くさいだけだ。
_________しょうがないことなんだ。
理沙は表情一つ変えず、雑巾を取りに行くと慣れた手つきで片付け始めた。
付箋を剥がす。
≪死ね≫
≪消えろ≫
≪カス≫
≪バカ≫
≪ブス≫
お決まりの文句。
思わず溜息がでそうになったけど堪えた。
いつものこと。
花瓶をどかす。
するとその下には糊でガチガチに貼られた紙。
太いペンでひたすら大きく、文字が書いてあった。
≪犯罪者≫
____そう、仕方ないことなんだ。
心を覆う氷がピシッと音をたてた気がした。
いつものことだから。
気にするな。
クラスメートの談笑はどんどん大きくなっていった。
________これが、私の日常。