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  作者: 水沢 すず
第1話 日常
1/12

理沙

初めての投稿です。

小説を書くのは初めてなので、アドバイスや感想など、コメントをくださると嬉しいです❀.(*´◡`*)❀.

容姿端麗で好かれる。


才能をもてはやされる。



特別なものをもっていたら、それはその人にとってプラスとなる。


誰もが、少しでも綺麗にしようとする。


これができたら、あれができたら、と欲をもつ。


''天は二物を与えず''なんて言葉があるけど、それを都合のいいように使う。



「天は二物を与えずっていうじゃない。私はあれができるからいいのよ。」



「天は二物を与えずとか嘘ばっかり。二物も三物も五物も与えられてるよねあの人って。」



みんな、みんな、特別なものが欲しい。


特別なものをもっている人を羨む。


自分にないものをもっている人に近づきたい。






____________そう思うのって、ある条件の下でしか成り立たないって知ってた?



その条件とは俗にいう''普通''であること。


なんの肩書きももたない人であること。


自分は自分でしかない人であること。




____________罪に縁がない人であること。












朝。それは必ずやってくる。


いつもと変わらない日々。


いつも。いつも。いつも。いつも。


カーテンから差し込む日差しが眩しい。


ゆっくりと布団をめくる。


最近肌寒くなってきた。


もうじき冬が来る。寒いのは苦手だ。


時計に目をやる。5時50分。


一つ大きな伸びをして、洗面所に向かった。


洗面桶に水を入れる。


蛇口からでる水の音が響く。


音が冷たい、静かな空気の中に広がってゆく。


手で水をすくう。


水が冷たい。


目がさめた。


タオルで顔を拭く。


鏡を見る。


極力、短い時間で。


寝癖のついた髪の毛だけを整える。


幸いにも、私の髪の毛は癖のないまっすぐなストレート。


今日もきれいにまとまっていた。


すぐに鏡から目をそらす。


ブラシでさっと髪をとく。


メガネをかける。


マスクをつける。


別に、目が悪い訳でも風邪をひいている訳でもない。


……厨二病って訳でもない。


自分の顔が嫌いなだけ。


自分の顔なんて見たくない。


理沙は大きな溜息をついた。


白く透き通るような肌。


スッと整った鼻。


薄い唇。


それらはマスクの陰に身を隠した。


ツヤのある綺麗な黒髪で顔を隠す。


見えているのは、ダテメガネから覗く二重の大きな瞳。


理沙は制服に着替え、朝食も食べずに鞄を手にとった。



「行ってきます。」



小声でそう呟くと、静かにドアを閉め学校へ向かった。






通学は電車だ。


駅までは田んぼ道をずっと歩いていく。


早朝の日差しに照らされて、さらさらと稲が揺れる。


理沙は風に吹かれて波うつ稲を見るのが好きだった。


田舎にある小さな小さな駅。


そこには古い電車がやってくる。


基本一両編成だが、この日は二両編成だったので少しだけ気分があがった。


理沙は決まって一番端の窓側の席に座る。



カタン、カタン………



一定の心地よいリズム。


電車のこの空間が、理沙の一番幸せなひと時。


20分ほど乗ると、理沙が住む田舎町の駅の30倍の大きさはある駅につく。


ここで八両編成の電車に乗り換え、5分ほど乗ったところが学校の最寄駅だ。


電車を降りる。


駅の周りは建物が立ち並び、通勤・通学で人が溢れている。



''息苦しい''



常々そう思う。


顔を伏せる。


目が合わないように、顔を見られないように。


駅へ向かう人をすり抜けすり抜け、丁度5分歩いたところが学校だ。


気が重い。


いつものことなのに。


心臓に鉛を乗せられているようだ、といつも思う。


理沙の教室は1ーD。


廊下の一番奥にある。


教室に行くまでにいくつか他の教室を通るが、まだ時間は早く人が少ない。


なのに。


理沙の教室だけは人が多い。


クラスメートは楽しそうに談笑していた。


それが見えた途端、理沙の足は更に重くなる。


鎖が。鎖が。


私の足を引っ張らないで。


鉛が重い。


助けて……。


でも決して、表情は変えない。


心がどれだけ嘆こうが、顔は泣かない。


表情を変えるな。


氷になれ。


冷たい、冷たい、芯まで冷えた氷。


鉛のようになんの温かみももたずに。


冷やせ。


心に蓋をしろ。


心を凍らせろ。





『ガラッ』





一瞬静かになる教室。




「おはよ、朝霧さん」



「朝霧さん!」



「朝霧おはよー」



「おう!朝霧!」



次々に飛び交う挨拶……などではない。




「あ・さ・ぎ・り」




やめて。やめてやめて。


みんな「朝霧」を強調したいだけ。


私に挨拶する気なんてさらさらない。


どいつもこいつも見下したように笑いやがって。


こんなやつらに…なんで!


黙って席に着く。


と言う訳にはいかなかった。


いつものことだ。


ご丁寧に、机も椅子もビショビショ。


おまけに花瓶に花まで生けてある。


いつものこと。いつものこと。


悔しい。


机には、大量に付箋が貼られている。


マジックで直接書かないところが陰湿だ。


でもきっとマジックで書いてあったとしても、私は必死で消すだろう。


先生らにバレだって、面倒くさいだけだ。



_________しょうがないことなんだ。




理沙は表情一つ変えず、雑巾を取りに行くと慣れた手つきで片付け始めた。


付箋を剥がす。



≪死ね≫


≪消えろ≫


≪カス≫


≪バカ≫


≪ブス≫


お決まりの文句。


思わず溜息がでそうになったけど堪えた。


いつものこと。


花瓶をどかす。


するとその下には糊でガチガチに貼られた紙。


太いペンでひたすら大きく、文字が書いてあった。





≪犯罪者≫





____そう、仕方ないことなんだ。


心を覆う氷がピシッと音をたてた気がした。


いつものことだから。


気にするな。






クラスメートの談笑はどんどん大きくなっていった。







________これが、私の日常。

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